IAQ

住宅やビルにおける室内空気質のこと。主にハウスダスト、ガス、温度・湿度によって左右され、居住空間としての快適さや体調に影響する。

マンガ:湯鳥ひよ/ad-manga.com

住宅やオフィスの室内空気が人間の気分や健康状態に影響

自宅のリビングや会社の会議室などの室内で長い間過ごしていると、あくびが何度も出る、頭がボンヤリするという経験をしたことはありませんか?

これには様々な要因が考えられます。人間の体熱で室温が上がり眠気を催すこともあれば、建材や清掃用品に使われている化学物質を吸い込んで頭痛や目まいを引き起こすこともあります。

あるいはCO2(二酸化炭素)が原因の一つかもしれません。窓や扉を閉め切った室内では、人間の呼吸だけでもCO2の濃度が急激に上がります。外気のCO2濃度は400ppm前後(体積比)ですが、室内では1000ppmを超えることが珍しくなく、そうなると眠気や集中力の低下、頭痛などの症状が起こりやすくなるといわれています。

この例のように、室内空気が人間の気分や体調に与える影響は決して小さくありません。人間が一日に体内に取り入れるもののうち、実に57 %を室内空気が占めています※1。この点からも、その質には十分注意する必要があります。

この室内空気の質のことを“IndoorAir Quality”の頭文字を取って「IAQ」といいます。IAQを左右する要因は、大きく「粒子状物質の量」「ガス状物質の量」「温度・湿度」の3種類に分けられます。

一つ目の粒子状物質とは、いわゆるホコリのもとです。具体的には衣類や布団の繊維、人間やペットの皮膚片や毛、虫の死骸、細菌、花粉などが挙げられます。中でもカビの胞子やダニの死骸・ふんは、人間が継続的に吸い込むと気管支ぜんそくやアトピー性皮膚炎といったアレルギー性疾 患を引き起こすといわれており、これらの発生を予防・除去することが大切です。

二つ目のガス状物質は、空気中に含まれるCO2や揮発性化学物質を指します。冒頭に挙げたCO2以外に、一酸化炭素や窒素酸化物、様々なにおいのもととなる物質もガスの一種です。2000年前後に問題になった「シックハウス症候群」では、建材、家具の接着剤や塗料が気化して生じた化学物質(ホルムアルデヒドなど)が、様々な健康被害をもたらした一因と指摘されました。

三つ目の温度・湿度については、空気を直接汚染するものではありませんが、高過ぎたり低過ぎたりするのを解消するためにエアコンや加湿・除湿器で調整している人も多いことでしょう。これらは快適さのためだけではなく、夏場の熱中症や冬場のヒートショック※2から体を守るためにも、適切な水準に保つことが必要です。湿度の適正化は、結露によるカビの発生を防ぎ、ハウスダストの抑制にもつながります。

高気密の住宅では換気が不可欠。外気に含まれる有害物質の除去や省エネルギーへの配慮も重要

日本の住宅は、政策の一環として省エネ性能(冷暖房効率)を重視し、建物の気密性や断熱性を高める形で進化してきました。半面、このことは室内空気の滞留を促し、粒子状物質やガス状物質による汚染の度合いによっては、IAQの向上に結びついているとはいえない現実があります。

IAQの向上には何より「換気」が不可欠です。現在、新築住宅には24時間換気として室内空気が2時間ごとに丸ごと入れ替わるレベルの機械換気設備(換気扇や給排気口)を取り付けることが建築基準法で義務付けられています。また一般的なオフィスビルでは、CO2濃度を1000ppm以下に保つことがビル管理法※3で定められています。

ただ、換気の仕方や条件によってはIAQが向上するとは限りません。そもそも室内に取り込む外気が汚れていたら、換気の意味が薄れてしまいます。昨今、いわゆるPM2.5※4による大気汚染が問題になっていますが、換気の効果を最大化するには、本来は外気を取り込む際に有害物質やアレルギー物質などを除去したいものです。

省エネルギーの面でも対策が求められます。適温の室内空気を外に排出したら、取り込んだ空気をあらためて冷暖房する必要があり、換気頻度が高いほどエネルギーの消費量も増えてしまうからです。この課題を解決するため、最新の換気設備では排気の熱を取り込む空気に移し替える「熱交 換」という技術で省エネ化を図っています。

一口に「IAQの向上」といっても、実際は前述の三つの要因をバランスよく改善しなくてはなりません。室内空気が人間の体に深く関係することを認識し、IAQへの理解を深めることも大切です。部屋を換気したり掃除したりするときはIAQという言葉を思い出し、空気の質にあらためて目を向けてみましょう。


※1:参考文献=村上周三著『室内環境と空気汚染』
人体が摂取しているものの割合(重量比)=室内空気57%・公共施設の空気12%・産業排気9%・外気5%・飲料8%・食物7%・その他2%

※2:冬場のヒートショック
急激な環境温度変化による心筋梗塞、不整脈などの健康被害のこと。特に冬季の浴室やトイレなどで高齢者に起こるリスクが高い

※3:ビル管理法
正式名は「建築物における衛生的環境の確保に関する法律」

※4:PM2.5
直径2.5マイクロメートル(0.0025ミリメートル)以下の微小な粒子状物質の総称。ディーゼルエンジンの排ガスに含まれるスス、たばこの煙などがあり、肺の奥深くまで入り込みやすいことから呼吸器系、循環器系への影響が懸念されている

この記事は2014年12月に掲載されたものです。