真空

言葉の意味としては、物質が存在しない空間のことだが、実際に「何も存在しない」ことではなく、一般的には大気圧より圧力の低い空間の状態のことを指す。

大気圧より圧力の低い空間のことで「何もない空間」ではない

真空という言葉には、「空気も圧力も何もない状態」というイメージがあります。しかし、実際には「全く何もない空間」は存在しません。一般的に真空だと認識されている大気圏外の宇宙空間も、空気こそありませんが、「完全な無」ではないのです。

宇宙まで行かなくても、私たちの身の回りには真空という状態が存在しています。真空とは日本工業規格(JIS)の定義によると「通常の大気圧より低い圧力の気体で満たされた空間の状態」のこと。その状態は、富士山頂のような高い所でも実感できます。

私たちが暮らす平地は1気圧で、1013hPa(ヘクトパスカル、Paの100倍)。高さ数千mまでは、高度が10m高くなるごとに気圧は約1hPa下がりますから、3776mの富士山頂では気圧は約630hPaとなります。平地の大気の2/3程度となる低い気圧の富士山頂には、酸素が薄く息苦しかったり、水の沸点が20℃ほど低くなるなど、大気圧環境とは異なる特徴があります。

身の回りの最先端技術は真空技術の向上による恩恵

このような真空の特徴を活かした技術が、私たちの身の回りで活用されています。

よく知られているのは食品などの真空パック。密閉されたビニール容器の中から空気を吸い出して、商品が酸素に触れて酸化し変質することを防ぎます。そうすることで、変色しやすい果物や肉類なども、鮮度を保ったまま保管できます。

インスタントコーヒーやインスタントラーメン、医薬品などは、凍らせたまま減圧して真空状態で乾燥させる凍結真空乾燥(フリーズドライ)という方法で製造します。

また、空気がない状態にすると熱が外に逃げられなくなるという仕組みを利用した真空断熱の技術は、電気ポットや魔法瓶などで活かされています。

これらのほかにも、蛍光灯の中身のガス置換、自動車ミラーの真空蒸着、蒸留酒の蒸留、新幹線のトイレの吸引、卵のパック詰めの吸着など、あらゆるところで真空技術が使われ、工業技術や日常生活の向上に役立っています。中でも、半導体技術の進歩における真空技術の貢献は大きいといえます。

半導体デバイスの製造現場では、圧力・温度を安定させ、不純物を除去してクリーンな環境を作り出すためにも真空が欠かせません。真空の特徴を活かした物理的・化学的現象を活用して製造・加工を行っています。こうしたプロセスでは、かなり高いレベルの真空が求められます。真空技術が進化し、わずかな不純物もない高度な真空が作れるようになったことは、マイクロコンピュータやフラッシュメモリなどの半導体デバイスの進化につながりました。GB(ギガバイト)、TB(テラバイト)レベルにまで増大したメモリの大容量化や高度演算によるビッグデータの活用、AI(人工知能)の実現などにも、真空技術が大きな役割を果たしているのです。

用途に応じた真空度を作り出す真空技術

JIS規格で定められた区分では、富士山頂程度の圧力の気体で満たされた空間は「低真空」。それより上は「中真空」「高真空」「超高真空」となっていき、超高真空より高いレベルの真空は宇宙空間と同程度にも達します(JIS規格では規定されていませんが、10のマイナス9乗Pa以下の真空を「極高真空」と呼ぶこともあります)。

酸化防止、真空断熱といった目的では低真空、半導体プロセスなどは高真空と、目的に応じた真空を使います。

真空を作る最も単純な方法は、容器の中の空気を排気ポンプなどで吸い出す方法です。超高真空が必要になる半導体などの超微細加工のときは、製造エリアの空気をあるレベルまで吸い出した上で、高速回転する翼で微細分子までエリア外へ吹き飛ばすターボ分子ポンプなどが使われています。

また、真空チャンバー内の真空状態を高精度で計測する真空計も、真空技術とともに進化してきました。このように、真空を使う技術、真空を作る技術、真空を測る技術がそれぞれ進化した結果、様々な製造技術が向上し、現代の情報化社会の発展にもつながりました。今後さらに真空技術が進化すれば、今までにない技術や製品の誕生も期待できることでしょう。


この記事は2018年02月に掲載されたものです。