HOME > アズビルについて > 会社PR > 会社紹介資料 > azbil Technical Review > 2016 > 速度分布による誤差を抑制した都市ガス・LPガス用超音波ガスメーターの開発

速度分布による誤差を抑制した都市ガス・LPガス用超音波ガスメーターの開発

キーワード:超音波ガスメーター,安全機能,HEMS

2014年4月に経済産業省が公表したエネルギー基本計画のガスシステム改革により、市場が変革していくことが予想される。そこで、パルス出力を標準搭載し、HEMS(Home Energy Management System)にも対応した超音波ガスメーターを開発した。超音波ガスメーターは、超音波が伝搬する領域内において、速度分布に偏りがある場合は誤差が発生し性能に影響を与える。この課題に対し、超音波ガスメーターにおける計測部の流路を複数の層に分けることで良好な性能を確認できたので報告する。

1.はじめに

1.1 ガスメーター

ガスメーターは主に都市ガスやLPガスを計量する流量計であり,一般家庭用から工業用まで幅広く使用されている。

1980年,静岡駅地下街にて死者15人,負傷者223人を出すガス爆発事故が発生した。この事故を契機にガスの安全性がより一層問われ始め,異常を検知した場合にガスを遮断する安全機能を付加したマイコンメーターが開発された。このようにガスメーターは計量を行うだけでなく,事故を未然に防止する安全機能を兼ね備えた流量計へと変化し,ライフラインを支える役割を担うようになった。

1.2 エネルギー基本計画について

2014年4月に経済産業省がエネルギーに関する基本的な方向性を示すエネルギー基本計画を公表した。

例えば,電気システム改革では供給側が供給量を確保するだけでなく,需要側でも需要量を抑制することで需給バランスを安定させ,エネルギー供給の効率化を進める方針へと切り替わる。具体的には,供給側が時間帯に対応して価格差を設けたサービスを提供し,エネルギー消費パターンの変更を需要側に促すことで,需給バランスを安定させるような体制が進むと考えられる。このとき,需要側がエネルギーの消費状況を把握する必要性があるため,今後はHome Energy Management System(HEMS)の導入が進んでいくと考えられる。

HEMSとは,電力メーターおよびガスメーターなどと連携し,家庭内のエネルギーを管理するシステムのことである。このシステムを活用し,計量した結果をモニタなどに表示することで,消費者が家庭のエネルギーの消費状況を把握し易くなる。

1.3 ガスシステム改革への波及

ガスエネルギー関連ではガスシステム改革が公表されており,ガスを低価格かつ安定的に供給し,消費者に新たなサービスを示すことのできるガスシステムの構築を掲げている。このガスシステムを用いた,エネルギー供給の効率化や,小売の自由化が検討されている。

例えば,小売の自由化により新規のガス事業者が参入した場合,これまでの地域独占的な市場が撤廃されることで,ガス事業者間の競争が激化すると予想される。このとき,ガス事業者は他者よりも優位な提案をすることで,顧客を確保することに繋がると考えられる。

1.4 超音波ガスメーターでできること

超音波ガスメーターは,従来のマイコンメーターが備えていた安全機能に加えHEMSとの連携も可能である。

また,超音波ガスメーターは瞬時流量を測定できるため,ガスの使用量をリアルタイムに表示できる。この機能を活用することにより,消費者がガスの使用量を容易に把握できるようになるため,ガス事業者は優位な提案を推し進められると考えられる。

さらに,超音波ガスメーターは機械的に動作する機構がないため,マイコンメーターと比較して小型かつ軽量にできる。そのため超音波ガスメーターは,設置時の作業性や,少ないスペースで保管できるため,取扱い易いガスメーターとしてガス事業者に提供することができる。

2. 超音波ガスメーターの開発

2.1 超音波ガスメーターの測定原理

超音波ガスメーターは超音波の伝搬時間から流速を求め,断面積との積により流量を測定する。図1のように流速Vの気体が断面積Aの流路を流れる場合を考える。

図 1 超音波ガスメーターの測定原理

図 1 超音波ガスメーターの測定原理

流路内には超音波センサが対向して取り付けられており,それぞれが超音波の送信と受信をすることができる。上流側の超音波センサから下流側の超音波センサに到達するまでの超音波の伝搬時間をt1とする。このとき,伝搬時間t1は式(1)のように表される。

