防爆

爆発を防止すること、また、そのための器具の構造や設計のこと。爆発の危険がある場所で使用する電気機器には、その火花や熱が可燃物に着火しない構造を備えることが必要とされる。

マンガ:湯鳥ひよ/ad-manga.com

ガス爆発の危険がある場所で電気機器を安全に使うために

ガソリンや灯油などの燃料、プラスチックや化学繊維の原料など、原油から生活に欠かせない製品を生産する石油化学プラント。最近は「工場萌もえ」と称し、そびえ立つ蒸留塔や張り巡らされた配管などで形作られた独特の景観を、一つの建築美として鑑賞する人も増えています。

しかしその現場は、水素やガソリン、エチレンなど様々な可燃物を扱うため、常に危険と隣り合わせです。特に警戒すべきものがガス爆発で、火災や建物の損壊を招き、人命を奪う恐れもあるため、設備や配管の保守・点検、緊急時対応のマニュアル整備、作業員の教育など、様々な角度から徹底した事故防止策が講じられています。

その対策の一つが「防爆」です。読んで字のごとく「爆発を防ぐこと」ですが、これに加えて、電気機器が爆発の原因にならないように、機器の発する火花や熱をガスに着火させないという意味も含んでいます。

そもそもガス爆発は、ガス、酸素、着火源が一定条件でそろうと起こります。ガスは単独では燃えませんが、空気中の酸素と一定範囲の濃度で混じり合うと着火可能になります。この状態の空気を「爆発性雰囲気」といい、火花や熱、静電気などの着火源に触れると一気に燃え、急激に気体が膨張することで大きな圧力が生まれます。

爆発事故の防止には爆発性雰囲気をつくらないことが第一ですが、ガスを扱う石油化学プラントで完全に回避することは困難です。しかもプラントの操業には照明やモータ、計器類などの電気機器が欠かせません。そこで電気機器には着火源にならない仕組み、すなわち「防爆構造」を持たせ、爆発性雰囲気の中でも安全に使えるようにするのです。

電気機器の防爆構造にはいくつかタイプがあります。代表的なものが「耐圧防爆構造」と「本質安全防爆構造」です。

耐圧防爆構造は、電気機器を頑丈な容器に入れることで、機器から生じる火花や熱はもちろん、容器に入り込んだガスに着火した際の火炎も閉じ込め、容器外への影響を回避するものです。温度計や流量計、携帯ランプ、地震センサなど多様な機器に適用され、爆発性雰囲気が生まれる可能性 のある場所※1で広く使われています。

爆発性雰囲気が継続的に生じる場所では、本質安全防爆構造の機器が必要とされます。これは電気機器に流れる電流、電圧を小さくし、故障時でも火花や熱が着火するだけのエネルギーを持たないように回路を設計したものです。例えばタンク内の液体燃料の量(液面の高さ)を調べるためのレベルセンサは、本質安全防爆構造を採ることで、蒸発した燃料が充満するタンク内でも着火しません。

防爆規格は国ごとにバラバラ。外国製品の円滑な導入には検定制度のグローバル化が必要

世界的に見ても、工場やトンネルの掘削現場などガス爆発の危険がある場所では防爆機器を使うことが法律で義務付けられています。また安全確保の上で極めて重要なため、所定の規格に満たない防爆機器の使用も禁じられています。日本の場合、「構造規格」「防爆指針2008」※2 のどちらかの規格に基づいて製造され、産業安全技術協会※3が実施する検定に合格した防爆機器でなければ国内で使用できません。

同様に北米では「FM/CSA」、欧州では「ATEX」、中国では「GB」というように、国や地域で独自の規格や検定制度を定めています。各国特有の事情を制度に反映できる一方、外国製の防爆機器を使う場合は、自国と製造国双方の検定に合格しなければならず、スムーズな調達を妨げている面もあります。輸出入の活性化に向けては、各国間で規格を共通化する「IECExシステム」※4の進展が期待されています。

防爆機器は特殊なものだけに、街中ではガソリンスタンドで見かけるくらいです。しかし今後、水素から電気エネルギーを得る燃料電池の普及が進めば、その爆発防止のために身近なところでも目にする機会が増えるかもしれません。防爆はエコや省エネ社会の実現にも欠かせない技術なのです。


※1 爆発性雰囲気が生まれる可能性のある場所
関係法令や通達では、平常時に爆発性雰囲気が存在する可能性のある場所は「第一類危険箇所」、これよりも爆発性雰囲気が存在する可能性が低い、または存在時間が短い場所は「第二類危険箇所」に区分するよう定めている。

※2「構造規格」「防爆指針2008」
それぞれ正式名は「電気機械器具防爆構造規格」「工場電気設備防爆指針(国際規格に整合した技術指針2008)」という。

※3 産業安全技術協会
防じん・防毒マスク、保護帽など産業用設備、機械器具の適合性評価の検定業務を行う公益社団法人。ここでの検定に合格した防爆機器は、協会名の略称を採って「TIIS検定合格品」「TIIS認証取得品」などと呼ばれる。

※4 IECExシステム
国際電気標準会議(IEC)が運用する防爆電気機器規格適合試験制度。国際規格に基づき「One Tes(t 1回の試験)」「One Certification(1枚の適合証)」「One Mark(1種類の適合マーク)」に集約する認証制度によって国際取引の促進を目標としている。


この記事は2015年04月に掲載されたものです。