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TCFD・TNFD提言に基づく情報開示

世界気象機関は、2024年の世界の平均気温が産業革命前(1850〜1900年の平均気温)より1.55℃(±0.12℃)上昇したと発表しました。平均気温の上昇は、極端な高温や海洋熱波、大雨の頻度と強度の増加をもたらし、それに伴う洪水、干ばつ、暴風雨などの被害がさらに深刻化することが懸念されています。まさに人類は、かつてない環境危機に直面していると言えるでしょう。

2019年に生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム(IPBES)が公表した「生物多様性と生態系サービスに関する地球規模評価報告書」によれば、世界の陸地の約75%が著しく改変され、海洋の66%が複数の人為的な影響を受けています。また、1700年以降、湿地の85%以上が消失するなど、地球全体の自然が人類史上かつてない速度で変化していると報告されています。

また、SDGsの採択や、社会全体での脱炭素化、ネイチャーポジティブへの動きなど、世界的な潮流は、企業に対して環境規制の強化や製品への市場要求の変化、さらにはサプライヤーへの対応要請の拡大といった形で影響が想定されます。
一方でこれらの課題解決に対して、自動化・省力化・省エネ・省資源といったオートメーションが持つ多様な機能が果たす役割は大きく、オートメーションの価値及び期待を一層増大させている、と私たちは考えています。
こうした背景を踏まえ、azbilグループはカーボンニュートラルなどの社会課題への対応を新たな事業機会と捉え、「成長事業」として事業を拡大する方針を中期計画に定めました。

中期経営計画

開示に対する考え方

マテリアリティの適用

サステナビリティ経営を達成するために、グループ理念をもとに「機会」と「リスク」の両面から、ダブルマテリアリティ(環境・社会が企業に与える財務的な影響と、企業活動が環境・社会に与える影響という二つの側面から重要性を評価する考え方)を取り入れ、2022年8月、長期にわたり取り組む重点課題として5分野10項目のマテリアリティを特定しました。その後、2023年度に外部有識者との議論・確認を経て経営会議および取締役会で妥当性を再確認しました。

マテリアリティ

azbilグループは「気候変動」をマテリアリティの一つとして特定しています。azbilグループは、気候変動が事業活動に与える影響を正しく把握し、適切に開示するという気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言内容に賛同しました。自然資本(生物多様性・水資源等)は、マテリアリティの一つに入らなかったものの、重要性の比較的高い項目として評価しています。今後も、環境・社会・事業構造の変化やそれらの財務影響等も勘案し、マテリアリティ特定の評価については更なる検証を進めてまいります。自然資本に対する影響・依存や事業上の機会・リスクを適切に把握するため自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)提言にそったネイチャーポジティブの取組みを推進していきます。

開示のスコープ【TCFD/TNFD】

ビルディングオートメーション(BA)事業、アドバンスオートメーション(AA)事業、ライフオートメーション(LA)事業の事業種別に、気候変動・自然資本に関する機会・リスクを整理しました。気候変動はTCFDの推奨アプローチ、自然資本はTNFDの推奨アプローチに沿って、機会とリスクを分析しました。

自然関連課題のある地域【TNFD】

TNFDが推奨する評価方法に沿って、azbilグループにとっての上流と直接操業(azbilグループの事業活動)に関し、お取引先様の製造拠点までさかのぼり、事業上の重要性及び所在地の生態学的繊細性の観点から優先拠点を特定しました。また、下流に関しては、azbilグループ製品の回収と廃棄の工程について国単位で評価しています。評価結果の詳細は「戦略」の項の「TNFD–機会・リスクの導出アプローチ」に記載しています。

検討の対象期間【TCFD/TNFD】

TCFDでは分析における対象期間を2030年としました。2015年国連サミットで採択された2030年を年限とするSDGsに積極的に取り組んでいること、環境省発行のガイドラインでシナリオ分析の時間軸設定に於いて2030年が例証されていること、azbilグループの経営計画の長期目標を2030年度に設定していることから分析の対象期間としました。
TNFDにおいても、azbilグループの長期目標との整合、かつ、SDGsやネイチャーポジティブの実現の観点から、2030年を対象期間としました。

ガバナンス

取締役会の役割

azbilグループは、2025年からの「新中期経営計画」においてサステナビリティ経営を継続しています。気候変動・自然資本について、事業影響と財務的影響の開示の視点から経営会議で審議し、その内容は取締役会で適切に監督しています。

