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装置搭載向けに小型化し、耐ノイズ性を向上させたマスフローコントローラの開発

キーワード:マスフローコントローラ,流量制御,高速応答性,耐ノイズ性,F4H,マイクロフローセンサ

ファクトリーオートメーション(FA)市場の中でも製造装置に搭載されているマスフローコントローラには、性能や機能よりもコストやサイズが重視されるものが多い。その市場要求に応えるため、コストやサイズを抑えると同時に、装置搭載用途向けに必要な性能・機能と使いやすさを考慮し、また従来品よりも大幅に耐ノイズ性能を向上させ、ノイズ源の近くに設置されても影響を受けないよう考慮したマスフローコントローラを開発した。

1.はじめに

マスフローコントローラは主に半導体製造工程におけるプロセスガスの流量制御に使用されてきた。近年では品質の安定化,効率化,省エネルギー化などを目的とした自動化ニーズの高まりとともに,ガラス加工やロウ付けなどでのバーナ空燃比制御,工業炉雰囲気ガス制御などの一般産業市場でも使用されている。

当社では,超高速応答流速センサである「マイクロフローセンサTM」と比例バルブを組合わせたデジタルマスフローコントローラを販売しており,高機能タイプの形 MQVと低価格タイプの形 MPCの2種類がある。しかし,FA市場の中でも製造装置向けとしてはいずれもコスト・要求仕様に合わないケースもあった。

そこで,市場要求に応えるためにコストやサイズを抑えると同時に,装置搭載用途向けに必要な性能・機能と使いやすさを考慮したマスフローコントローラ 形 F4Hを開発した。超高速応答流速センサである「マイクロフローセンサ」の特長を活かし,全閉状態から設定流量±2%FS以内への整定時間0.3s(TYP.)という高速応答性を実現した。また,従来品よりも大幅に耐ノイズ性能を向上させ,ノイズ源の近くに設置されても影響を受けないようにした。また,形 F4Hの開発より,流量計製品群の統一デザイン化とハードウェア/ファームウェアの共通化の検討も行った。

本稿では形 F4Hの概要と特長を紹介し,その高速応答性と耐ノイズ性についての性能確認結果を報告する。

図1 F4Hシリーズの外観図

2.F4H シリーズの概要

形 F4Hの外観を図1に,概略仕様を表1に示す。

表1 小型デジタルマスフローコントローラF4Hの概略仕様

バルブ方式比例ソレノイドバルブ(ノーマリークローズ)
フルスケール流量
(窒素換算値)
F4H9050:50.00 mL/min(normal)
F4H9200:200.0 mL/min(normal)
F4H9500:500.0 mL/min(normal)
F4H0002:2.000 L/min(normal)
F4H0005:5.000 L/min(normal)
F4H0020:20.00 L/min(normal)
※L/min(normal)は0℃,1気圧に換算した1分間あたりの体積流量を表す。
対応ガス種類空気/窒素,酸素,アルゴン,炭酸ガス,水素,ヘリウム
応答性設定±2 %FSに0.3s(TYP.)
制御範囲2~100 %FS (F4H9050は4~100 %FS)
精度±1 %FS (F4H9050は±2 %FS))
繰り返し性±0.2 %FS + 1 digit以下
接ガス部材質SUS316,フッ素樹脂,フッ素ゴム
接続方式9/16-18UNF, Rc1/4, 1/4Swagelok相当,1/4VCR相当
通信仕様通信方式:RS-485(3線式)
プロトコル :CPL通信,Modbus RTU
接続:RJ45 × 2
電源定格:DC24V,消費電流:300mA max
外形寸法76(W)×100(H)×28(D) mm
(継手・コネクタの突起部分を除く)
質量約700 g (継手除く)

2.1 特長

形 F4Hは以下のような特長がある。

(1)高速制御応答性
形 F4Hでは,超高速応答流速センサである「マイクロフローセンサ」,比例バルブ,PID制御の組合わせにより,全閉状態から制御を開始したときに設定流量±2%FS以内に安定するまでの時間が0.3s(TYP.)という高速応答性を実現した。

(2)小型・薄型化
形 F4Hは装置に必要な機能に徹することで,当社従来機種(MQVシリーズ)に対して50%の体積に小型・薄型化することを実現した。幅28mmの薄型設計のため,連装の際に配管の間隔を詰めることが可能になった。また,これまでできなかった垂直配管にも対応した。これらにより顧客装置内での設置自由度の向上および省スペース化が可能となった。

(3)設定・LED表示・外部接続部を上面に集約
形 F4Hでは設定・LED表示・外部接続部を上面に集約した。これにより,配管後の配線接続,設定変更,LED表示の確認が容易に行えるようになり,現場での作業性向上が可能となった。

図2 従来機種との比較図

(4)流量計製品群の統一化・共通化
当社の従来マスフロー製品は,デザインの訴求コンセプトが未定義であり,製品ごとにデザインが異なっていた。形 F4Hより訴求コンセプトを「堅実,精緻,柔軟」とし,ブラックボディ&シルバーフェースのデザインを採用して,流量計製品群デザインの統一化を図る。
また,流量計製品群でのハードウェア/ファームウェアの共通化も行い,機能ブロックごとに設計を行うことにした。これにより流量計開発の期間短縮,工数削減が見込まれる。

