月刊「計測技術」2022年1月増刊号

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『生産設備の安定操業・保全力強化を支援するクラウド型バルブ解析診断サービス』に関しての記事が月刊「計測技術」に掲載されました。

報道記事:月刊誌「計測技術」 2022年1月増刊号

生産設備の安定操業・保全力強化を支援するクラウド型バルブ解析診断サービス

<バルブの健全性診断をクラウドで実現する“Dx Valve Cloud Service”>

はじめに

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記事(イメージ)

生産設備やボイラー等、各種設備に使用されるバルブは、それら設備のプロセス量(流量・圧力・温度・液位など)を調節する機器であり、プロセス制御では欠かすことのできない重要な機器である。特に生産設備に使用されるバルブは、生産設備ごとに異なったプロセス条件(高温や低温、高圧や低圧)で稼働しており、バルブが発端となるプロセス異常が発生すると生産設備の停止・品質低下や事故・災害につながる危険性を持ち合わせている。ユーザーは生産設備を安定操業させるため、バルブの自主的な検査やメンテナンスに取り組まれている。昨今では、設備老朽化に伴うメンテナンス量の増加や、優れた技能を持った保全員の引退などもあり、十分に技能を持つ人員を確保することが難しくなりつつある。それらの制約を補うために診断ツールを導入しメンテナンスノウハウの蓄積や業務効率化を目指している。

しかし診断ツールを導入してもそこから得られたバルブの稼働データを十分に活用できていないことが課題となっているケースが多くみられる。その原因は、診断ツールを活用する人員の確保ができないことや、診断ツールで得られた情報に対し、その内容を把握し対処するノウハウの不足によると考えられる。

そこで当社では、バルブメーカーとして保有する豊富なノウハウで稼働データを解析し、ユーザーでの解析を不要にすることで、これら課題を解決する“Dx ※1) Valve Cloud Service”を提供している。

Dx Valve Cloud Serviceは、クラウド環境でバルブの健全性診断結果を提供しており、本稿ではそのサービス内容と、具体的な診断事例を紹介する。

※1 「Dx」は医療分野で「Diagnosis(診断)」の略称として使われており、診断を意味している。バルブの健全性(健康状態)を把握することによって、常にバルブを安全にお使い頂く事をこの言葉に込めている。

1.Dx Valve Cloud Serviceとは

当社バルブ解析診断サービスは、当社製スマート・バルブ・ポジショナ※2) (以下、スマートポジショナ)で計測・演算されるバルブの作動に関わる様々なパラメータを、調節弁メンテナンスサポートシステムValstaff™ (以下、Valstaff)で収集し、Valstaffに蓄積されたバルブ稼働データを、当社ノウハウをもとに作り上げたバルブ稼働データ解析技術で解析し、バルブの健全性を評価した結果をユーザーへ提供するサービスである。

※2 形AVP202、302、307及び形AVP701、702

それにより、診断ツールから得られたバルブ稼働データを、ユーザーが解析し、異常有無を診断すること無く、バルブ異常の早期発見や、異常進行予測を確認することが可能となり、生産設備の安定化や保全力強化に貢献する。

バルブ解析診断サービスは複数の提供形態があるが、Dx Valve Cloud Serviceは、バルブの健全性を評価した診断結果をクラウド環境で利用するサービスである。Valstaffに蓄積されたバルブ稼働データをクラウドに自動送信、解析することにより、ユーザーは「必要なトキに」「必要なカタチで」「必要なシーンで」、診断結果をクラウド環境で確認することができる(第1図)。

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第1図(記事より)

2.Dx Valve Cloud Serviceによるバルブ診断

Dx Valve Cloud Serviceは、グローブ弁、複座弁、ケージ弁、ダイアフラム弁、偏心軸回転弁、バタフライ弁、ボール弁の計7種類のバルブで提供可能である。これらバルブの診断可能事象を以下①~⑦に示す。

① スティックスリップ(固着・かじり)
② 内弁損傷、詰まり
③ ポジショナへの一定入力値に対するハンチング動作
④ 鈍化現象(固着・かじり発生前の不調状態)
⑤ 流体差圧に対する性能不足
⑥ 供給空気圧力不足
⑦ ポジショナ空気回路診断
※④~⑦については、形AVP701、702で対応

