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Fit to Standard
企業がソフトウェアなどを導入する際、従来のように自社の業務に合わせてシステムをカスタマイズするのではなく、システムの標準機能に自社の業務プロセスを合わせるという考え方。これにより、開発コスト削減や導入期間の短縮が可能となり、業務の標準化による属人化の解消、システムの安定運用も期待できる。
© 林宏之
業務を標準機能に合わせることで、ERP導入における課題を解決
DX*1(デジタルトランスフォーメーション)の必要性が高まる中で、企業向けシステムにおいて重要な位置付けを担っているのがERP(Enterprise Resource Planning)です。ERPは、会計・人事・生産・販売など幅広い業務をカバーし、企業資源である「ヒト・モノ・カネ・情報」を一元管理する仕組みです。生産性向上や経営判断を支援するシステムとして、多くの企業にとって欠かせない役割を担っています。
これまでERPの導入の現場では、「Fit & Gap」と呼ばれる手法が一般的でした。これは、自社の業務プロセスと、ERPの標準機能との適合性を分析し、合わない部分についてはシステムをカスタマイズし、必要に応じて追加機能であるアドオン開発を行って補完するというアプローチです。しかし、この手法では、導入準備にかかる期間の長期化や高コスト、属人化の発生などの課題が生じていました。
こうした背景を受けて、近年注目を集めているのが、「Fit to Standard」という考え方です。従来のように自社の業務に合わせてシステムをカスタマイズするのではなく、ERPベンダーが長年にわたり、多くの企業での活用実績を基に構築してきた標準機能に対して、自社の業務プロセスを合わせるという手法です。近年のERPは、機能が非常に充実しており、標準機能でも多くの業務要件を満たすことができるようになったことが、このアプローチを後押ししています。
業務の標準化を通じて多くの利点をもたらす、持続的運用の有効なアプローチ
Fit to Standardは、業務システムの導入・運用において、従来の方法であるFit & Gapとは異なる多くの利点があります。例えば、適合性の分析やアドオン開発が不要となるため、時間をかけず低コストかつスムーズに導入を進めることができます。また、導入後の運用面においても、特定の担当者しかシステムの仕様が分からないといったことが解消され、属人化を防ぐことができます。これにより、担当者が変わっても安定して管理・運用できる体制が整いやすくなるのです。
さらに、ERPベンダーでは定期的なプラットフォームの変更や、大幅な機能追加を伴う「メジャーバージョンアップ」を行うほか、より短いサイクルでの新機能の追加や既存機能の改善、法改正への対応を含む「マイナーバージョンアップ」を実施しています。こうした定期的なアップデートに対して、Fit & Gapの手法でアドオン開発を行っている場合、バージョンアップ後もそのアドオンが正常に動作するかどうかを、多大な時間とコストをかけて検証しなければなりません。
一方、Fit to Standardでは、標準機能でシステムを構築しているため、アドオンに対する検証作業が不要、もしくは最小限に抑えられます。そのため、ベンダーが提供するバージョンアップや機能改善にも柔軟に対応することができ、速やかに最新機能を業務に取り入れることが可能となります。
標準化により変化に強い組織をつくり、企業の成長につなげる
ただし、Fit to Standardの適用にあたっては、留意すべき点もあります。例えば、企業が独自に培ってきた技術やノウハウ、ブランド、顧客との関係性など、他社との差別化につながる競争領域の業務プロセスまでを、ERPの標準に合わせて変えてしまうことは、自社の強みを損なう恐れがあり、必ずしも得策とはいえません。そのためFit to Standardを導入する際には、競争領域と、業界に共通する汎用的な業務領域(協調領域)を見極め、協調領域に標準機能を適用することが重要です。
また、既存システムをFit to Standardで新システムに置き換える際、例えば操作性の変化などにより、業務担当者やマネジャー、経営層など、社内のステークホルダーに、一定の影響が及ぶことも想定されます。こうした変化が、社員の不満やモチベーション低下につながり、場合によってはシステムが十分に活用されなくなる懸念もあります。このため、システムの移行においては、Fit to Standardに基づいてシステムを構築することの意義をすべての社員にしっかりと伝え、意識の変革を促すチェンジマネジメントに十分な時間をかけて取り組む必要があります。
業務を標準化することは、企業にとって業務品質の向上につながります。手順のばらつきがなくなり、安定した運用によってアウトプットの精度や信頼性が高まるほか、ルールの統一により拠点間・部門間の連携や情報共有もスムーズになります。
こうした取組みは、業務の透明性を高め、組織全体の統制を強化するという点でも効果があり、企業のガバナンス向上にも寄与します。Fit to Standardの導入は、単なるシステム対応にとどまらず、業務の進め方や組織のあり方そのものを見直す契機となり、持続的な成長につながっていきます。
- *1:DX(Digital Transformation)
進化したデジタル技術を浸透させることにより、人々の生活やビジネスモデルをより良いものへと変革すること。