(5)全機種に通信機能標準搭載
IoT対応に備えて全機種に通信機能を搭載した。形 F4Hが持つ多くの情報を通信で上位機器に上げることが可能で,これにより形 F4Hの故障診断にとどまらず,装置診断にも発展させることが可能となった。
また,PLCとの接続をアナログ信号から通信に移行することでアナログI/Oモジュールや接続ケーブルの削減が可能となった。

<モニタ可能情報>
設定流量,瞬時流量,バルブ駆動電流,アラーム履歴,バルブ駆動回数,形番/シリアル番号,設定パラメータ など

<設定可能項目>
ガス種類,ガス補正係数,流量レンジ,バルブ制御/全開/全閉,アラーム/イベントリセット,流量単位変更 など

(6)単一電源動作
従来のマスフローコントローラでは一般にはあまり使用されていないDC±15Vの両電源を必要としたため,マスフローコントローラ用に専用電源を用意しなければならなかった。形 F4Hでは当社従来機種(形 MQV)と同様にDC24Vの単一電源での動作を可能としたため,安価な汎用電源が使用でき,他機器との電源共用化も可能となった。
また,実験用などの簡易的用途向けとして,簡単に電源配線ができるよう,ACアダプタが接続できる電源ジャックも用意した。

図3 電源回路と信号回路の絶縁

(7)マルチガス対応
ガス種類設定機能により使用するガス種類の変更が可能となった。ガス種類ごとにマスフローコントローラを用意することが不要となり,装置内の設置台数の削減,およびユーザーの選定機種削減・在庫削減に寄与する。

(8)耐ノイズ性能
形 F4Hは,図3のようにバルブ駆動回路を他の回路から絶縁することで,小容量の絶縁型電源(電源回路3)での「電源回路とアナログ回路の絶縁」(特許第5132617号)を実現した。これにより電源線からノイズが入ってきてもアナログ信号への影響がなく耐ノイズ性に優れた設計となった。
また,センサとセンサCPUの距離を短くし,センサCPU以降はデジタル信号で処理するようにしたことで,アナログ信号の区間が短くなりノイズ影響を受けにくい設計とした。

2.2 アプリケーション例

図4は真空成膜加工(ハードディスク,ブルーレイディスク,液晶パネル,タッチパネル用ガラスなど)における,スパッタリング装置でのアプリケーション例である。このアプリケーション例ではマスフローコントローラを用いてアルゴンガス,酸素,窒素を供給しており,次のことが重要視されている。

① 高周波電源によるノイズ影響を受けず,安定した流量制御を行えること

② 反応性スパッタリングの成膜レートを速くして,全体の生産性を上げること

これらに対し,形 F4Hの耐ノイズ性,高速制御応答性が有効である。耐ノイズ性に優れた形 F4Hを使用することで安定した流量制御を行うことが可能となり,品質のばらつきをなくし,歩留まりを向上することができる。また,高速制御応答性により遷移モードでの反応性スパッタリングが実現でき,生産性も向上することができる。

図4 スパッタリング装置でのアプリケーション例

3.システム構成

形 F4Hの構成ブロックを図5に示す。

主な構成は,流量計測部,設定・表示・外部接続部,制御回路,比例バルブに大別できる。

(1)流量計測部
流路の壁面に「マイクロフローセンサ」を設置し,センサの上流側に整流用の金網を設けただけの非常にシンプルな構造とした。

(2)設定・LED表示・外部接続部
形 F4Hでは,主要な設定・LED表示・外部接続部は本体上面に集約した。
通信設定用としてロータリスイッチ(3点)を搭載しており,通信速度および条件設定,通信アドレス設定を行うことができる。製品の状態認識用としてLED(2点)を搭載しており, LEDの点灯・点滅パターンで電源のON/OFF,通信状態などを認識することができる。
外部接続用としてD-sub9ピンコネクタ(オス)とRJ45コネクタ(2口)を搭載した。D-sub9ピンコネクタ(オス)は電源DC24Vの供給,アナログ入出力,外部接点入力,イベント・アラーム出力に使用する。RJ45コネクタ(2口)はRS-485通信用に使用し,複数台をデイジーチェーンで接続することができる。

図5 構成ブロック図

(3)制御回路
「マイクロフローセンサ」で検出した制御流量信号はセンサCPU内で流量データに変換され,通信でメインCPUへ送られる。流量データと設定流量をメインCPU内で比較演算し,その結果に基づいて比例バルブへ駆動電流を出力して流量制御を行っている。
RS-485通信を使用することで流量設定の書き込みと制御流量の読み出しが可能である。そのほかの設定の読み出し・書き込み,イベント・アラームなどの情報の読み出しも可能である。
また,従来の当社マスフローコントローラと同様に流量設定は外部アナログ入力による設定も可能であり,制御流量の外部アナログ出力も行えるので外部機器とアナログインターフェースによる接続を行うことも可能である。
そのほかに通信設定用のロータリスイッチ(3点),外部接点入力(1点),イベント・アラーム出力(1点)を備えており,これらを使用して機能の設定・割当てを行うことができる。