Dx Valve Cloud ServiceではWEBコンテンツで診断結果を提供している。
WEBコンテンツの「総合判定最新(割合)」、「総合判定推移」、「診断結果一覧」、「詳細診断結果」の概要をそれぞれ説明する(第2図)。

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第2図(記事より)

 総合判定最新(第3図)は全バルブ診断台数における最新の各判定割合を示している。また、総合判定推移(第4図)は、各判定結果の過去から現在の件数推移を示している。この二つの図で、ユーザーは診断対象バルブ全体の状況把握と、その状態変化の推移が一目で確認できる。

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第3図(記事より)
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第4図(記事より)

診断結果一覧(第5図)は異常傾向にあるバルブを抽出し、プラント内に存在する数百台のバルブの中から、各判定結果「開放推奨」「詳細確認」「経過観察」「良好」を提示し、注視すべきバルブの把握を可能としている。

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第5図(記事より)

詳細診断結果(第6図、第7図)は、注視すべきバルブの異常発生事象が、異常部位、異常開度帯域(形AVP701、702のみ)、異常傾向推移、異常判定データとして示される。これら異常発生事象の詳細を把握することで、装置運転に対する影響度を推定し、具体的な整備時期や必要交換部品検討を含めたメンテナンス計画が立案に役立てることができる。

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第6図(記事より)
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第7図(記事より)

3.クラウドサービスのセキュリティ

生産設備で使用するクラウドサービスの必要要求事項としてセキュリティの確保があるが、本サービスでは、守るべき領域(外部からの侵入に対し、制御系を守る)を定め、片方向通信機器、通信事業者の閉域網、ID・パスワード管理で高信頼セキリティを実現している(第8図)。

また、情報セキュリティに関しても高い信頼性を確保したクラウドサービスを提供するため、ISMS ※3)及びISMSクラウドセキュリティ※4)の国際規格認証を取得した当社組織「クラウド運用センター」で運用・監視を行っている。

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第8図(記事より)

※3 ISMSとは、ISO/IEC27001:2013、JIS Q 27001:2014に準拠した情報マネジメントシステムで、社会インフラとして不可欠なITシステムやネットワークを、標的型攻撃やランサムウェアなどによる脅威に対して適切にリスクアセスメントを実施し、企業における総合的な情報セキュリティを確保するしくみのこと。

※4ISMSクラウドセキュリティとは、ISO/IEC27001:2013の取得を前提に、クラウドサービスに関する情報セキュリティ管理策のガイドライン規格で、より安全なクラウド環境を構築し、セキュリティ問題のリスクを軽減する基準。

4.バルブ診断事例

バルブ解析診断サービスを利用頂いている化学ユーザーで、ボイラー設備で非常に重要なプロセスで使用されているバルブの異常を診断で検知し、実際の開放点検結果と異常内容が一致した事例を二つ紹介する。

(1) 形式:当社製HPC形 サイズ:3B

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第9図(記事より)

診断の結果、トリムとバルブシャフトが「開放推奨」と診断され、バルブシャフトの摺動性に異常がある可能性と、トリム詰まり発生の可能性が確認された(第9図)。

バルブシャフト摺動性の異常に関しては、摺動性の異常を示す指標の一つであるスティックスリッププロットデータ(第10図)でプロットが上昇推移し、閾値(青線)を超えており、プラグステム、ガイド部に摩耗・擦り傷発生、グランド部の硬化が発生している可能性が確認された。

トリムの詰まりについては、ゼロ点開度比較データ(第11図)でゼロ点位置が解析開始から+1%を超えており上昇傾向にあることから、弁座漏洩の要因となるスケール付着の可能性が確認された(閾値初期値は+1%、-3%)。

 

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第10図(記事より)
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第11図(記事より)

これらの診断結果を踏まえ、実際にバルブの開放点検を実施したところ、ガイドリング内壁の摺動傷と内弁のスケール付着が確認された(第12図、第13図)。

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第12図(記事より)
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第13図(記事より)

