PMV

室内の快適性評価に使用される代表的な指標。空気の温度や相対湿度、着衣量などの6要素を基に、人が感じる暑さ・寒さの度合いを-3~+3の値で示す。1994年に国際的な標準指標として規格化された。

温度や湿度、着衣量などを基に室内の暑さ・寒さを数値で示す

いよいよ夏本番、空調設備が活躍する季節です。室内を適温に保つことは快適に過ごすためだけでなく、熱中症などの健康被害を予防する上でも重要です。節電・省エネ意識の高まりやクールビズの浸透で、空調設備の設定温度を28℃にしているオフィスや家庭も多いことでしょう。では、28 ℃は快適でしょうか?

熱的に快適かどうかの人の判断のポイントとなるのは温冷感(暑さ・寒さの感じ方、温熱感覚)です。これには温度以外にも様々な要素が関係します。例えば、同じ室温28℃でも、湿度が高ければより暑く感じ、室内の気流により快適に感じることもあります。また、服装によっても感じ方は変化します。これらの温冷感に関係する要素を用いて温熱環境を評価する指標の一つが「PMV(予測平均温冷感申告)」です。デンマーク工科大学のファンガー教授によって考案されました。

温熱環境を評価する指標には、不快指数(DI )※1や標準新有効温度(SET*)※2などいくつかあります。その中でPMVがユニークなのは、人の温冷感を-3から+3の範囲の数値で示す点です。値がマイナス側に大きくなるほど寒く、プラス側に大きくなるほど暑く感じることを示します。PMVが0なら暑さや寒さを感じない熱的に快適な状態を意味します。PMVは建物内などの安定した温熱環境を評価する指標として1994年に国際規格(ISO 7730)となり、PMV-2.0から2.0が推奨使用範囲、PMV-0.5から0.5が推奨快適範囲とされています。

PMVの値は空気の温度や相対湿度、気流、放射温度※3という物理的な要素に、人側の要素である代謝量と着衣量を加えた6要素を基に算出します。その計算は複雑ですが、大まかにいうと、人体の熱収支に、これを温冷感に関連付けるための値(関係係数)を掛けて求めます。温冷感への関連付けはファンガー教授が1300人を超える被験者を対象に行った実験結果を根拠としています。

人間は食事や活動などの代謝で生じた熱(産熱)を、皮膚表面や呼吸を介して放熱することで体温を一定に保っています。この産熱量と放熱量の差を熱収支といい、産熱量が多いときは体内に残る熱が多いために暑さを、放熱量が多いときは体の熱が減るために寒さを感じる仕組みです。産熱量と放熱量が同じなら熱収支が0になり、PMVも0になります。

この熱収支に前述の6要素が関係します。例えば相対湿度は、皮膚表面からの水分の蒸発しやすさに影響し、相対湿度が高いほど放熱量が減少するため暑いという感覚につながります。着衣量も人体からの放熱量に関係し、clo(クロ)という単位に換算して熱収支に反映させます。半袖シャツ+半ズボンの組み合わせなら0.3clo、男性の上下スーツなら1cloというように、保温性が高い衣類ほどclo値が高くなります。

省エネルギーと人の生産性を両立する室内環境の実現に貢献

PMVを基に温熱環境を改善すれば、空間の満足度を高めることにつながります。PMVの値は、その温熱環境を不満足・不快に思う人の比率であるPPD(予測不快者率)という指標にひも付けられており、PMVが0に近くなるほどPPDも小さくなり(最小で5%)、多くの人にとって暑さ・寒さが気にならない温熱環境であると判断できるからです。国際規格の推奨快適範囲では、PPDは10%以下となります。

とりわけオフィスの温熱環境の改善は、人の生産性(知的生産性)を高める点でも重要です。暑さ・寒さが気になって仕事に集中できなかったという経験がある人も多いでしょう。この関係を客観的に明らかにする調査・研究も進められています。一例として空気調和・衛生工学会は「我慢をしない省エネへ」と題する報告書の中で、コールセンターやタイピング業務の実測により、暑過ぎても涼し過ぎても作業効率が低下した研究結果を引用しました。その上で夏季のオフィスの設定温度は28℃を前提とせず、知的生産性への影響も考慮して調整すべきだと提言しています。

現在のところ、一般のオフィスの温熱環境は温度・湿度で評価されることがほとんどです。ほかの要素も考慮して、人の感じ方により近い評価を行いながら環境を調節することが大切です。快適性・知的生産性と省エネルギーを両立する室内環境の促進に向け、PMVの重要性はますます高まっていきそうです。


※1 不快指数(DI)
気温と湿度から算出する指数。主に屋外環境の「蒸し暑さ」の不快度を示すのに用いられる。不快指数75〜80:やや暑い、80〜85:暑くて汗が出る、85以上:暑くてたまらない、など、体感と対応付けられている。気温27℃・湿度55%の不快指数は75、気温29℃・湿度70%では80となる。

※2 標準新有効温度(SET*/エス・イー・ティー・スター)
ある環境と同等の温熱感覚となるような標準環境(相対湿度50%などと定義した環境)での空気温度。PMVと同様の6要素から算出される。米国暖房冷凍空調学会(ASHRAE)が標準的体感温度として採用。

※2 放射温度
壁や天井、家具類などの物体から直接受ける熱の温度。


この記事は2015年06月に掲載されたものです。