予測制御

機器やシステムを運用する際、その結果の予測を踏まえて、目標達成に最適な制御の内容を決める制御形態のこと。

マンガ:湯鳥ひよ/ad-manga.com

未来を予測して機器を制御し、運用結果の最適化を図る

自動車の運転やスマートフォンでのメールのやりとりなど、機器を使って何らかの作業をするとき、それを思いどおりに動かす「制御」の技術が欠かせません。

工場やオフィスの機械・システムを使う場合も同様で、安全かつ効率的な運用のために高度な制御が求められます。人間の負担を減らす自動化もその方策の一つであり、例えば生産過程における原料の温度管理には「フィードバック制御」※1や「PID制御」※2といった手法が広く用いられています。

これらの手法に加えて、品質や生産性のさらなる向上、省コスト・省エネルギーに寄与する制御の方法として期待されているのが「予測制御」です。これは設定した目標を達成できるように、機器やシステムの運用結果を予測し、それを踏まえて最適な制御を実行する手法や取組み全般を指す言葉です。

その内容は多岐にわたります。「何をどれだけ作ればムダが最小になるか」という需給を踏まえた生産計画を指すこともあれば、「機器をどう操作すれば高効率で運転できるか」という最適制御を指す場合もあります。何らかの予測を加味して機器やシステムを制御するのならば、予測制御の一種といえます。

予測制御の典型例にビルの空調管理が挙げられます。ビル向けの空調熱源設備には、ガスや電気をエネルギー源としたボイラや冷凍機など、多種多様な設備が用いられています。日中の最高気温やビルへの訪問者数、イベント開催状況、平均気温などで空調負荷が変わるため、そのときの冷房/暖房の需要量を予測し、各エネルギーの単価、設備の動作仕様を考慮した熱源設備の運用についてエネルギーのベストミックスを実現、最適化をしています。

一方、石油化学プラントに代表されるプロセス系生産設備では、1980年前後から「モデル予測制御」と呼ばれる手法が用いられてきました。これは生産設備の運転条件によって石油などの原料の状態(温度や圧力、流量など)が変化する様子をモデル化した上で、実測値を基に一定時間後の未来をコンピュータでシミュレーションし、その結果から逆算して最適な制御の仕方(制御量)を決めるものです。この計算を一定時間ごとに行うことで設備の安定稼働と品質向上を図っています。


※1:フィードバック制御
実測値と目標値を比較し、その差を解消するように制御量を決める自動制御の方式。

※2:PID制御
フィードバック制御の一つで、比例操作、積分操作、微分動作の三つを組み合わせた制御方式。

ICTの発達で予測精度が向上、様々な分野に適用する研究が進む

予測制御の活用が広がりつつある背景にはICT※3の進化があるといえるでしょう。機器の測定値をネットワークで収集するIoT※4関連技術の発達で、様々な種類のデータを収集でき、制御対象や機器の稼働状況などをきめ細かく把握できるようになりました。同時に、それらの大量のデータを高度に分析できるようになったことで予測精度が向上し、予測制御の有用性が高まっているのです。

生活に身近なところで予測制御を適用する研究も始まっています。例えば道路の渋滞はいったん発生すると解消に時間がかかります。そこで過去のデータに基づいて交通量を予測し、信号制御を最適化することで渋滞発生を未然に防ぐ実験が行われています。モデル予測制御の技術を自動車の運転支援システムや、列車運転を効率化する仕組みに応用する研究も進められています。

近未来のスマートシティ(電力の効率化や省資源化を徹底した環境配慮型都市)の実現に向けても、特に電力供給を最適化するスマートグリッド(次世代送電網)において、電力の精緻な需給予測が安定制御のカギとなるとみられています。少し未来に先回りした視点で省エネ化を支えるツールとして、予測制御は幅広い分野に適用されていくことでしょう。


※3:ICT(アイ・シー・ティー)
Information and Communication Technologyの略で、情報と通信に関する技術のこと。コンピュータとネットワークを用いた情報活用のための製品やシステム、サービスなども指す。

※4:IoT(アイ・オー・ティー)
Internet of Thingsの略。道具や機器などのモノがネットワークで直接的・間接的につながる状態や仕組みのことで、これを用いて付加価値を追求する取組みも指す。


この記事は2016年06月に掲載されたものです。