凍結乾燥

物質の性質を損なうことなく長期保存するために、低温凍結状態で水分(氷)を昇華させ乾燥させる手法。
※ 昇華
固体が液体になることなく直接、気体になること。その逆に、気体から直接、固体になること。ドライアイスが液化することなく直接、気体になるような現象。

「フリーズドライ」食品はなぜ品質を損なわず長期保存できるのか

私たちになじみ深いインスタント食品に、「フリーズドライ」製品があります。お湯を注ぐだけですぐにおいしく食べられる味噌汁やスープ、あるいは瓶詰めのインスタントコーヒーなどが代表例です。

こうしたフリーズドライ食品は、素材の風味や品質を損なうことなく長期間保存できるように、低温で凍結した状態で氷(水分)を水蒸気に昇華させることによって乾燥させる「凍結乾燥」という手法で製造されています。

この製法は英語で「Lyophilization(リオフィライゼーション/ライオフィライゼーション)」と呼ばれます。「Freeze Drying(フリーズドライング)」でも同じ意味です。

凍結乾燥は、乾燥の速度を飛躍的に速めるために真空状態で行うのが一般的です。真空状態だと、氷の昇華点を下げられ、低温でも素早く氷(水分)を水蒸気に昇華させられるのです。低温での処理のため、素材の風味や品質を損なう心配もありません。

凍結乾燥によって生成された乾燥物は、微細な穴が無数に存在する多孔質構造になっています。そのため、水を加えると短時間で吸収し、簡単に元の状態に戻せるのです。

生成された乾燥物は、残留水分が極めて少なく成分が変質しにくいため常温で長期保存でき、軽量になるため運搬にも適しています。また、真空状態で乾燥を行うため生成工程中の無菌環境をつくりやすいのもメリットです。

医薬品分野をはじめ、古文書修復など様々な領域で活用の可能性が拡大

このように様々なメリットを持つ凍結乾燥ですが、その活用領域は、食品分野だけにとどまりません。実は凍結乾燥の技術は、医薬品の進化にも大いに貢献しているのです。

特に分子構造が複雑で、通常の状態では不安定になる高分子のタンパク質を用いた医薬品には、凍結乾燥での保存が威力を発揮しています。具体的には、ワクチン、抗体医薬品、肝がんやC型肝炎治療薬として用いられるインターフェロンなどがあります。

ワクチンでは、はしか・おたふくかぜ・風しんのほか、日本脳炎や水痘(水疱瘡(みずぼうそう))などのワクチンにも凍結乾燥の技術が活用されています。凍結乾燥されたワクチンは固形状態になっており、医師などが、接種直前に無菌状態の添付溶剤(注射用水)で溶解して使用します。

このように重要な役割を担う凍結乾燥ですが、それを活用した医薬品の開発は決して簡単ではありません。物質を安定させるために糖類や塩などの添加剤を使用するため、凝固点が微妙に変化するなど、製造の各工程で精緻な調整や管理が必要になります。医薬品メーカー各社は均一で安定した品質の製品をより短時間に提供するため凍結乾燥工程の開発に力を注ぎ、凍結乾燥装置メーカーは凍結乾燥手法の開発をめぐって、しのぎを削っています。

凍結乾燥は、こうした課題を解決しながら、その活用領域をさらに拡大しようとしています。市場の拡大が続くバイオ医薬品での活用が有力なほか、物を飲み込むのが難しい小児や嚥下(えんげ)障害を持つ高齢者などを対象に、薬剤を口腔内で溶けやすくした口腔内崩壊錠などへの活用も期待されています。

凍結乾燥の可能性は、さらにほかの分野にも広がっています。その一つに、文化財保護を目的とした古文書の修復があります。例えば災害などで水や泥につかってしまった貴重な古文書を修復するのです。ぬれてめくれなくなった文書を元の状態に戻すと同時に、凍結によりカビ菌を取り除き、保存性を高めることができるのです。

そのほか、研究分野では生細胞や微生物などの保存、工業分野では電子写真感光体に使用する有機顔料や高分子・プラスチック材料の製造などに、凍結乾燥技術は使われ始めています。さらには、余った生コンクリートの再利用や、防塵フィルタなどに利用できるニューセラミックスの製造といった活用法なども……。これからも様々な分野で、凍結乾燥の可能性は広がっていきそうです。

この記事は2013年06月に掲載されたものです。