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制御弁と計測機能を一体化し省エネルギーに貢献するバルブ

流量計測制御機能付電動二方弁 ACTIVAL™(アクティバル™)

アズビルは2009年にビル空調システム向けに流量計測制御機能付電動二方弁 ACTIVAL(以下、流量計測制御機能付アクティバル)を開発しました。従来のバルブは開度しか制御できませんでしたが、コンパクトなサイズに流量計測機能を内蔵したことで、空調システムを構成するコイル(熱交換器)の特性に沿った冷温水の流量制御が可能になりました。ビル空調の省エネルギー化とエネルギー消費量の見える化を実現できる機器として高い評価を受けています。

背景・ニーズ

熱交換器の特性を超えた無駄な流量が課題に

省エネルギーへの取組みが様々な領域で進められています。特に、エネルギー消費量の多いオフィスビル、商業ビル、病院、学校などの「業務部門」において、一層の省エネルギーが求められています。

アズビルが着目したのが、ビル空調システムの搬送動力の省エネルギー化です。同システムでは、冷凍機やボイラでつくった冷水または温水を循環させ、コイル(熱交換器)で冷気または暖気に変えてフロアやゾーンに供給します。その際、コイルの特性上、ある量以上の冷温水を流しても熱交換能力は頭打ちとなって、過流量の部分が無駄になることが指摘されていました(図1)。その改善のために新たな機能を搭載したバルブの開発に着手しました。

コイルの特性に合わせて冷温水の流量を精緻に制御するのが理想ですが、従来のバルブは開度(開き度合い)でしか制御できませんでした。さらに流量制御のために流量計を空調機ごとに追加しようとすると、配管が長くなり設置スペースの問題や、費用がかさむといった問題が生じます。

こうした問題を解決するために開発したのが、流量を高精度に計測し、制御する流量計測制御機能付アクティバルです(図2)。バルブ、アクチュエータ、および流量計測制御機能をコンパクトに一体化したのが特長です。

図1. セントラル空調システムの構成(左)と、空調機コイルの熱交換能力(右)

図1. セントラル空調システムの構成(左)と、空調機コイルの熱交換能力(右)

図2. アズビルが開発した流量計測制御機能付電動二方弁 ACTIVAL(左)には、海外向けの大容量空調に対応した大口径タイプ(右)もある。流量や弁の開度を示す表示部もオプションとして用意している

開発のポイント

開度の全域で高精度な差圧計測を実現

流量計にはいくつかの計測方式がある中で、流量計測制御機能付アクティバルでは差圧式を採用しました。配管内部に穴の開いたプレート(オリフィスと呼ぶ)を流れに対して直角方向に置くと、オリフィスの上流側圧力より下流側圧力が低くなり、両者の圧力差からベルヌーイの定理を用いて流量を求めるというのが原理の概略です。

流量計測制御機能付アクティバルの開発にあたっては、バルブの長さを変えずに流量計測機能を搭載することを目標に掲げ、流量を調節する絞り部(プラグ)前後の圧力差を利用することにしました。そして、開発の際に次の3点の技術的な課題を解決しました。

まず1つは「プラグの上流側圧力を安定的に計測する」という点です。そして2つ目は「プラグの下流側圧力を安定的に計測する」という点。3つ目は「プラグの開度に応じて変わる流れの特性を正確に把握する」という点です。

  1. プラグ上流側の圧力計測

    ビル空調では配管の引き回しによりバルブの前後にエルボやレデューサなど直管以外の管が設置される場合があります。そこで、その影響を流体解析[*1]を用いて確認したところ、例えば、バルブの直前にエルボ(90度曲がり)管が接続されていた場合、バルブの入り口で最大4kPa程度の圧力ムラが生じることが分かりました(図3)。

