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快適・省エネヒューマンファクターの技術開発

居住者満足感に基づく室温変動制御

キーワード:快適性,知的生産性,環境満足度,室温変動制御,アクチュエータゲイン連動制御

室温変動環境に着目し、温冷感/満足感/ストレス/疲労といった人的要素(ヒューマンファクター)と室内環境との関係について被験者実験を行なった。その結果、室温を26℃~28℃で周期的に変動させる室温変動環境が、室温26℃一定環境と同等以上の居住者満足度を実現できること、また、室温一定環境と比べて室温変動環境では被験者のストレス蓄積が抑制できることが分かった。室温変動を実オフィスで実現する際に室温設定値の追従性を向上させるために考案したAG(Actuator Gain)連動制御についても紹介する。

1.はじめに

資源が乏しく,少子高齢化の進む日本ではホワイトカラーを含む労働者の生産性向上は大きな課題である。オフィス空間の快適性や環境満足度はオフィスワーカーの知的生産性に影響を及ぼす要因であり,室内環境と知的生産性の関係については国内外で様々な研究が行なわれている。例えば,室温上昇に伴って作業効率の低下がみられたといった報告(1) や,温熱環境への不満が知的生産性低下と関連づけられた(2),環境満足度が高いほど作業成績注1が高く疲労が少なかった(3)といった報告があり,温熱環境への不満が生産性を低下させることは神経行動学の分野でも示されている(4)。オフィスの知的生産性向上のためには,居住者の温熱環境への満足度を向上させることが重要な施策の1つであると言える。

一方で,2015年の第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)において温室効果ガス排出削減等の新たな国際的枠組みが採択される(パリ協定)など,エネルギー消費量やCO2排出量の低減は喫緊の課題であり,これらへの配慮なしに温熱環境を論じることはできない。

このような背景のもと,経済産業省の省エネルギー技術戦略2016(5)において「快適・省エネヒューマンファクター」が重要技術として特定された。「省エネルギーと快適性,知的生産性を両立する必要性」が示され,居住者の快適性や知的生産性にかかわる環境要素や人的要素に基づいて制御技術などを駆使する実現技術が求められている。

筆者らは,このような快適性/知的生産性と省エネルギーを両立する空調の実現技術について,長年研究開発を実施しており,その1つとして,室温を周期的に変動させる室温変動環境に着目してきた。本稿では,室温変動環境の有効性について,知的生産性を支える居住者特性(環境満足度,ストレスなど)を中心に検証した被験者実験の結果(6)を報告する。併せて,室温変動環境を実オフィスの空調システムで実現するために検討した制御技術についても報告する。

注1 計算作業等,知的生産性に関連する模擬作業成績

2.室温変動環境下の居住者特性

オフィス空調では,室温を一定とする制御が広く普及している。しかし,一方で,室温を変動させることで人の知的生産性にプラスの影響を与える可能性のあること(7)や,一定の変化率以内の室温変化は問題なく受け入れられる(8)といった研究報告がある。また,筆者らの研究において,同じ室温の範囲でも温度上昇が穏やかであるほど温熱環境に対する不満が減少すること(9),時間経過に伴って通常観察される知的生産性の低下が室温変動下では抑制できる可能性(10)を示している。

これらの研究結果を踏まえ,「夏季冷房時に室温変動制御を導入した実オフィスの1日」を想定して被験者実験を行ない,室温一定環境と室温変動環境において温冷感/満足感/疲労感(心理)やストレス(生理)がどのように異なるかを比較した。

2.1 被験者実験

2.1.1 実験概要

アズビル(株)藤沢テクノセンターの温熱環境実験室において8月の連続した4週間の土日で実験を実施した。図1に実験室概要と実験風景を示す。被験者はBMI(Body Mass Indices,BMI [kg/m2] = 体重 [kg] / (身長[m])^2)が18.5 < BMI < 24の標準体型の大学生12~16名とした。温冷感に影響する着衣は,典型的な夏季着衣量である0.5 [clo] 程度に統一した。メインチャンバ内での被験者座席位置と室内環境の計測点とを図2に示す。メインチャンバは6つのVAV(Variable Air Volume)ゾーンで室温制御され,温度制御可能な床下/天井/4方位の隣室チャンバに囲まれる構造となっている。

