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プラントの安全・安心操業に貢献するバルブ解析診断サービス

キーワード:バルブ,メンテナンス,診断,状態基準保全,検証,IoT,ビッグデータ,予知保全

プラントを操業している顧客の中には、バルブの状態を把握するために大量のデータを保持しているが、そのデータは必ずしも有効に活用できていない状況がある。アズビルではこのような課題を解決するために、バルブ解析診断サービスを提供している。このサービスでは、これまでバルブメンテナンスのエキスパートが獲得してきた知見に基づき、大量のデータを効率的に解析して、解析診断結果を分かりやすく報告することで、顧客が生産設備を安全で安定的に操業することに貢献している。

1.はじめに

製造現場で使用されているバルブは,プロセスにおける影響度に合わせて重要度がランク分けされている。重要度が高いバルブでトラブルが発生すると設備停止を招くだけでなく,場合によっては災害へ繋がる危険性を持ち併せている。

設備を安定稼働させるためにはバルブが正常な状態で稼働し続ける必要がある。それは,設備を預かる生産部門の課題でもあるが,バルブの性能を保持しつづけるメンテナンスを司る保全部門にもいえ,共通の課題である。いかに効率的にバルブを安定稼働させていくかが問われている。

このような課題に対してバルブ・ポジショナメーカーは,バルブ診断技術を搭載したスマートポジショナを販売している。スマートポジショナはデジタル通信(HART通信, FOUNDATION Fieldbus通信など)を使って診断データを提供する機能を持つ。また,診断データを収集するシステムの販売も各ベンダから行われている。

一方顧客の側では,上記のようなバルブ診断技術を使って試行錯誤しながら,時間基準保全(Time Based Maintenance)から状態基準保全(Condition Based Maintenance)へ移行させていく動きがある(1)

バルブの状態基準保全を実現するために大量のデータを保持している顧客もあるが,そのデータをどのように活用していいのか困惑している現状がある。バルブの使用環境など様々な診断上の情報を複合的に見極めることが重要であるが,顧客にとってはこの大量のデータから診断情報を読み取ることが難しいからである(2)(3)

アズビルのバルブ解析診断サービスでは,バルブメンテナンスのエキスパートが獲得してきた知見に基づき,大量のデータを効率的に解析して,解析診断結果を分かりやすく報告する。

本稿ではバルブ解析診断サービスの内容と,顧客に提供する価値について報告する。2章ではアズビルのバルブ診断技術について,3章ではバルブ診断技術を応用したバルブ解析診断サービスについて,4章ではアズビルのバルブ解析診断の今後の展望について述べる。

2.アズビルのバルブ診断技術

当社では以前より,バルブ診断関連の技術開発や商品開発に力を入れてきている(4)(5)

具体的には,スマート・バルブ・ポジショナ上で診断指標を算出する機能や,指標値を活用するための上位システムの開発などが挙げられる。 顧客のプラントにおける状態基準保全の実現のためには,バルブの状態を判断するための多くの指標や,それらを基に次回定修時に開放点検が必要なバルブの絞り込みを行うための技術開発が重要と考えているからである。

また,これらが有機的に連携してバルブ診断を行えるよう,ポジショナとシステム相互に要求事項を交換しながら開発を進めている。また後述するとおり,顧客だけで診断データを活用することが難しい場合に,当社のバルブ専門家による診断を行うサービスの開発なども並行して進めている。

本章では,バルブ解析診断サービスに先立ち,当社が開発したバルブ診断技術を具体的に紹介する。2.1ではスマート・バルブ・ポジショナによる診断指標について,2.2では上位システムであるバルブメンテナンスサポートシステムについて述べる。

2.1 スマート・バルブ・ポジショナ

本節では,診断機能を搭載した当社のスマート・バルブ・ポジショナである,300シリーズおよび,2014年より販売を開始した700シリーズについて述べる。

どちらのポジショナにもオンライン診断(運転中の診断)とオフライン診断(主に運転停止中に,バルブをアクティブに動作させて行うテスト)の機能を搭載している。オフライン診断でバルブの異常を検出できるのはある意味当然と考え,当社ではオンライン診断の充実を図っている。特に700シリーズでは,新たに空気圧センサを搭載したことにより,摩擦力異常や空気回路異常などの検出を行えるようになり,よりバルブの状態を把握できるようになった。