(2) 形式:当社製HPS形 サイズ:1B

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第14図(記事より)

診断の結果、トリムが「開放推奨」と診断され、トリムに損傷が発生している可能性があり、内弁当たり面の腐食・損傷・減肉の可能性が確認された(第14図)。

この結果を元に、ゼロ点開度データ(第15図)を確認したところ、診断開始初期はゼロ点開度が+1%に点在(赤丸部分)していることから、スケール付着によるゼロ点変動が可能性として考えられることと、時間の経過とともに、ゼロ点開度が-側の閾値(デフォルト閾値は+1%、-1%)を超え、下降傾向にあるのが確認されることから内弁の摩耗による異常発生の可能性があることが確認された。

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第15図(記事より)

これらの診断結果を踏まえ、実際にバルブの開放点検を実施したところ、スケール付着とエロージョンによる内弁摩耗が確認され、ゼロ点開度データとの一致が確認された(第16図、第17図)。

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第16図(記事より)
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第17図(記事より)

これらのバルブはボイラー設備において非常に重要なプロセスで使用されているが、ボイラー設備は、定修後の設備立ち上げ時に蒸気プロセスの変動を、多くの関係者が危惧する中、それを回避すべく運転員の知恵や力量で変動を抑えることで設備を立ち上げている。しかしながら、過去には蒸気プロセスの変動が発生するケースがあり、その要因がバルブに起因するのか、それとも他の要因に起因するのか、原因の究明に至っていなかった。

今回、これらバルブの診断結果では、蒸気プロセス変動の要因となり得る弁内部へのスケール付着や摩耗が確認され、開放点検結果とも一致した。このことから、蒸気プロセスの変動要因となり得る異常を内在したバルブが、TBM(時間基準保全)では定修整備対象外であっても、事前の診断結果により整備対象とすることが可能となった。また、整備対象バルブであっても、開放点検で初めて異常を確認した場合は、交換部品納期等の問題により、その対策を定修期間内に完了することが難しく、未対策のまま次の定修機会で対策を実施する場合がある。このようなケースでも、事前に異常状況を把握し、その対策に必要な部品を準備しておくことで、定修期間中に対策を確実に完了することが可能となる。これらのことから、本ユーザーではバルブ解析診断サービスが、ボイラー設備の安全立ち上げ、安定操業に大いに貢献できると考えられている。

5.今後の展望

現在、本サービスの利用ユーザーは保全部門の方が殆どだが、このサービスを製造部門の方にも利用されることで、より一層の生産設備安定化に貢献できると考えている。そこで、診断結果をより判り易くするためのWEBコンテンツ充実や、診断結果(特に異常時)のメール通知機能等を充実させることを検討している。また、最近では空気圧センサを搭載したスマート・バルブ・ポジショナ形AVP701、702での診断知見が蓄積されつつあり、より高精度な診断を提供できると確信している。

さらに、クラウド環境を活用し、診断結果とバルブに関する運用情報(整備履歴やトラブル事象など)を一元管理することで、ユーザーのバルブ運用管理の更なる効率化、高度化に貢献したいと考えている。そして、海外に関しても、国内マザープラントと海外コピープラントで稼働しているバルブの状態を国内にいながらにして比較・分析・評価ができるようにすることで、ユーザーが海外コピープラントへの支援を柔軟に行える環境を整え、国内外問わず当社のバルブ診断技術をユーザーに提供し、海外の生産設備の安全性向上・保全力の強化にも貢献していきたい。

6.おわりに

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な感染拡大に伴い、感染防止の観点から保全担当者の製造現場への入出制限が行われ、保全担当者にもテレワークが推奨されるなど保全スタイルも大きく様変わりしてきているが、このままコロナ禍以前と同様な保全スタイルに戻る可能性は低いと考える。Dx Valve Cloud Serviceでは、新たな保全スタイルの提案により、バルブに起因となるトラブルの未然防止に努め、顧客の生産設備の安全性向上・保全力の強化に貢献したい。

  • HART®は、FieldComm Groupの登録商標です。
  • Valstaffは、アズビル(株)の商標です。

引用元

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