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気流(風量・風向)がより快適な空間を創出する新発想の自動空調制御システム

セル型空調システム

「人を中心としたオートメーション」を掲げるアズビルは、快適なオフィス空間の実現を目指して、オフィス空間をセルという小さな単位(約25m²)に区切って風量や風向を制御するセル型空調システム ネクスフォート™を開発しました。風量と風向で人の「温冷感」に作用するとともに、「涼しめ」または「暖かめ」といった設定を利用者が操作できるようにすることで自ら調節したいという要望に応え、空調に対する満足度の向上を実現しています。

背景・ニーズ

空調制御の改善が、オフィスの快適性アップと業務効率向上に不可欠

温度、湿度、明るさ、騒音など、オフィスの快適性を左右する環境因子の中で、比較的クレームとして挙がりやすいのが空調温度です。温度の感じ方は人によって大きく異なるため、平均的には快適な温度設定でも暑いと感じる人と寒いと感じる人がどうしても出てしまい、総務部門やビル管理会社などに苦情や不満が寄せられることも少なくありません。

実際に欧州の業界団体であるREHVA(Federation of European Heating, Ventilation and Air Conditioning Associations、欧州の空調・換気設備に関する学協会)は、オフィス空間の温度が適切ではない場合に執務能率が低下するとの研究結果を発表しています[*1]。しかし、オフィス空調は通常はフロア単位あるいはゾーン単位で温度を設定する構造になっているため、個人の体感に合わせて快適性を提供することは実質的に困難でした。

こうした課題に応えるべく、ビルのエネルギーマネジメントで豊富な実績を誇るアズビルは、オフィス空間の快適性の向上と省エネルギー性とを両立するセル型空調システム ネクスフォートを開発しました。

[*1] REHVA Guidebook No.6 "Indoor Climate and Productivity in Offices-How to integrate productivity in life cycle cost analysis of building services"、(邦題「オフィスにおける室内気候と知的生産性 ─知的生産性評価を組み込んだライフサイクルコスト分析―」2008年、空気調和・衛生工学会訳編)

開発のポイント

オフィス空間をおよそ25m²で分割し、適切な温冷感で満足度を向上

ネクスフォートは80m²~100m²を一単位として、ビル用マルチエアコンを導入するような中小規模のオフィスビル、あるいはテナントビルを対象にした空調システムです。天井隠蔽型ビル用マルチエアコン、セル風量分配ユニット、体感気流切替機能付き吹出口、コントローラ、および設定器で構成されています。特長は次の3点です。

  1. セル単位空調の導入

    オフィス空間を4~6人の執務空間に相当するおよそ25m²のセルに分割し、さらに温冷感という概念を導入。該当するエリアにいる人が最適な温冷感を感じるよう、セルごとに風量および風向を制御するセル型空調方式を新たに開発しました(図1、図2)。これにより、例えば日差しによって暑くなりがちな窓際だけを冷房するなど、細かい単位での制御が可能になり、快適性の向上と省エネルギーが両立します。

    具体的には、ビル用マルチエアコンに、セル単位で風量を調節する独自のセル風量分配ユニット(ダンパ)と、体感気流切替機能付き吹出口を組み合わせて、セル単位で制御します。吹出口は天井に沿って広がる「拡散気流」と、斜め下方向に広がる「斜め気流」の切り替えが可能です。独自開発の「斜め気流」は心地よい気流を感じる空調を実現します。

    図1. セル型空調システムの全体図

    図1. セル型空調システムの全体図

    図2. 独自に開発したセル風量分配ユニットと体感気流切替機能付き吹出口

    図2. 独自に開発したセル風量分配ユニットと体感気流切替機能付き吹出口

  2. 操作の開放と満足感の向上
    図3. 設定操作を開放して、環境選択権により空調満足度を向上

    図3. 設定操作を開放して、環境選択権により空調満足度を向上

    各セルの設定操作を利用者に開放して、いわゆる「環境選択権」[*2]および「自己効力感」[*3]を与えるとともに、設定温度を変えることなく風量あるいは風向のみの変化によって適切な温冷感を心理的に生じさせます。省エネルギーをキープしながら空調の満足感を高める工夫です。

    一般に、空調の操作パネルは管理者のみが操作できるようになっています。設定が適切ではない場合、オフィスで働いている人は与えられた環境で我慢を強いられることになりかねません。

    ネクスフォートではセル単位での空調設定を、誰でも操作できるようにしています。そのため、自分の意思で環境を設定する環境選択権の下で自己効力感が高まり、空調に対する不満は大きく低減します(図3)。

    また、従来のように数字による温度設定ではなく、現状よりも「涼しくしたい」、あるいは「暖かくしたい」といった相対的な感覚設定を採用しました。併せて、そうした設定に応じて風量や風向(水平または斜め)を調整し、温度設定を変えずに温冷感の変化を感じさせるようにしました。これにより快適性を向上させながら、省エネルギーも実現します。なお、風量や風向の調整だけでは不十分という場合は、第二段階として実際に温度設定を変更して対応します(図4)。