2.1.2 実験スケジュール

図3に実験日の1日のスケジュールを示す。被験者はオフィスワーカーの通勤を模擬して8:45に藤沢テクノセンターに到着し,安静時間を経て9:00にメインチャンバ内の各々の座席に着席する。リラックスした状態で1日の説明を聞いた後,当日の体調や前日の睡眠,朝食などに関するアンケートおよび体温測定などを行ない,体調が正常な状態であるかを確認する。その後,テキストタイピングなど,一般の執務を模擬する作業を行なうセッションを午前1回,午後2回実施する。各セッションは2時間とし,セッションの前後には5~10分の計測時間を設けて,心理状態を調査するアンケートや生理計測(2.1.4 (2)参照)を行なう。セッション1と2の間に昼食時間を50分,セッション2と3の間に休憩時間15分を設けた。昼食は同じ弁当,飲み物は常温のお茶500mlペットボトル2本までに統一した。

図1 実験室と実験風景

図2 被験者位置および計測点

図3 実験スケジュール

2.1.3 実験ケース

実験ケースは,室温一定3ケース(26℃一定,27℃一定,28℃一定)と,室温変動2ケース(27℃変動,28℃変動)とし,室温変動ケースの上昇速度,下降速度はそれぞれ,40分および20分とした(図4)。室温変動は各ケースの平均室温に着目し,27℃±1℃(26℃~28℃)変動ケースを「27℃変動」,28℃±1℃(27℃~29℃)変動ケースを「28℃変動」としている。

比較用として設定した室温変動の1ケース(28℃変動)を除き,実験ケースは26℃~28℃の範囲内としている。 26℃,28℃,および,室温変動の上昇/下降速度は以下のような点を考慮して決定した。

  • 室温26℃
    快適性重視の室温設定値として実オフィスで採用される代表値である。また,夏季に藤沢テクノセンター内のオフィス建物で350名以上の社員を対象として実施された多和田らの研究(11)において,作業効率が最大となった25.7℃に近い値である。
  • 室温28℃
    建築物における衛生的環境の確保に関する法律(通称・ビル管理法)で許容される管理基準の上限値であり,省エネ重視の室温設定値として実オフィスで選択可能な値である。
  • 室温上昇速度:40分で26℃から28℃への上昇
    上昇速度が遅いほど温熱環境不満が減少する(7)一方,設定値緩和による省エネ効果は減少する。温度上昇速度はASHRAE standard 55-2013に準拠する範囲注2内の上限付近とした(Rohlesらの研/究(6)でも問題なく受け入れられた範囲)。
  • 室温下降速度:20分で28℃から26℃への下降
    速やかな熱の除去が快適性を高める(12)。通常,VAV空調システムで28℃から26℃に安定して室温を下げるには,室内の熱抵抗や内部発熱の影響で10~15分程度を要することを考慮して下降速度を20分とした。
  • 室温変動ケースでは,120分のセッション内に60分周期の室温変動が2周期連続で繰り返される。被験者は1日3回のセッションで合計6時間,6周期の室温変動に暴露される。

    なお,26℃~28℃の温度範囲は温度以外の要素を夏季オフィスの典型的な値(湿度50 [%],風速0.1 [m/s],平均放射温度 = 空気温度,着衣量0.5 [clo],代謝量1.1 [met])とすると,PMV(Predicted Mean Vote)0.20~0.87に相当する。

    図4 実験ケース

    注2  ASHRAE standard 55-2013では作用温度で規定されている(1.1℃/0.25 h未満かつ1.7℃/0.5 h未満)。

    2.1.4 計測項目

    (1)物理計測
    図2に示した計測点P1,P2,P3において,高さ1.1mの空気温度(以下,温度),グローブ温度,相対湿度,風速,CO2濃度を計測した。

    (2)被験者の心理および生理量計測
    居住者の知的生産性への影響要因である心理量(アンケートによる温冷感,満足感,疲労感)と,生理量(ストレス値)の調査を行なった。

    ① 心理量の計測

    • 温冷感,温熱環境の満足感
      図5に示すアンケートをセッション時間内に10分間隔で実施した。被験者は図5を見ながら,用紙左手の解答欄に数値を記入した。
    • 疲労感
      日本産業衛生学会産業疲労研究会の「自覚症状調べ」を各セッション前後の計測時間(図3)で実施した。