(4)比例バルブ
ノーマリークローズタイプの比例ソレノイドバルブを採用した。流量の比例制御に加えて閉止能力も持たせるため,弁の形状をフラットにし,ガスの流れ方向を通常の比例弁とは逆となるflow to close構造(弁側から弁座側への流れ)とした。

4.ハードウェア/ファームウェアの共通化設計

形 F4Hでは,2.1の(4)で前述したとおり,流量計製品群でのハードウェア/ファームウェアの共通化も検討を行い,機能ブロックごとに設計を行った。

図6に共通化のイメージ図を示す。大きく3つに分類することができる。

(1)低価格流量計
流路ボディ,「マイクロフローセンサ」,センサの信号を処理するセンサCPUで構成される

(2)高機能流量計
低価格流量計に,流量データを基に様々な機能を実現するためのメインCPUを加えた流量計

(3)流量コントローラ
高機能流量計にバルブ駆動回路と比例弁を加えた流量コントローラ

図6 共通化のイメージ図

各CPUのF/W, CPU周りの回路,流路は機能ごとにブロック化した設計とした。目的・用途に応じて必要な機能を選択して組合わせるようにしたことで,今後の流量計開発の期間短縮,工数削減を見込めるものとした。

また,形 F4Hでは,今後の通信機能拡張を想定して,設定・表示・外部接続部を搭載するトップパネルの設計を行った。通信方式には様々な種類があり,それぞれの方式により接続コネクタの種類が異なるが,今後の拡張で想定しているすべての通信方式で同じトップパネルが使用できる設計とした。

5.性能確認試験結果

形 F4Hの特長である,高速制御応答性と耐ノイズ性について性能確認試験を行った。

5.1 高速応答性の確認

図7に示す装置にて比例バルブ全閉の状態から制御を開始したときの応答性を確認した結果を図8に示す。

図7 制御応答性測定装置 (F4H9500:500mL/minレンジ品, F4H0002:2L/minレンジ品)

図8 全閉→制御開始時の制御特性(流体:空気, 動作差圧:0.2MPa, 横軸:200ms/div, 縦軸:20%FS/div)

流量設定はフルスケール流量の20%,40%,60%, 80%,100%の5ポイント,流体は空気,差圧は標準差圧0.2 MPaで行った。すべての設定流量で制御開始から300ms以内に整定していることが分かる。

5.2 耐ノイズ性の確認

図9に示すRF伝導性イミュニティ試験装置にて,形 F4H (電源回路:絶縁)と従来のデジタルマスフローコントローラ(電源回路:非絶縁)それぞれのRF伝導性イミュニティ試験を行い,耐ノイズ性の比較を行った。

<試験条件>

  • 印加条件>
    周波数範囲:150kHz~80MHz(1%ステップ,1秒保持)変調方式 :1kHz 80%振幅変調
    印加レベル:3 Ve.m.f
  • 印加箇所:電源ライン
  • EUT設定:SP 50%FS PV 0-5V出力
  • 判定条件:
    (1) 制御流量シフト±2%FS以内(基準器の0-5V出力で確認)
    (2) 0-5V出力シフト±2%FS以内

図9 RF伝導性イミュニティ試験装置

図10に形 F4Hと従来のデジタルマスフローコントローラの耐ノイズ性の比較を示す。

非絶縁の従来デジタルマスフローコントローラでは,主なスパッタリング装置のRF電源周波数にあたる13.56MHz付近および高周波数帯にて流量制御が不安定になるのに対し,形 F4Hでは試験周波数範囲150kHz~80MHzの全帯域で安定した流量制御となっている。

図10 耐ノイズ性の比較(a)

図10 耐ノイズ性の比較(b)

6.まとめ

性能確認試験結果より,形 F4Hは高速応答制御性,耐ノイズ性に優れていることが分かり,FA市場の製造装置や試験装置搭載向けマスフローコントローラとして適していることが確認できた。

7.おわりに

今回は通信方式としてRS-485(CPL通信/Modbus RTU)を採用し標準搭載としたが,市場では他の様々な通信方式を搭載したマスフローコントローラの需要もあり,これらの通信方式への対応が求められている。今後,市場で求められている通信方式の精査を行い,F4Hシリーズの通信方式の拡張を検討していきたい。

<参考文献>

(1) 百瀬 修,伊勢谷 順一, 「デジタルマスフローコントローラCMQシリーズの開発」,Savemation Review「マイクロフローセンサ」特集号,pp.74~80

<商標>
マイクロフローセンサはアズビル株式会社の商標です。

<著者所属>
舘山 哲也 アズビル株式会社 アドバンスドオートメーションカンパニーCP開発部

この記事は、技術報告書「azbil Technical Review」の2017年04月に掲載されたものです。