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ビル管理業務の効率化に貢献するビル向けクラウドサービスの開発

設備オペレータにベストプラクティスを提供する設備保全管理機能

キーワード:クラウドサービス,設備保全管理,ベストプラクティス

ビルの管理業務を支援する、「ビル向けクラウドサービス」のメニューの1つとして、設備保全管理機能を開発し、サービス提供を開始した。本機能は、ビルの各種設備を管理する設備オペレータの日常業務を支援することを目的とし、“Share Best Practices”という開発コンセプトの実現に向けて機能を設計した。本稿では、日々蓄積される多種多様で膨大な履歴を活用して日常業務を支援する機能や、計画立案を支援する機能を中心に紹介する。

1.はじめに

少子高齢化に伴う長期的な不動産需要の減少懸念や,官公庁物件の入札化,民間物件の不動産証券化の流れが顕在化してきた。ビルの設備保全管理業務は,より一層の効率化を達成しつつ,ビルの居住者に対して快適な居住空間の提供などのサービス品質のさらなる向上が求められている。

また,ビルの寿命は一般的に30年から50年,あるいは,海外では100年超とも言われるほど長期間であり,ビルが建て替えられるまで継続した管理が必要となる。しかし,このように長期にわたっての管理となるため,途中で熟練者が退職したり,場合によっては設備管理会社ごと入れ替わることも珍しくない。その際にうまく業務の引き継ぎが行われないと今まで蓄積してきた知見やノウハウが引き継がれず,サービス品質の低下を招く恐れがある。

一方で,情報通信技術の発達や通信インフラの整備により,インターネット経由でアプリケーションやデータを利用者に提供するクラウドサービスが急速に普及してきている。 このような状況の中で,蓄積された膨大な履歴を活用して設備オペレータの日常業務や計画立案業務を支援する設備保全管理(BM)を開発しサービス提供を開始した。

本稿では,ビル向けクラウドサービスの設備保全管理(BM)について紹介する。

2. 概要

2.1 ビル向けクラウドサービス

ビル向けクラウドサービスは,ビルオーナーや設備オペレータ,居住者などビルに関わる様々な利害関係者に対してインターネットを経由してサービスを提供する。本稿で紹介する設備保全管理(BM)だけでなく,エネルギー管理(EM),テナントサービス(TS),最適運用(OP)などのサービスメニューを用意しており,顧客は必要なメニューを組み合わせて利用することができる。

クラウドサービスというシステム形態のメリットとしては一般的に利便性の向上やコスト削減などが挙げられる。設備保全管理業務では,設備オペレータがあらゆる場所で作業結果を記録でき,ビルオーナーが必要な時に管理状況を確認できるシステムが求められる。クラウドによってサービスを提供することで利用者は場所や端末,時間帯を問わず利用することができる。

表1 サービスメニュー一覧

2.2 開発コンセプト

次に,設備保全管理(BM)の開発コンセプト“Share Best Practices”について紹介する。

設備オペレータに日常業務の「ベストプラクティス」を提供することを開発コンセプトとして立案した。ベストプラクティスとは,ある結果を得るのに最も効率のよい技法,手法,プロセス,活動のことでサービス品質の向上に寄与するものであることを含んでいる。例えば日常業務を行う際に,蓄積した作業履歴から類似事例を抽出し作業内容や注意事項などを提示することで,より効率的で質の高い手順の立案を支援できると考えている。詳細については3章以降で紹介する。

2.3 機能概要

ビルの設備保全管理業務は,電気設備や空調設備など各種設備の運転監視や,定期点検,修繕などを行い,設備の機能維持を図っている。また,突発的な設備のトラブル対応や居住者からのクレーム対応,ビルオーナーへの報告業務も含まれ,さらに,設備の性能を確認し設備更新計画や省エネルギー計画などを立案することも業務に含まれる場合もある。

図1 設備管理業務

このような多岐にわたる業務をサポートするために,設備保全管理(BM)では多くの機能を実装している。

図2のように,まず,日常業務をサポートする機能として業務の流れに沿って,「計画」・「実施」・「報告」・「照会」に分類しそれぞれのフェーズで必要となる機能を実装した。また,基本となる台帳類を管理する機能や,蓄積したデータを活用して計画を立案したり,集計・分析する機能も実装した。例えば,集計・分析機能に含まれる稼動実績管理は,設備の運転時間や投入回数をカウントする機能であり,警報データ管理は,設備の故障情報や異常情報を収集・蓄積する機能である。これらの機能で分析した結果は設備の修繕計画や,改修計画に役立てられる。これは,様々なモノをネットワークにつなぎ,そこで得られたデータを活用することで課題解決や新たな価値創出を実現する“IoT(Internet of Things)”の概念に沿ったものであり,今後,さらに発展していく領域であると捉えている。

図2 機能の全体像と枠組み

3. 日常業務の支援機能

設備オペレータの日常業務をタイムリーに把握できるダッシュボード画面と,機能を横断して一括で蓄積情報を検索できる総合検索機能,そして現場に即した対策立案を支援するアシスト機能を紹介する。最後に日常業務におけるベストプラクティスの提供事例を示す。

3.1 ダッシュボード

本システムにログインして最初に表示されるのが図3のダッシュボード画面である。設備オペレータは,業務開始前に今日の作業内容や対応すべき項目などを把握する。この作業を効率良く完了できるようにダッシュボード画面には業務の概況を直観的に把握できるデザインを採用した。当画面では作業件数や進捗状況などの日常業務に関する情報をタイル形式で表示させている。具体的な表示項目については表2に整理した。また図4,図5に代表的なタイル表示の例を示す。