    ② 生理量の計測

    • ストレス値
      人体の周囲環境が刻々と変化する室温変動環境と室温一定環境とのストレスの違いを定量的に調査する目的で,ストレスマーカーと呼ばれる唾液アミラーゼを計測した。唾液アミラーゼとストレスの関係はすでに多くの研究が発表されており,科学的根拠が蓄積されている(13)(14)。各セッション前後の計測時間(図3)に計測を行なった。

    図5 被験者アンケート

    2.2 実験結果

    本章では,2.2.1で実験環境(物理計測結果)について述べたあとに,この環境下で得られた被験者計測結果およびエネルギー消費量について,室温変動環境と室温一定環境との比較を行なう。

    2.2.1 実験環境

    図6に各実験日におけるフロア内の平均温度(P1,P2, P3の1.1m高さ平均値)を示す。27℃変動ケースの2日間のデータは(1),(2)として各々を示している。28℃変動はケースの温度上限値29℃よりやや高めであったが,室温変動の上昇下降速度を含め,ケース設定に基づいた環境を構築できていることを確認した注3注4。湿度は38~48%,風速は0.15m/s以下であり,ケースによる大きな差異はなかった。また,CO2濃度は平均600ppm,卓上照度(代表点数点で計測)は平均700lxであり,適切な範囲に保たれていた。なお,高さ1.1m の空気温度と,高さ0.1mおよび0.6mの空気温度との差異は最大で0.6℃であり,上下温度差が小さいことを確認している。

    図6 各実験ケースの平均室温(1.1m)の推移

    注3  変動制御ケースの作用温度上昇速度はASHRAE standard 55-2013を満たす範囲であることを確認した。

    注4  着衣量0.5 [clo],代謝量1.1 [met]とした実験時PMVは0.16~0.83であり,2.1.3の試算範囲と同等であった。

    2.2.2 温冷感

    アンケート(図5)の温冷感回答値TSを,寒い側(TS<-0.5),どちらでもない(-0.5≦TS≦0.5),暑い側(TS>0.5)の3群に分けて,温冷感割合の日平均(3セッションの平均)を求めた(図7)。

    27℃変動ケースではセッション時間の半分で27℃以上となるにもかかわらず,暑い側/寒い側の温冷感割合がともに,26℃一定ケースと27℃一定ケースの間の数値をとった。また,どちらでもない(暑くも寒くもない,温冷感中立)割合は,65%および71%と,26℃一定および27℃一定と同等以上の値となった。

    図7 温冷感割合(日平均比較)

    2.2.3 満足感

    図8に満足感のアンケート結果から算出した不満申告者率の日平均(3セッション平均)比較を示す。一定ケース同士を比較すると,26℃から28℃と温度が上昇するに従い,不満申告者率が増加する傾向が確認できる。温度帯の高い28℃一定および28℃変動(27℃~29℃)では不満申告者率はおよそ20%を超え,居住者の不満が大きいことが分かる。一方で,27℃変動(26℃~28℃)では,不満申告者率が最も低い値となり,変動周期の1/2の時間帯で27℃以上となるにもかかわらず,26℃一定と同等以上の満足感を実現できていることが分かった。

    図8 不満申告者率(日平均比較)

    2.2.4 ストレス値

    図9にストレス値を示す唾液アミラーゼ活性濃度の日平均(3セッション平均)を示す。ケースごとの差異よりも,室温変動ケース群と室温一定ケース群の差異が大きく,室温一定群より室温変動群のストレス値が少ない傾向が見られた。この差異に着目し,各ケースを室温変動と室温一定の2群に分類して時間推移を見ると(図10),室温変動群と室温一定群のストレス値の差は時間経過に伴って増大する傾向が確認できた。ストレス値は通常,疲労蓄積等で時間経過に伴って増加すると考えられるが,室温変動群のストレス値はほぼ一定を保っており,ストレス値の増加が抑制されることが分かった。午後のセッション2,3の後では有意確率pが共に0.02以下となり,有意差を確認できた。なお,図10の分析では,①前日の飲酒あり,②朝食をとっていない,③朝のストレス値が高い(>40kU/L),④日内計測に欠損(遅刻,計測異常等)がある,のいずれかに該当する被験者をすべて除外している。