★式(1)入る。

ここで,Cは音速,θは超音波の入射角,Lは超音波センサ間の距離である。気体が流速Vで流れているため,伝搬時間t1は流速V=0の場合と比べて短い時間になる。

また,下流側の超音波センサから上流側の超音波センサに到達するまでの超音波の伝搬時間をt2とする。このとき伝搬時間t2は式(2)のように表される。

★式(2)入る。

流速Vに逆らって伝搬するため,伝搬時間t2は流速V=0の場合と比べて長い時間になる。次に,式(1),(2)を音速Cについて変形すると式(3),(4)のようになる。

★式(3)入る。 ★式(4)入る。

式(3),(4)より,音速Cを削除すると式(5)のようになる。

★式(5)入る。

ここで,流量Qは断面積Aと流速Vの積であるため,式(6)のように表すことができる。

★式(6)入る。

式(6)より,流量を伝搬時間で表すことができた。

2.2 計測部の設計

2.2.1 課題と対策

超音波ガスメーターは,超音波の伝搬する領域内で速度分布の偏りがある場合に誤差が発生する。速度分布の偏りは,気体の流れが層流から乱流へ遷移する場合に発生すると考えられるため,流路を複数の層に分けることで解決する。図2に計量部の概略図を示す。

図 2 計量部の概略図

図 2 計量部の概略図

図2に示すように,気体の流れに対して平行な整流板を設けた場合,流路における1層当たりの幅が小さくなるため,レイノルズ数を小さくすることができる。レイノルズ数を小さくすることで,層流から乱流への遷移を抑制できると考えられるため,整流板とそのケースを一体化した整流ボックスを用いて超音波ガスメーターの器差性能を確認する。

2.2.2 器差性能の確認

計量法により,ガスメーターの検定は空気を用いる必要がある。しかし,ガスメーターはガスの種類によらず同等の器差性能を要求されるため,ガスの種類を変えて器差試験を実施し,その性能を確認した。図3に4層式の整流ボックスを用いた超音波ガスメーターの器差性能を示す。

図 3 4 層式の整流ボックスにおける器差性能

図 3 4 層式の整流ボックスにおける器差性能

図3より,空気と都市ガスにおける器差の差はおよそ1%であり,レイノルズ数が大きくなる傾向にある大流量域においても安定した器差性能を確認することできた。

しかし,LPガスと空気での器差の差はおよそ2.5%であり都市ガスと空気の器差の差と比較して大きな差となった。

LPガスは空気や都市ガスと比較して密度が高く,粘度が低いためレイノルズ数が大きくなる傾向にある。したがって,4層式の整流ボックスはLPガスにおける流れの遷移を十分に抑制することができなかったと考えられるため,これを改善する必要がある。

2.2.3 器差性能の改善策

LPガスでの器差性能を改善させるため,整流板の枚数を多くし,1層当たりの幅を小さくすることで器差性能の改善を図る。図4,5に5層式および6層式の整流ボックスを用いた超音波ガスメーターの器差性能を示す。

図 4 5 層式の整流ボックスにおける器差性能

図 4 5 層式の整流ボックスにおける器差性能

図 5 6 層式の整流ボックスにおける器差性能

図 5 6 層式の整流ボックスにおける器差性能

図4,5より5層式および6層式の整流ボックスのいずれも空気と都市ガスにおける器差の差は小さいため,空気で検定した場合でも,都市ガスを使用することが可能である。また,6層式の整流ボックスの場合は空気とLPガスの器差の差が小さいので,空気で検定した場合でもLPガスで使用することが可能である。しかし,5層式の整流ボックスの場合は空気とLPガスの器差の差が大きいため,LPガスを使用することが困難と考えられる。

図6に7層式の整流ボックスにおける器差性能を示す。

図 6 7 層式の整流ボックスにおける器差性能

図 6 7 層式の整流ボックスにおける器差性能

図5,6より6層式および7層式の整流ボックスにおける空気とLPガスの器差の差はおよそ同等の性能であり,いずれの整流ボックスでも空気による検定でLPガスを使用することができると考えられる。