以下,特長的なオンライン診断アルゴリズムについて説明を行う。

(1)スティックスリップ
スティックスリップ指標は,バルブのグランド部,プラグ・シート部などで発生する固着・かじり現象の予兆となるスティックスリップ動作を定量的に捉えるための指標である。
スティックスリップ動作が発生すると,滑り動作と付着動作により弁軸速度の分布が正常時とは大きく異なる。そこで,弁軸速度の大きさの平均の2乗(X)と2乗平均(Y)の比Y/Xを監視することで,弁軸速度の分布が変化したことを捉えることができる。

図1 スティックスリップ指標

(2)開度別頻度分布
開度別頻度分布は,バルブが稼働していた開度の頻度を開度別に比率で表示したものである。調節弁の場合には,流体条件や配管条件から常用開度をおよそ60~70%になるようにバルブの選定を行う。開度別頻度分布を見ることでサイジングが適切に行われたかの確認ができる。
また,常用開度の変化を時系列で捉えることでプロセス制御としての変化や,配管やバルブの詰まりといった異常を早期に発見することができる。

図2 開度別頻度分布

(3)出力空気圧妥当性/最大摩擦力モニタリング
700シリーズでは新たに圧力センサを搭載したことで,バルブシグネチャ検査と呼ばれるオフライン診断を実行できるようになった。バルブシグネチャ検査では,ポジショナの入力信号をランプ状に全閉⇔全開させ,その時のポジショナ出力空気圧と開度の関係から診断を行うものである。
出力空気圧妥当性/最大摩擦力モニタリングでは,オンライン時にバルブシグネチャ検査と同様に,ポジショナ出力空気圧と開度のデータを取得する。
本指標値をモニタリングすることにより,弁軸摩擦の変化,操作器スプリング倒れ,閉め切り(あるいは開け切り)不良を検出することができる。

図3 出力空気圧妥当性/最大摩擦力

2.2 PLUG-IN Valstaff

近年,HARTやFOUNDATION Fieldbusといったデジタル通信の普及により機器管理システムでフィールド機器の管理を行うことができるようになってきた。一方,バルブ診断のように機器に特化した機能は汎用的な機器管理システムだけでカバーすることは難しく,連携するアプリケーションや機器管理システムへのプラグインとして提供されることが多い。

PLUG-IN Valstaff(以下,PVS)は,当社製デバイス・マネジメント・システムInnovativeField Organizer™ または横河電機株式会社製 統合機器管理パッケージPRM (Plant Resource Manager)上で動作する,バルブ・メンテナンス・サポートシステムである。PVSでは,300/700シリーズの診断機能を活かした,オンライン診断とオフライン診断の機能を提供している。

(1)オンライン診断
バルブの開度指示値や実弁開度,あるいは300/700シリーズが算出するオンライン診断指標値を定期的に収集・蓄積し,画面上のグラフ表示でバルブの状態を確認することができる。

図4 オンライン診断画面

(2)オフライン診断(テスト機能)
ステップ応答テスト,バルブシグネチャ,パーシャルストロークテスト,フルストロークテストの実行と結果の表示を行うことができる。

(3)レポート出力
オンライン診断やテスト結果をレポートして出力することができる。このレポートを見ることで,定修時にメンテナンスすべきバルブを特定するための情報を得ることができる

図5 レポートの一例(イメージ)

3.バルブ解析診断サービス

バルブ解析診断サービスでは,診断データの収集から解析診断・比較検証そして次へのアクションに至る一貫したバルブに対するPDCAサイクルを顧客とともに築き上げていくサービスとして提供をしている。

図6 バルブに対するPDCAサイクル

本章では,バルブ解析診断サービスを具体的に紹介する。3.1ではデータに基づくバルブ解析診断サービスの進め方について,3.2ではPVSで蓄えられた大量データを収集する方法について,3.3では大量データから処理されたバルブ解析診断レポートについて,3.4では大量データを短期間で効率よく実施可能にした解析診断ツールについて述べる。

3.1 サービスの流れ

本節ではバルブ解析診断サービスにおける代表的な流れについて記述する。

(1)基準値の構築
バルブ解析診断は,基準となる値からの異常傾向データを活用しているため,基準となる値をバルブ試運転時に適切に決めることがもっとも重要である。基準値が適正に定められていない状態ではポジショナから出力されている診断データの信憑性が損なわれてしまう。