    図9 ストレス値

    図10 ストレス値の推移

    2.2.5 疲労感

    自覚症状調べによる疲労訴え割合を図11に示す。ストレス値の評価と同様に,室温変動と室温一定の2群の差異に着目して比較を行なった。室温変動の疲労訴え割合は室温一定と同等かやや少ない傾向が見られた。なお,日内のアンケート回答に欠損(遅刻,早退,未回答など)がある被験者は除外して分析した。

    図11 疲労訴え割合

    2.2.6 エネルギー消費量

    図12に本実験のエネルギー消費量と2.2.3で示した不満申告者率の関係を示す。算出したエネルギー消費量は空調機熱量とファン動力の合計とし,BEMS(Building Energy Management System)で収集した実測データを基に,除湿再熱に要したエネルギーを除外した後,外気条件の違いを補正している。また,27℃変動のデータは外気条件の近い代表日1日のデータで比較した。

    27℃の室温一定環境から居住者の不満解消を狙って室温設定値を変更する場合,26℃に設定値変更するよりも, 27℃変動環境とする方が合理的であることが分かる。

    図12 不満足申告者率とエネルギー消費量

    2.3 被験者実験のまとめ

    被験者実験により以下の結果が得られ,室温変動環境の有効性を確認することができた。

    • 27℃変動(26℃~28℃)の室温変動環境は,26℃一定を含むすべてのケースの中で不満申告者率が最も低く,高い水準の居住者満足度を実現できることが分かった。「暑い」側や「寒い」側の温冷感割合にも顕著な増加は見られなかった。
    • 室温変動環境では,室温一定環境と比べ,被験者のストレス蓄積が抑制されることが分かった。ストレス値および疲労訴え割合の日平均は,室温一定環境と同等かやや少ない結果であった。
    • 27℃変動の空調消費エネルギーは26℃一定と27℃一定の間となり,居住者満足感と消費エネルギーの両立という観点で, 27℃変動の有効性を確認した。
    • 3.室温変動に適した空調制御技術

      本章では,前述した室温変動環境を実オフィスで実現するための制御手法について述べる。

      3.1 実オフィスでの室温変動の課題

      オフィスを主とする一般的な建物内の温熱環境は,1日, 1週間,1カ月などの単位で比較的穏やかに変化する。また,従来主流の室温を一定とする制御(室温一定制御)の安定性を確保するためにも,空調の制御ロジックやパラメータは一般的に安定性志向で決定されることが多い。これにより,室温設定値を図4の室温変動ケースのように設定しても,安定性重視の制御応答によって,数十分単位の周期や所定の変動幅で室温を変動させることが困難な場合がある。そこで,現行の一般的なシステムで室温設定値への追従性を向上させる新たな制御手法として,アクチュエータゲイン連動制御(AG連動制御)(15)を開発した。

      3.2 一般的なVAV(Variable Air Volume)空調システム

      図13に一般的なVAV方式の空調システムの例を示す。

      空調制御単位である各VAVゾーンの室温制御ループは,各ゾーンに投入する空調空気(給気)の風量を制御するフィードバック制御(以下,FB制御)ループである。VAVコントローラは,各ゾーンの室温設定値SPrと計測室温PVrの偏差に応じた要求風量になるようにVAVユニットのダンパ開度を制御する。ここで,室温PVrと室温設定値SPrとの偏差が所定の時間を経過しても解消されない場合に,冷房/暖房の能力増減要求が各VAVコントローラから空調コントローラに送信される。空調コントローラは,これらの能力増減要求に基づいて,給気温度の変更判断と新たな給気温度設定値SPsの決定を行ない,給気温度設定値SPsと給気温度PVsとが一致するように冷温水弁の開度を変更する(給気温度制御)。

      以上のように,一般的なVAV空調システムでは,室温(風量)制御と給気温度制御は段階的になっており,風量による室温のFB制御が優先される。室温変化に即効性のある給気温度の変更は,室温一定制御の大きな外乱となり得るため,一般に頻繁には行わない。