しかし,6層式と7層式の整流ボックスでは7層式の整流ボックスの方が整流板の枚数が多いため,摩擦により圧力損失が大きくなると考えられる。ガス事業者は圧力損失を考慮した上でガスを供給しなければならないため,圧力損失は小さい方が望ましい。また,整流板の枚数が多くなる場合,部品点数が多くなることにより超音波ガスメーターの生産性が低下する。

上記の理由から,超音波ガスメーターの整流ボックスには,器差性能が良好で整流板の枚数が少ない6層式を採用する。

2.2.4 計測部の形状

図7に量産品における計測部の形状を示す。

図 7 量産品の計量部

図 7 量産品の計量部

図7のように量産品の計量部はケース本体の流路内部に6層式の整流ボックスが収められており,対向して取り付けられた超音波センサから送信される超音波はこの整流ボックスを通過する構造となっている。

量産品における器差試験の結果を図8に示す。

図 8 超音波ガスメーターの器差性能

図 8 超音波ガスメーターの器差性能

図8に示すように,量産品の超音波ガスメーターの器差性能は検定公差内であり,マイコンメーターの器差性能と同等の器差性能を持つことが確認できた。

2.3 ケーシングの改善

2.3.1 試作品のケーシング

図9に試作品おけるケーシングの構造を示す。

図 9 試作品におけるケーシングの構造

図 9 試作品におけるケーシングの構造

試作品のケーシングはケース本体,遮断弁フォルダ,計測フォルダ,底板で構成されている。各々の部品はねじによって締結され,締結する面にはパッキンが取り付けられている。この構造により,計測フォルダと遮断弁フォルダの組立精度が悪い場合,ケース本体に取り付けられない可能性があった。

上記のように,試作品のケーシングは部品点数が多く,組立性が良好でなかったため,これらの課題を解決する必要があった。

2.3.2 量産品のケーシング

図10に量産品におけるケーシングの構造を示す。量産品は遮断弁フォルダおよび計測フォルダがケース本体に一体化されており,ケーシングはケース本体と底板で構成されている。

図 10 量産品におけるケーシングの構造

図 10 量産品におけるケーシングの構造

量産品のケーシングは一体化されているため,使用するパッキンを減らすことができた。また,ケーシングの一体化により精度よく組立を行う工程が不要になったため,試作品の課題であった組立性も改善することができた。

2.4 圧力取出し口の検討

一般家庭用のガスメーターには都市ガス仕様とLPガス仕様があり,都市ガス仕様では遮断弁の下流側に圧力取出し口を設け,LPガス仕様では遮断弁の上流側に圧力取出し口を設ける必要がある。図11に示すように,量産品のケース本体はそれぞれの仕様に合わせた取付け穴があらかじめ設けられており,仕様に合わせて追加工を行うことでいずれの仕様にも対応できるケーシングとなっている。

図 11 圧力取り出し口の位置

図 11 圧力取り出し口の位置

2.5 復帰ボタン

マイコンメーターと同様に,超音波ガスメーターは異常を検知しガスを遮断する安全機能を持っている。安全機能が働き遮断弁が閉じた場合はガスが使用できなくなるが,その場合は復帰ボタンを押すことで遮断弁を開くことができる。復帰ボタンの構造を図12に示す。

図 12 復帰ボタンの構造

図 12 復帰ボタンの構造

ガスメーターは屋外で使用されることが多いためスイッチキャップの材質には耐候性を持つEPDMを採用し,それをスイッチキャップ台に押し込むことで取り付けられる構造となっている。

また,スイッチキャップ台はスナップフィットにより,押し込むだけでフロントケースに取り付けることができ,ねじなどの締結部品は不要となっている。

2.6 コントローラリアケース

安全機能を制御するコントローラは電池により駆動しており,それぞれケース本体に内蔵されている。試作品においては,専用のケースで電池を保持する構造になっていたが,量産品では専用のケースを必要としない構造に変更した。図13にその構造を示す。

図 13 量産品における電池の保持構造

図 13 量産品における電池の保持構造

図13に示すように,コントローラリアケースとケース本体にガイドを設け,その間で電池を保持するような構造になっているため,専用のケースを必要としない構造になっている。

