自律化

与えられた目標に対して、システムが主体的に最適な実行プランを立案し、障害などへの対処も自動で行いながらタスクを実行。その結果を分析しフィードバックするというPDCAサイクルを、人間の介在なく実施し、目標の実現を目指すというアプローチ。

マンガ制作:株式会社シンフィールド

自動化の技術をベースに人が介在することなく目的を達成

進化したデジタル技術を浸透させることにより、人々の生活をよりよいものへと変革することを目指す「DX(デジタルトランスフォーメーション)」が、近年加速しています。そうした中、注目が高まっているのが、AIやIoTを活用した「自律化」です。自動化と似た言葉ですが、一連の決められた手作業を機械で再現するのが自動化、決められた動作を行うだけでなく、状況変化を捉え、必要な動作を自ら意思決定できるようにするのが自律化です。「掃除をする」というタスクを例にすると、ホウキとちり取りを使って掃除をするのが手作業、ホウキとちり取りを自動化したのが掃除機ですが、自動化はタスクを完了するのに人の操作が必要です。一方、掃除ロボットは、人が操作しなくても掃除機自らが部屋全体の間取りや障害物を認識し、障害物を避けながらタスクを完了してくれます。これが自律化です。

また、市場に徐々に投入されている自動車の自動運転においては、自動運転機能のない状態をレベル0とし、自動化のレベルが6段階で定義されています。そのうちレベル1~3は、衝突被害軽減や車間距離制御、一定条件下のみでの自動運転など、運転操作はドライバーが主体となります。一方、レベル4、5では、自動車による運転操作が主体となり、運転席さえ不要になるといわれています。この場合、レベル3までは自動化の領域であり、レベル4、レベル5ではじめて自律化が実現されているといえそうです。

このように、自律化とは機械化、自動化をベースとし、人間の介在を最小化するかたちで、与えられたタスクを達成するためのアプローチのことであり、掃除ロボットのような生活の中の身近なものから、建物、生産の分野などにも共通した概念です。状況を認知して状態を分析し、与えられたタスクを最適な方法で遂行するという、人間が持つ知能的な振舞いができる点が自動化との大きな違いです。


パフォーマンス最大化のためのPDCAサイクルを自動的に回す

こうした技術は、人々を重労働から解放し、生産性を高めるという目的の下、人手がかかる製造ラインを機械化、自動化するオートメーション技術として、目標値に対して計測値を近づけていく調節制御や、機械を決められた順序で動かすシーケンス制御といった分野で発展してきました。ただ、これまでのオートメーションは、決められた動作を決められたとおりに行うことはできても、様々な要素も考慮した上で状況を認知したり、不具合や不測の事態に対処したりといった意思決定を伴う場面では人の介在が不可欠でした。しかし、近年のAIやIoTといったデジタル技術の進歩により、リアルタイムにデータを収集、過去のデータを学習してそれを基に分析するという、人間の知能的な振舞いをシステムで実現することが可能になりました。また産業・経済の発展に伴い、消費社会から持続可能な社会へ、物質的な豊かさより心的な豊かさに重きを置く時代へと世の中がシフトする中で、ものづくりの現場における要求もより高度で複雑になっています。単に生産性を高めるだけではなく、環境問題や労働力人口の減少といった社会課題への対応も必要です。そこで、デジタル技術を活用し、これまで人が行っていた制御・管理、いわゆるPDCAを自動化しようというのが自律化です。

複雑化する社会課題の解消に向け自律化が重要なカギを握る

ものづくりの現場において、自律化がもたらす最大のメリットは、工場やプラントのポテンシャルを最大限に活かしたパフォーマンスを継続して実現できるという点です。目標に対し、製品の出来高、製造コストやエネルギーの消費量など様々な情報をAIが総合的に分析し、最良の生産計画を実行。製品の品質やそれに影響する生産設備の変調の予測・検知、影響因子の特定や対策なども能動的に行えるようになります。生産活動の効率化により収益を上げたり、高品質な商品を安定的に供給したりすることや、カーボンニュートラルの実現に向けた温室効果ガス(GHG)*1 排出削減やDXの推進といった社会的課題解消への貢献にもつながります。また、人間の介在が最小化されることで人的リソースの削減や人的ミスの低減にもなるほか、多くの業務がデジタル化されることで時間や場所、ジェンダーなどの制約を受けることなく、多様な働き方が可能になるといったメリットも考えられます。

時代とともにオートメーションの目指すゴールも社会課題の解決に寄与する方向へと変化しています。今後は工程ごとの自動化をベースに、それら工程からなる生産プロセス全体が自動で行われるようになり、人間は再生可能エネルギーや新しい技術の開発など、より人にしかできない創造的な業務に専念できるようになるでしょう。デジタル技術などのさらなる進化が前提となりますが、持続可能な社会を実現する重要なカギの一つが自律化であることは間違いありません。


*1:温室効果ガス(GHG)
大気圏にあって、地表から放射された赤外線の一部を吸収することにより、温室効果をもたらす気体の総称。

この記事は2024年01月に掲載されたものです。