コーポレート・ガバナンス

ステークホルダーエンゲージメント

azbilグループは、自然関連の課題への取組みにおいて、先住民族も含む地域社会などステークホルダーとの信頼関係を構築し、人権尊重の責任を果たします。azbilグループ人権基本方針に基づいたご相談・通報の受付から調査・確認、救済、是正・改善までの体制を整えています。

azbilグループ相談・通報窓口

戦略

気候変動はTCFDの推奨アプローチ、自然資本はTNFDの推奨アプローチに沿って、機会とリスクを分析しました。

種類 気候変動 自然資本 事業 内容 【 】は、気候変動シナリオ
機会   ビルディングオートメーション事業 世の中のニーズに適合した省エネルギー・省CO2ソリューションやサービスの需要拡大【1.5℃/2℃シナリオ】
気象災害に適応した建物に向けた製品・サービス・ソリューションの需要の増加【4℃シナリオ】
アドバンスオートメーション事業 環境影響を軽減する新しい産業・プロセスに向けた、センサ・各種計測器、ソリューション等への需要の増加
【1.5℃/2℃シナリオ】
異常予知機能を具備した製品・サービス・ソリューションへの需要の増加【4℃シナリオ】
ライフオートメーション事業 IoT技術を活用したガスメータ活用によるSMaaS事業の拡大【1.5℃/2℃シナリオ】
気象災害に適応した製品・サービス・ソリューションへの需要の増加【4℃シナリオ】
  共通 自然資本に依存している市場のニーズに適合したソリューション等への需要の増加
排水、化学物質等の環境法規制強化に伴う、センサ・各種計測器、ソリューション等への需要の増加
生態系モニタリング等のIoT技術を活用した新たなソリューション等への需要の増加
移行リスク 共通 新たな規制に合わせた新製品やサービスの開発コスト増加
エネルギー価格、原材料価格上昇による製造・調達コストの増加
炭素税導入、生物多様性保全等コスト負担増に伴うお客様の従来型設備投資の減退
物理リスク 共通 異常気象(洪水、渇水、気温上昇など)による操業停止、製品・サービス・ソリューション提供の休止
異常気象(洪水、渇水、気温上昇など)による事業不安定化に伴う、お客様の投資の大幅な減少

TCFD

シナリオ分析

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)、国際エネルギー機関(IEA)や各種機関からの情報をもとに、1.5℃/2℃シナリオ※1と4℃シナリオ※2で、2030年までの長期的なazbilグループの事業上の機会やリスクを特定しています。1.5℃シナリオについては、2℃シナリオと機会とリスクの傾向は同じで影響の度合いが大きくなると認識しています。
気温上昇のシナリオに基づいた各事業の機会とリスクの双方を検討した結果、CO2削減に貢献する事業活動の機会がリスクを大きく上回ると認識しています。

CO2削減に貢献する事業活動の機会がリスクを大きく上回る

※1 脱炭素社会に向けた規制強化や技術革新が促され、気温上昇が持続可能な範囲で収まるシナリオ

※2 温室効果ガス排出を削減する有効な対策が打ち出されず、気温上昇が継続し、異常気象や自然災害が増大するシナリオ

リスク面については、物理リスクと移行リスクに分けて財務に与える影響を分析しています。物理リスクについては、様々な想定をもとに試算していますが、生産拠点の分散やBCPなどの対応策を講じていることなどから、事業に与える影響は限定的と判断しています。また、移行リスクについては、自らの温室効果ガス排出量に関し、計画的なリスク軽減策を講じています。azbilグループの自らの事業活動に伴う排出量(スコープ1+2)は約1万2千トンCO2で、仮に今後炭素価格が上昇し、1トン当たり1万円~2万円と負荷が大きくなったとしても、その財務影響額は総額1億~2億円程度に留まることになります。その一方で、1.5℃/2℃シナリオを前提に、2030年におけるazbilグループの主要な事業分野に限定した影響を算出すると、お客様の現場におけるCO2削減効果や新しいエネルギー市場の拡大等につながると見込まれるため、少なくとも年間約120億円規模の売上高増加への寄与があると推定しています。

ビルディングオートメーション事業:約70億円

電力料金上昇や再生可能エネルギーの普及等により、関連設備や高効率設備の導入増加等から、TEMS※3などの省エネルギーに関わる既存事業が拡大すると想定しました。また、CO2排出量の見える化からカーボンオフセットまでを一括管理するエネルギー管理システム(EMS※2)、再生可能エネルギーなど、エネルギー調達や排出権取引等を組み合わせたワンストップサービスのビジネス機会が拡大すると想定しました。対象として、エネルギー使用量の多い病院・ホテル市場における過去の導入実績や、顧客ニーズなどを踏まえ、一定の前提を置いたシナリオに基づき試算しています。

※3 TEMS :Total Energy Management Service

※4 EMS:Energy Management System

アドバンスオートメーション事業:約50億円

カーボンニュートラルに貢献する市場(水素、CO2フリー・アンモニア、カーボンリサイクル・CCUS※5など)に関連するビジネス機会が拡大すると想定しました。対象市場に関連する導入実績やその推移と、第三者調査機関による対象市場の成長率等、一定の前提を置いたシナリオに基づき試算しています。