3. 超音波ガスメーターの機能

3.1 概要

図14に都市ガス用超音波ガスメーター(以下,U型)およびLPガス用超音波ガスメーター(以下,EK型)の外観を示す。

図 14 超音波ガスメーターの外観

図 14 超音波ガスメーターの外観

超音波ガスメーターは計量室がないため,同等の性能を持つマイコンメーターと比較して小型,軽量にすることができた。また,U型およびEK型はパルス出力する機能を標準で搭載しており,HEMSに対応した機器と接続ができる。表1にU型およびEK型の仕様を示す。

表 1 超音波ガスメーターの仕様

項目U型EK 型
質量 [kg]1.8
高さ [mm]141
幅 [mm]173
奥行 [mm]106113
パルス出力 [L/P]1/10/100/10001/10/100

3.2 ガスの漏えい検知機能

ガスの漏えい検知機能は,ガス事業法により規定されており,30日間連続してガスの流れを検知した場合に,自動的に表示により警報し,ガスの漏えいがないことを確認するまで警報を続けるものとしている。超音波ガスメーターおよびマイコンメーターのいずれもこの規格を満足した漏えい検知機能を備えているが,超音波ガスメーターはマイコンメーターに比べ単位時間当たりに検知できる回数が多い。

例えば微少なガスの漏えいが発生している場合,超音波ガスメーターは2分ごとに漏えいを検知できるが,マイコンメーターは計量室の容積が一巡したときに検知するため60分ごとに漏えいを検知する。すなわち,マイコンメーターが1回の漏えい検知をするまでに要する時間で,超音波ガスメーターは30回の漏えい検知をすることができる。

このように,ガスの漏えい検知時間が短くなったため,消費者は安全にガスを使用することができ,ガス事業者は漏えい検査の点検回数を減少させることができる。

3.3 表示機能と安全機能

超音波ガスメーターは電子式のカウンタを採用しており,計量した流量はLiquid Crystal Display(LCD)に表示される。図15に超音波ガスメーターの表示部を示す。

図 15 超音波ガスメーターの LCD 表示

図 15 超音波ガスメーターの LCD 表示

また,図15に示すように,超音波ガスメーターは働いた安全機能の異常内容を表示するため,これまでと同様に都市ガスおよびLPガスを安全に使用することができる。表2に安全機能とLCD表示の詳細を示す。

表 2 超音波ガスメーターの安全機能

機能LCD 表示
U型EK 型
ガス栓の誤開放などの異常な大流量が流れたときに遮断。〇〇Ⓒ
ガスが長時間,流量の変動なく流れたときに遮断。Ⓐ〇Ⓒ
逆向きに取り付けた状態で流量が流れたときに表示。〇〇〇R
復帰した後,ガス漏れの疑いなどがあるときに遮断。〇〇Ⓒ
警報器や不完全燃焼警報器などの信号と連動して遮断。〇ⒷⒸ
大きな地震を検知したときに遮断。〇ⒷⒸ
ガス圧力が異常に低下したときに遮断。〇ⒷⒸ P
計測部に異常が発生したときに遮断。B
脈動の影響により機能に影響が起きたときに警報。B
コントローラや遮断機能を確認したときに表示。T〇ⒷⒸ
電池が所定の電圧以下になったときに遮断。A
連続してガスが流れ続けたときに警報を表示。〇Ⓑ〇
遮断弁が断線などで異常な状態になったときに遮断。B

4. おわりに

超音波ガスメーターは,超音波の伝搬する領域内で速度分布の偏りがある場合に誤差が発生する。この課題に対し,流路を複数の層に分けることで都市ガスやLPガスにおいても安定した器差性能を持つ超音波ガスメーターを開発することができた。

今後はガスシステム改革により,市場が変革していくことが考えられる。従来のガスメーターに加え,安全機能を搭載し,HEMSとの連携も可能な超音波ガスメーターを開発できたことで,今後も安定かつ安全なガスの供給に貢献していくことができると考えられる。

<参考文献>

(1) 日本ガスメーター工業会:日本ガスメーター工業会50年史,2003,pp.114

(2) 経済産業省:エネルギー基本計画,2014,pp.36-54

(3) 日本計量機器工業連合会:流量計の実用ナビ,2005,pp.10,31,128

<著者所属>
八幡 徹弥 アズビル金門株式会社 開発本部製品開発部
内藤 光 アズビル金門株式会社 開発本部製品開発部

この記事は、技術報告書「azbil Technical Review」の2016年04月に掲載されたものです。