      図13 VAV空調システムの一般例

      3.3 AG(Actuator Gain)連動制御の概要

      本節では,室温変動環境を形成するために,室温(風量)制御と同時に給気温度も積極的に変更するAG連動制御について述べる。

      図14 上に,一般的なFB制御のブロック図例を示す。図中では,FB制御の演算ブロックからみた制御対象のゲインKpを,実際に制御したい被制御物のゲインKmとアクチュエータのゲインKagに分離している。アクチュエータゲインKagの変化で生じる制御量PVの変化は,通常は制御量PVを乱す外乱と捉えられるが,制御したい設定値SPの変更に連動して,これに追従する作用となるようにKagを変更すれば,追従性を向上させることができる(AG連動)。Kagを設定値変更に追従する側にΔKag変化させてKag' = (Kag+ΔKag)とすれば,制御量PVの変化分ΔPVag = (ΔKag×Km) × ΔMVだけ追従性を向上する方向の値となる。

      これを,VAV空調システムと対応させると(図14 下),室温制御に必要な各VAVゾーンの給気風量MVrは給気温度PVsに依存するため,給気温度PVsの変更はFB制御系のアクチュエータゲインKagの変更に相当する。

      図14 フィードバック(FB)制御ブロック図(上:一般的なFB制御,下:VAV空調制御)

      3.4  AG連動によるVAV空調システム

      室温変動の追従性に課題がある一般的なVAV空調システムでは,給気温度変更に遅れを伴い,この給気温度が,室温制御FBループの制御外乱として室温設定値への追従性を阻害する要因となることが多い。例えば,図15は,室温を26℃~28℃で周期変動させる目的で室温設定値SPrを黄線のように設定しても,給気温度変更の遅れよって室温設定値SPrと給気温度PVsの上下動が反転し(室温設定値SPr上昇/下降時に給気温度PVsが下降/上昇),室温変動が阻害される例である(温熱実験室の実験データ,室温は居住域実測温度)。室温変動幅2.0℃の設定に対し,居住域温度の変動幅は0.3~0.6℃程度に留まっている。

      これに対し,AG連動制御では,SPrとPVs の変動周期を同期させ,所望の室温変動幅となるように給気温度設定値SPsを決定する(図16 給気温度設定値演算部)ため,同様の空調システムにAG連動制御を適用するだけで,1.4~2.0℃(平均1.7℃)の変動幅が実現できている(図17)。ここでは,PVsとSPrの変動周期を同期させるために(図17 ②),SPsは,給気温度制御ループの遅れ時間分を(SPrの変動よりも)前倒しして(遅れ時間補正)決定している(図17 ①)。

      なお,前述のように,この給気温度変動は室温制御ループ側の外乱ともなり得るため,補助的な範囲に留めるのが望ましく,給気温度の変動幅は過去に実施した室温一定制御の実績データを目安に決定するとよい。また,室温設定値と給気温度設定値のプロファイルを併せてあらかじめスケジューリングしておくことが可能である。

      図15 室温変動が阻害されるケースの制御応答例

      図16 AG(Actuator Gain)連動制御の制御ブロック図

      図17 AG(Actuator Gain)連動制御の制御応答例

      4.おわりに

      室温を周期的に変更する室温変動環境に着目し,快適性/知的生産性と省エネルギー/省CO2を両立する温熱環境として有望であることを,被験者実験により明らかにした。室温変動環境は,特に,知的生産性を支える環境満足度向上やストレス蓄積の抑制で有効との結果が得られた。

      室温変動環境の実現にあたり,室温設定値の追従性が課題となる場合は,AG連動制御による改善が可能である。今後は実建物での検証を重ね,居住者の快適性/知的生産性に貢献する技術として実用化を目指したい。

      なお,本報は国土交通省平成22~24年度住宅・建築関連先導技術開発助成事業「居住者満足感に基づく省エネルギー性と快適性の最適環境制御技術の開発」の一部である。

      <参考文献>

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      (15)三浦眞由美,田中雅人:制御装置および制御方法,特開2014-231939, 2014.12.11

      <著者所属>
      三浦 眞由美 アズビル株式会社 技術開発本部 HCA技術部
      上田 悠 アズビル株式会社 技術開発本部 HCA技術部
      水谷 佳奈 アズビル株式会社 ビルシステムカンパニーマーケティング本部環境マーケティング部
      原山 和也 アズビル株式会社 ビルシステムカンパニーマーケティング本部プロダクトマーケティング部
      太宰 龍太  アズビル株式会社 ビルシステムカンパニーマーケティング本部プロダクトマーケティング部
      伊香賀 俊治 慶應義塾大学 教授 理工学部 システムデザイン工学科

      この記事は、技術報告書「azbil Technical Review」の2017年04月に掲載されたものです。