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今まで測れなかった水蒸気のエネルギーを計測するセンシングシステム

乾き度センシングシステム

プラントや工場などでは、蒸気が熱エネルギーとして広く活用されています。そのエネルギー効率を左右するのが蒸気の質。蒸気の質は「乾き度」という指標で表されます。これまでは乾き度を正確かつ手軽に測ることは、極めて困難と言われてきました。アズビルは蒸気と水とでは光を吸収する波長が異なる性質に着目し、配管を流れる蒸気流に近赤外光を当てて、観測された吸光特性から乾き度を求める手法を開発しました。

背景・ニーズ

蒸気の質を表す、手軽で正確な測定手段が存在しなかった

ボイラーで作り出した高温・高圧の蒸気は、産業において暖房・給湯、発電、加熱・殺菌など様々な用途で活用されています。媒質のH2Oが調達しやすく、また、蒸気から液体へと変化する際に発生する「潜熱」(せんねつ)を利用するためエネルギー効率が高いという特徴があります。

蒸気システムでは、熱交換設備などで気相の飽和蒸気を液相の飽和液に変化させて、熱エネルギーを効率的に取り出しています。熱交換設備に到達する前に配管などの損失によって飽和蒸気の一部が飽和液に戻ってしまうと、その分の潜熱が失われます。この場合、顕熱しか利用できなくなるため、エネルギー効率が大幅に低下します。そのためボイラーで作った飽和蒸気を、いかに安定的に設備まで届けるかが課題の一つになっています。

蒸気に含まれる飽和蒸気の割合は大きい方が望ましく、それが「質の高い蒸気」ということになります。質の高さの度合いは「乾き度」(dryness または quality)という指標で表され、次のように定義されています。

乾き度 = 飽和蒸気の質量/(飽和蒸気の質量+飽和液の質量)

乾き度は0から1の範囲で表されます。蒸気の供給では、1(配管内すべてが飽和蒸気)が理想です。「乾き度」とはH2Oが液体ではなく、蒸気の状態にある度合いを意味します。つまり、一般に使われる空気の乾燥度合い=湿度*とは異なります。

乾き度は蒸気の質を測る重要な指標です。システムの管理以外にも、蒸気を利用した設備や工程の安定化、省エネルギーの推進などに有効です。ただこれまでは、乾き度を直接かつリアルタイムに測定するのは極めて困難、というのが業界の常識でした。唯一、「絞り熱量計」という装置が乾き度の測定に使用されていますが、設置には配管の分岐が必要なため、主流蒸気に影響を与えてしまいます。さらに、リアルタイムで測定できない、大気圧に近い蒸気は測定できない、測定の安定性が悪いなど、多くの問題も指摘されています。

※湿度は、空気が含むことができる最大の水蒸気量に対して実際に含まれている水蒸気の割合を表すものです。

蒸気を利用したエネルギーシステムの用途と乾き度の有用性

湿り蒸気の市場と乾き度

開発のポイント

蒸気と水とで異なる吸光特性に着目。吸光分析法を応用した測定手法

アズビル株式会社は、水が飽和蒸気と飽和液の状態とでは光を吸収する性質が違うことに着目し、蒸気乾き度センシングシステムを新たに開発しました。

一般に気体や液体は光の特定の波長を吸収する性質を持っています。そのため、気体や液体を通過した光のスペクトル(波長の強度の分布)を調べれば、物質の種類や量を推測できます。物質の吸光度は、物質の濃度と光路長に比例するため、光路長が既知であれば、物質を透過した光のスペクトルを調べて濃度を求めることができます。

H2Oの場合、蒸気の状態と液体の状態とでは、特に近赤外領域において吸収スペクトルが異なることは以前から知られていました。飽和蒸気または飽和液に特定の光を当てて透過光のスペクトルから吸光度を求めれば、それぞれに含まれるH2O分子の濃度が分かります。濃度を換算すると飽和蒸気または飽和液の質量が得られ、結果として乾き度が算出できると考えたのです。

センシングシステムの原理と導出アルゴリズム

まず、概略しか知られていなかった飽和蒸気、および飽和液における近赤外領域での吸収スペクトルの詳細を明らかにしました。また、配管内の蒸気の挙動も十分には知られてはいなかったため、実験設備を作って水平配管および垂直配管での流れの様子を明らかにしました。

それぞれの吸光特性から、飽和蒸気にも飽和液にもほとんど吸収されない波長(リファレンス光)と、飽和液に吸収されやすい波長(プローブ光)を選択し、これら2種類の光を用いたセンシングシステムの原理と導出アルゴリズムを開発しました。

蒸気配管設備とセンシングシステムの妥当性

乾き度・流量・圧力を任意に調整できる蒸気配管設備を用い、本センシングシステムの妥当性を検証しました。実験の結果、圧力が0.5MPaおよび0.75MPaにおいて、流量による乾き度指標との間に明らかな相関が得られ、本方式の妥当性が確認できました。

評価用の蒸気配管設備

評価用の蒸気配管設備

成果と今後の展望

実用化に向けてフィールドテストを加速

アズビルは吸収スペクトルを用い、蒸気の乾き度をリアルタイムかつ正確に測定する蒸気乾き度センシングシステムの原理を開発。試作を通じて妥当性を検証しました。配管の分岐を必要とする従来の絞り熱量計とは異なり、インラインでの設置が可能です。本方式のリアルタイム測定は、これまでの常識を覆すことができると考えています。現在、実用化を目指し、フィールド実験を進めています。

配管内蒸気の乾き度が見える化できれば、蒸気を活用したエネルギーシステムのロスが把握しやすくなり、省エネルギーへとつながっていきます。アズビルは世界の蒸気システムのエネルギーロスを低減すべく、「乾き度の正確かつリアルタイムでの測定は不可能」という業界の常識の打破に引き続き取り組んでいきます。

azbil Technical Review

蒸気乾き度センシングシステムの開発 (PDF/1,706KB)


「潜熱」はなぜエネルギー効率が高いのか?

飽和状態の蒸気には二つの状態があります。飽和蒸気(気相、気体)と飽和液(液相、液体)です。蒸気システムで使われるH2O をはじめとして、物質は相が変化するときには吸熱または発熱が発生します。H2O の場合、液相から気相に変化させるには、1気圧のとき1kgあたり2258kJ(キロジュール)が必要です。涼を求めて夏に行われる打ち水で周囲の気温が下がるのは、相変化によって吸熱が起こるのが理由です。逆にH2Oが気相から液相に変わるときには、1気圧のとき蒸気1kgあたり2258kJの発熱が生じます。

こうした相の変化に必要なエネルギーを「潜熱」と呼びます。蒸気システムでは1気圧のとき、蒸気1kgあたり2258kJの熱エネルギーが利用できることになります。

一方、液体または気体の状態の温度エネルギーを「顕熱」(けんねつ)と呼びます。顕熱は潜熱に比べて小さく、100℃のH2Oが持つ熱エネルギーは1気圧のとき418kJに過ぎません。潜熱を使った方がより多くのエネルギーを利用できることが分かります。

潜熱と顕熱

潜熱と顕熱