    [*1]流体解析:流体の方程式を数値的にコンピュータ上で解くことにより、空間内の流れの状態を求めること。

    図3.上流側圧力計測部

    図3.上流側圧力計測部

    一般的な流量計では、上流側のエルボなどによる流れの不均一さの影響を排除するために、管径のおよそ5倍の長さの直管を前段に設ける必要がありますが、配管が長くなってしまい、施工などに制約が生じます。アズビルは、管内部の複数点の圧力を平均化すれば流れを整えなくても精度の高い計測ができると考え、バルブ入り口の1カ所で測るのではなく、4カ所に圧力計測用のポート(小穴)を設けて、内部でポート同士を結合して圧力を平均化する構造を採用しました(図4)

    このような構造を持つバルブを試作して直管を組んだ場合の流量とエルボを組んだ場合の流量を比較したところ、計測誤差は0.7%以下となり、この構造が有効であることが確認できました。

    図4.上流側圧力計測部の構造

    図4.上流側圧力計測部の構造

  2. プラグ下流側の圧力計測

    バルブの流れは開度によって変化するため、流体解析を適用し、開度を変えたときのバルブ内部の流れの様子を確認しました(図5)。その結果、開度を変えても圧力が流れの影響を受けない領域「死水域」がプラグの裏側にあり、安定的にプラグの下流側圧力を計測できるポイントとして着目しました。

    図5.下流側の圧力計測部

    図5.下流側の圧力計測部

  3. バルブの開度に応じたCvvテーブル

    通常の差圧流量計はオリフィスの大きさ(開口面積)は変化しませんが、バルブのプラグをオリフィスに見立てようとすると、開度によってオリフィスの大きさが実質的に変化することになり、差圧が計測できたとしてもそのままでは流量に変換することができません。

    そこで、液体の流れやすさを表す容量係数(Cvv)を開度ごとに実測したCvvテーブルをあらかじめ用意しておき、図6に示すアルゴリズムに基づいて、開度に応じた演算を行って流量を求めるようにしました。

    図6. 流量計測制御機能付アクティバルにおける流量計測アルゴリズムの概要

    図6. 流量計測制御機能付アクティバルにおける流量計測アルゴリズムの概要

    また、部品の寸法ばらつきや組立ばらつきがCvvに影響し、流量計測精度に影響します。安定した高い流量計測精度を確保するため製品出荷時には実流量検査を行い、これらのばらつきを補正し、精度保証を行っています。

以上のような工夫によって、従来のバルブアクチュエータと同様のサイズでありながら、バルブ開度範囲全域において精度の高い流量計測を実現しています。

成果と今後の展望

アズビルのオフィス棟で冷温水ポンプの省エネ効果を実証

アズビルでは自社の藤沢テクノセンター(神奈川県藤沢市)の空調設備に流量計測制御機能付アクティバルを導入し省エネ効果の実証実験を行いました。

同設備のコイルは毎分80リットル付近で熱交換性能が頭打ちになる特性がありますが、バルブ開度のみで制御していた従来は毎分100リットルを超える冷温水が流れることがあり、過流量分が無駄になっていました。

実験において流量計測制御機能付アクティバルに毎分80リットルを上限値として設定し運用したところ、コイルの性能を超えて冷温水を供給する必要がなくなったことで、冷温水ポンプの電力を、暖房時に8%、冷房時に12%、それぞれ削減することに成功しました(図7)。

図7. アズビルの藤沢テクノセンターのオフィスビルにおける流量計測制御機能付アクティバルの省エネルギー実証実験の結果

図7. アズビルの藤沢テクノセンターのオフィスビルにおける流量計測制御機能付アクティバルの省エネルギー実証実験の結果

このように流量計測制御機能付アクティバルを設置することにより、コイルの特性に応じた最大流量を設定するだけで自動的に省エネルギーが実現できるとともに、消費エネルギーの見える化も可能となりました。従来のバルブと同様のスペースで設置でき、省エネルギーの実現によって設置費用も回収できるため、空調システムを手掛ける設計事務所や空調設備会社などから高い評価を得ています。

なお、流量計測制御機能付アクティバルは独創性の高さが認められ、計測自動制御学会から2015年度の「技術賞」を受賞しています。計測制御を強みとするアズビルは、これからも省エネニーズに応える付加価値の高いソリューションの開発と提案に努めていきます。

関連リンク

流量計測制御機能付電動二方弁 ACTIVAL