(2)診断データの収集と解析処理
PVSに蓄積されたデータを2とおりの方法(「3.2 データ収集」参照)で収集した後,当社で開発したソフトウェア(「3.4 解析診断ツール」参照)で処理することで,初期の解析作業を効率的に実施する。

(3)レポート作成と解析診断結果報告
初期の解析処理を実施した後に,メンテナンスの知見や顧客から提供されたバルブ固有の情報などを踏まえてレポートを作成する。レポートには,1次スクリーニング診断,詳細解析診断の2種類がある(「3.3 レポート作成」)。
このレポートを基に,顧客と解析診断結果を討論する。このとき顧客に対して,保全部門と生産・製造部門,アズビルの3者で討論を行うことを推奨している。関係部門が一緒に討論することで,解析診断結果の判定がバルブによる事象なのか,制御による事象なのかを効率的に把握できる。また,保全部門と生産・製造部門の共有課題として認識することが可能となり,課題解決へのアクションが効果的に行える。さらに討論の中で,装置稼働状況やバルブの重要性を加味してメンテナンス対象を決定できる。

(4)比較検証
解析診断結果と実際の分解状態を比較検証するエキスパートメンテナンスを提供する。

(5)検証結果報告
本サービスでは,検証結果と解析診断結果とを比較した検証報告書の提供も行っている。解析診断結果報告と同様に顧客の保全部門と生産・製造部門,アズビルの3者で討論を行うことで,さらなる課題を発掘する。
バルブ解析診断サービスにおいて,前述の比較検証を実施することにより,バルブ固有特性を把握することが可能となる。さらに比較検証を繰り返すことで,より精度の高い情報を提供できるようになる。

図7 検証報告書(イメージ)

3.2 データ収集

診断指標値データ量はポジショナ接続台数が増えるのに比例して大きくなってしまう。当社では必要に応じて異なる2つの方法でデータ収集を行う。

以下,2種類のデータ収集について述べる。

(1)顧客事業所訪問でのデータ収集
当社では顧客に密着したサービス拠点を展開しており,専門サービス員が,コミュニケーションを目的として顧客事業所を訪問する。このときにPVSの稼働状況や,システム上のバルブの異常検出有無をヒアリングするとともに,一定期間のPVSのデータをまとめて収集する。

(2)リモートからのデータ収集
タイムリーにバルブの異常を把握することを目的として,顧客のプラントに設置されたPVSとアズビルのリモートセンターをVPNで接続し,定期的にデータを収集する。

図8 リモート収集の仕組み

これにより,細かいサンプリング周期で収集した大量のデータを自動でリモートセンターに転送することができ,短い間隔で解析診断の実施が可能である。その結果,バルブの異常を早期に気付くことができ,顧客の生産設備のより一層安全で安定した操業を支援する。

3.3 レポート作成

バルブ解析診断のレポートは大きく分けて2種類ある。以下に詳細を説明する。

(1)1次スクリーニング診断

図9 1次スクリーニング診断結果(イメージ)

解析診断対象のバルブが大量にある場合においても,短期間で効率的に解析診断結果を顧客へ提供可能にする目的で,1次スクリーニング診断結果を提供する。解析診断結果はリスト形式で出力され,この中で項目ごとのレーダーチャートとともに総合判定結果を表示する。

レーダーチャートでは良い状態を3点として①スティックスリップ②バルブシャフト③トリム④アクチュエータ⑤コントロール⑥ポジショナの状態を把握できる。

図10 レーダーチャート

総合判定は,4段階(開放推奨,精密検査,経過観察,良好)でバルブの良否を表示する。

(2)詳細解析診断
生産設備におけるバルブの重要性と,1次スクリーニング診断結果を照らし合わせて,さらに深く調べるバルブを絞り込み,より詳細な解析を行う。

図11 詳細解析診断結果(イメージ)

PVSで保持している診断指標値をグラフ化させて時系列による状態傾向を表示するとともに,独自の診断アルゴリズムによって各部位の異常を個別に判定し,詳細なバルブの状態を可視化して,解析診断結果レポートとして提供する。

図12 個別判定結果(左)      図13 バルブイメージ(右)

解析診断結果レポートの中では,バルブイメージの色を判定結果に応じて4段階で表示することによって,顧客にも理解しやすいように工夫している。

詳細解析診断では,過去4回分の履歴(今回の解析診断結果を含む)を表示しているので,過去の解析時点からの推移も1つのレポートで確認することができるようになっている。