    図4. 原則として風量と風向のみで快適な温冷感を与え、必要に応じて温度設定を変更

    図4. 原則として風量と風向のみで快適な温冷感を与え、必要に応じて温度設定を変更

  3. エコモードによるさらなる省エネルギー推進

    省エネ運転のノウハウを取り入れた「エコモード」を開発しました(図5)。外気温が高い夏は、26°Cから28°Cの範囲で運転温度を周期的に変化させるという、温冷感を損なわずに室温を緩和する「ゆらぎ制御」によって省エネルギーを実現。外気温が低い春と秋においては、外冷気だけで冷房する「外気送風運転」の時間を増やし、省エネルギーを図ります。

    図5. 温度をゆらぎ的に変化させて室温を緩和し省エネ運用を実現するエコモードを搭載

    図5. 温度をゆらぎ的に変化させて室温を緩和し省エネ運用を実現するエコモードを搭載

    以上のように、(1)セル単位のきめ細かい制御によって、冷やし過ぎの箇所を少なくする、(2)空調機の設定温度を変えることなく風量や風向の調節によって温冷感に変化を与える、(3)ゆらぎ制御による省エネ運転、外気送風運転によるエコモード搭載、という3つにより、当社の試算では、オフィス面積が5,000m²の場合、年間約90万円の電気代節約を見込んでいます。

    [*2] 環境選択権:温度などの環境条件を自分の意思によって選ぶ権利を持つことによって、ほかから環境条件が与えられたときと比べて満足度が向上するという、工学院大学建築学部教授の野部達夫氏が提唱する考え方。

    [*3] 自己効力感:自分で行動し達成し得た経験(達成経験)などを表す心理学における用語。

成果と今後の展望

人を中心とした空調で快適な環境とビルの価値向上を

アズビルはネクスフォートの効果を体感できるショールーム ネクスフォートプラザ を東京都大田区西蒲田に開設。また、同拠点のオフィスエリアにもネクスフォートを導入し、従業員を対象に実証評価を進めています。現在、得られている評価結果では空調に対する満足度は高く、温度設定をめぐるクレームは出ていません。2015年8月に発売したネクスフォートは、まず、ビル用マルチエアコンを採用する新築の中小規模ビルへの導入を念頭においています。そして、今後は既設のダクトにも装着可能な風量調整機能付き吹出口の開発、大規模ビルを対象としたセントラル空調への適用、スマートフォン等からの設定操作を実現するアプリケーションの開発など、対象範囲の拡大や操作性の向上を図っていく予定です。

以上、説明したようにアズビルのネクスフォートは、セルや温冷感といったコンセプトを通じて、働く人に最適な環境を提供するとともに、ビルの価値を高める新たな空調システムです。「人を中心としたオートメーション」を掲げるアズビルは、これからも人を中心とした空調システムの開発に取り組んでいきます。

ネクスフォートを体感できる ネクスフォートプラザ。天井裏のダクト配管を見ることができるショールーム(右)、煙発生装置で「拡散気流」と「斜め気流」の空気の動きが一目で分かる(左)

空調全体をシミュレーション。業界に先駆け連成環境を実現

アズビルでは、ネクスフォートをはじめとする次世代空調の研究開発に取り組んでおり、その一環として、空調系全体をコンピュータ上に再現するシミュレータの開発を進めています。

今回、早稲田大学基幹理工学部の齋藤潔研究室と共同研究を実施。ビル用マルチエアコンは汎用エネルギーシステム解析シミュレータ「Energy flow+M」(早稲田大学)、室内の風流や温度分布などは市販の熱流体解析ツール「FlowDesigner」(アドバンスドナレッジ研究所)、全体の制御モデルは市販のモデル化ツール「MATLAB/Simulink」(The MathWorks社)を採用し、それぞれを連成(れんせい)[*4]させたシミュレーション環境を構築しました。なお、こうした連成環境の実装は、空調業界においても先進的な取組みと考えています。

このシミュレーション環境を使ってネクスフォートのセル型空調をモデル化しシミュレーションを実行。直射日光のあたる窓際が37℃、部屋の隅が33℃となるような室内環境を初期状態として(図6(a))、16°Cの冷気で180分間冷房を行ったケースでは、風量一定の従来型空調(図6(b))に比べて、セル型空調(図6(c))を用いて窓側の風量を増やした方が室内温度の均一化に効果があることが確認できました。すなわち、セルという小単位によってきめ細かい制御が実現できることが分かります。

本シミュレーション環境は ネクスフォート の開発にも活かされており、システムの基準となる制御パラメータ(PIDパラメータ)をシミュレーションで検討し、それをもとに実機で試験し、実際の制御ロジックに反映しています。

(a)初期状態

(a)初期状態

(b)従来型空調

(b)従来型空調

(c)セル型空調

(c)セル型空調

図6.シミュレーションによるセル型空調の効果

[*4] 連成:2つ以上の物理的な現象を精度高く把握することを目的に、一方のシミュレータの出力を他方のシミュレータの入力とするような解析手法。

azbil Technical Review

中小規模オフィスビルの空調ニーズに応えるセル型空調システムの開発(PDF/1,768KB)