※5 CCUS:Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage

脱炭素移行計画

社会全体の脱炭素化への動きを受け、お客様や社会におけるエネルギー課題の解決に貢献するとともに、脱炭素化に向けた移行計画を策定し取り組んでいます。

脱炭素移行計画

TNFD–機会・リスクの導出アプローチ

優先拠点の特定

上流

優先拠点の特定方法として、事業活動が環境に与えるインパクト・依存の大きさを評価する手法と事業拠点の生態学的な繊細さを評価する手法があります。この2つの方法を通して、azbilグループの上流では、お取引先様の27拠点を特定しました。

※Guidance on the identification and assessment of nature-related issues: the LEAP approachを参考に作成

※地域や業種が偏らないように考慮して、主要なお取引先様の拠点を選びました

直接操業(azbilグループの事業活動)

自然資本への影響の高い拠点として、マザー工場と位置づけている湘南工場など主要な17の生産拠点を対象としました。

依存とインパクト

上流、直接操業、下流の各段階において、事業活動の依存とインパクトの種類と大きさ(ENCORE※6)、生態学的な繊細さ、事業特性を基に、azbilグループに関連する依存とインパクトを一覧にしました。上流では、土壌水質への排出のインパクトが大きい可能性があります。直接操業と下流※7では、廃棄が環境にインパクトを与える可能性があります。また依存に関しては、大きな懸念は確認されませんでしたが、直接操業では水リスクがある拠点が一部存在することを認識しています。

※6 ENCORE Partners (Global Canopy, UNEP FI, and UNEP-WCMC) (2024). ENCORE: Exploring Natural Capital Opportunities, Risks and Exposure. On-line, June 2024, Cambridge, UK: the ENCORE Partners. Available at: https://encorenature.org. DOI: https://doi.org/10.34892/dz3x-y059

※7 下流に関しては、LEAPアプローチのLocate分析は実施しておらず、Evaluate分析において処理委託先の廃棄物処分方法に基づき、影響を推定しています

範囲 依存 インパクト
上流 お取引先様の活動が、大気、水質、土壌への汚染の影響を与える可能性があります
直接操業 azbilグループ製品の生産を担うグループ会社には、アズビルプロダクションタイランド株式会社、アズビル機器(大連)有限公司のように、水リスクが懸念される地域(水ストレス地域)に位置している拠点があります 生態系の完全性の高い地域で操業する拠点によっては、大気、水質、土壌への汚染により生態系に高い影響を与える可能性があります
下流 製品について、不適切な処理があった場合、大気、水質、土壌への汚染の影響を与える可能性があります

施策

「経団連生物多様性宣言・行動指針(2023年12月12日改定)」の趣旨に賛同し、引き続き「経団連生物多様性宣言イニシアチブ」へ参画するとともに、持続可能な社会の実現へ向けたサステナビリティ経営をグローバルに展開していきます。
自然共生社会の実現に向けての取組み方針として、ネイチャーポジティブの視点を持ち、事業を通じた生物多様性保全への貢献を継続し、お取引先様を含めたサプライチェーンでの取組みを推進するとともに、様々なパートナーシップとの協働を通じた自然環境保全活動の取組みを強化していきます。
分析した機会とリスクへの具体的な対応策に関しては現在検討中で、今後開示していきます。

リスクマネジメント

リスクマネジメント体制の下、経営に重大な影響を与える可能性のあるリスク、とそれを生み出すインパクトについて、気候変動・自然資本を含めて網羅的に管理しています。

リスクマネジメント

指標と目標

指標と目標【TCFD/TNFD】

気候変動・自然資本に関連する指標や目標を設定し、環境保全活動を展開しています。なお、azbil report 2025時点で開示していない項目については、今後開示を検討していきます。

気候変動に関する指標と目標

azbilグループの取組み指標 目標(2030年度)
お客様の現場における
CO2削減貢献量
オートメーションで 340万トンCO2/年
エネルギーマネジメントで
メンテナンス・サービスで
GHG排出量 スコープ1+2 55%削減
(2017年基準)
スコープ3 33%削減
(2017年基準)

自然資本に関する指標

TNFD
指標番号
自然変化の要因 azbilグループの取組み指標
C2.1汚染/汚染除去水資源の利用排出量
C2.2廃棄物量総排出量
再資源化量
最終処分量
リサイクル率
処分率最終処分量/廃棄物総排出量
C2.4PRTR法対象物質排出量大気への排出量
C3.0資源使用/資源補充水資源の利用取水量
消費量
水リスクが懸念される地域(水ストレス地域)の拠点の総取水量総取水量
(アズビルプロダクションタイランド株式会社)
総取水量
(アズビル機器(大連)有限公司)

※自然資本に関連する目標については、今後策定、開示の予定です

※各指標の実績については、最新のazbil ESGデータブックを参照ください

azbil ESGデータブック

今後の取組み

本開示の実施事項を踏まえ、今後は、気候変動の分野と自然資本の分野を統合したシナリオ分析を実施することで、環境統合型経営を進化させ、社会のWell-beingも含め地球環境に貢献します。
そのために、LEAP分析の拡大・深化に向けて、対象を拡大させるとともに、リスク・機会の定量化を実施することを予定しています。