3.4 解析診断ツール

バルブ解析診断サービスを短期間で効率よく実施可能にするために,当社では独自に開発した解析診断ツールを活用している。

図14 解析診断ツール

従来は,PVSのデータ解析作業にはグラフ作成などの人手がかかっていたため,長期間のデータの解析は困難で,解析可能なバルブ台数も限られていた。また,解析作業は経験豊富なエキスパートしか行えず,ノウハウの継承が課題であった。

解析診断ツールでは,人手で行っていた作業を極限まで自動化するロジックの作りこみを行ったことにより,高速化と効率化を実現している。また,非エキスパートでも解析作業が行えるよう,人が判断していた部分をアルゴリズム化して搭載することで,判断の自動化と均質な解析が可能となった。

このような解析診断ツールに加えて,顧客事業所への訪問によるデータ収集のためのツールも活用している。この方式でのデータ収集では,顧客事業所からまとめて収集した数GB~十数GBのPVSのバックアップデータ(オンライン診断データ,オフライン診断データ)を,アズビルの営業所からリモートセンターに短時間で転送する必要がある。そのためこのツールでは,PVSのデータ形式に最適な方式でデータを圧縮し,リモートセンターに転送した後,センター側で展開することによって,解析診断ツールですぐに解析が実行できるようになる。

図15 データ転送ツール

4.今後の展望

バルブ解析診断サービスを発展させて,(1)メンテナンス計画の最適化による高いコスト削減効果の実現,(2)バルブ解析診断のリアルタイム性の向上という顧客価値を提供していきたい。

(1)のメンテナンス計画の最適化のためには,バルブの余寿命予測が効果的と考えている。バルブ解析診断サービスを繰り返すことで解析診断結果を蓄積させ,そこで得られた多彩な使用環境の情報を比較・分析する。例えば,特定条件下で使用されているバルブの状態を把握することで,メンテナンスが必要な時期までの余寿命予測が可能となると考えている。

このような取組みを通じて,バルブ解析診断の精度を継続的に向上させ,知見の反映と継承をし続けるメンテナンスサイクルの支援を実現していきたい。

(2)のリアルタイム性向上のためには,顧客の担当者がラウド形式で任意のタイミングでバルブ解析診断の結果を確認できるようにすることを検討している。これにより,顧客は常に高度なバルブ解析診断を受けることができ,突発的な運転停止のリスク回避等が可能になる。

図16 クラウド形式でのバルブ解析診断

5.おわりに

本稿では,これまでバルブメンテナンスのエキスパートが獲得してきた知見に基づき,大量のデータの解析診断を効率的に行い,メンテナンス検証以降のアクションまで一貫して行うバルブ解析診断サービスに関して報告した。

バルブメンテナンスに関わる一連のPDCAを顧客と一体となって実施していくことで,バルブ異常の兆候の早期発見などの顧客価値を生み出し,プラントの操業の安全・安心に貢献していきたい。

<参考文献>

(1) ローランド・ベルガー:「Think Act」 2015年6月号 特集「次世代メンテナンスのあり方」

(2) 一般社団法人 電子情報技術産業協会 2011年度 制御・エネルギー管理専門委員会予知保全WG編:予知保全技術に関する調査報告書(2012年1月)

(3) 経済産業省産業構造審議会 保安分科会高圧ガス小委員会:第10回配布資料 資料5「高圧ガス保安のスマート化の検討について(案)」(2016年3月)

(4) 福田ほか:安全・安心操業を実現するバルブ・ポジショナ, Azbil Technical Review, 2014,2014年4月発行号, pp.54-61

(5) 飯田ほか:状態基準保全を支援する調節弁診断アプリケーションの開発, Azbil Technical Review, 2015, 2015年4月発行号,pp.3-10

<商標>
PRMは,横河電機株式会社の商標です。
HARTは,HART Communication Foundationの商標です。
FOUNDATIONは,Fieldbus Foundationの商標です。
Valstaff,InnovativeField Organizerは,アズビル株式会社の商標です。  

<著者所属>
石原 亨 アズビル金門株式会社 ITソリューション本部ITソリューション開発部
青田 直之 アズビル金門株式会社 ITソリューション本部ITソリューション開発部
山﨑 史明 アズビル株式会社 サービス本部サービス技術2部

この記事は、技術報告書「azbil Technical Review」の2017年04月に掲載されたものです。