図3 ダッシュボード画面

表2 タイルごとの表示項目

番号タイル名称表示内容
今日の作業本日実施する作業の進捗状況と,作業残件数(図4を参照)
未完了作業本日までの未完了作業件数(図4を参照)
受付済本日受付登録されたトラブル&リクエスト履歴件数
進捗状況進捗状況が“未処置”と“対応中”であるトラブル&リクエスト作業件数
今日の引継事項表示期間内にある引継事項件数
昨日の業務日誌昨日の業務日誌の作成状況
要発注物品在庫下限値以下となり,発注が必要となった物品数
しきい値超過稼動実績の値が,監視値または警告値を超過した設備機器台数
天気予報3時間ごとの建物所在地周辺の天気
スケジュール作業スケジュールのガントチャート(図5を参照)

図4 ①「今日の作業」タイルと②「未完了作業」タイル

図5 ⑩「スケジュール」タイル

実施した作業や発生したトラブルなどを登録すると,即時にダッシュボードに反映されるため,タイムリーな作業状況の把握ができるとともに,設備オペレータ間の情報の共有にも有効である。また,詳細な情報を確認したい場合はタイルをクリックすれば詳細情報画面に遷移できる。

3.2 総合検索

設備オペレータが一定の品質を保って日常業務を行うためには,関連する履歴情報を確認することが欠かせない。総合検索機能では必要な情報を容易に検索できるように複数機能を横断した検索や,複数キーワード検索,ドキュメント内検索などの検索ができる。以下のような場合に当機能は有効である。

  • 特定の設備機器に関する事象をまとめて確認したい
  • 備考欄などに入力した参考情報が,どこに登録されているか分からない
  • 過去に作成した報告書などのドキュメントから特定の事象に関する情報を得たい

図6の検索条件入力画面では,複数のキーワードと検索対象とする機能を選択できる。図7は,検索結果の表示画面である。

図6 総合検索 検索条件

図7 総合検索 検索結果

3.3 アシスト機能

作業管理を行う点検作業,保全作業,トラブル&リクエスト管理の各画面には,メインエリア(図8 ①)の横にアシストエリア(図8 ②)を設けている。以下にアシストエリアに表示する3つの事例を示す。

図8 アシスト機能あり画面

(1)前回点検結果の表示
点検作業の結果を登録する際はアシストエリアに前回と前々回の点検結果を表示させている。これにより,時系列的な傾向の把握や,点検時の留意点の確認などに活用することができる。

(2) 類似事例の表示
保全作業やトラブル&リクエスト管理の情報を登録する際はアシストエリアに当該作業と類似した事例を2件表示させている。これにより,対応策に迷いが生じ,類似事例から最善策を検討したい場合などに活用することができる。

図9 類似事例の表示

(3) 入力項目の説明文表示
図10に示すトラブル&リクエスト管理の新規登録画面ではアシストエリアに入力項目の選択肢を表示し,選択肢にカーソルを当てると,その説明文を表示させている。これにより,入力者による選択のばらつきを低減させることを狙っている。

図10 選択肢説明文の表示

3.4 日常業務のベストプラクティス

ダッシュボード,総合検索,アシスト機能を活用したべストプラクティスの提供事例として,トラブルの対策決定に至るまでのシナリオを示す。

図11 トラブル対策決定のシナリオ

①~④で示したとおり,支援機能を活用することで対応すべき作業の把握や,過去の事例,関連情報の参照が容易にでき,現場に即した対策を効率的に立案することができる。

4. 計画立案業務の支援機能

蓄積した情報を活用することで,将来の管理品質を向上させる中長期保全計画機能と設備機器サマリ機能について紹介する。

4.1 中長期保全計画

中長期保全計画では,設備機器台帳に登録された保全項目情報および,保全作業の実績から,保全計画を効率的に作成することを支援する。

図12 保全計画の作成フロー

4.1.1 保全計画の閲覧

中長期表示画面,単年度表示画面,費用表示画面があり,それぞれ目的に応じた保全計画の閲覧ができる。

(1) 中長期表示
10年分の保全計画および保全作業を俯瞰することができるので,中長期的な保全計画の立案に活用できる。

図13 中長期表示画面

(2)単年度表示
年度の保全計画および保全作業を確認することができるので,当年度に実施すべき保全作業の進捗を管理できる。

図14 単年度表示画面

(3)費用表示
設備区分単位または管理区分単位で各年度の保全費用を集計し,グラフ形式,表形式で表示する。保全費用の将来見込みが把握しやすいので,予算検討の判断材料として活用できる。

図15 費用表示画面

4.1.2 保全計画の編集

平準化画面では,保全計画の先送りや前倒しを効率的に行うことができる。例えば,熱源設備機器の更新などで大きな投資が見込まれる年度では,予算を調整するために,その他の保全計画を一括で翌年や前年に変更し,年度間の金額を平準化できる。

図16 平準化画面

4.2 設備機器サマリ

設備機器サマリ機能では,点検作業,保全作業,トラブル&リクエスト管理,稼動実績に登録された情報を,設備機器ごとに集約して表示することで,ビルオーナーや設備オペレータの合理的かつ効率的な意思決定を支援する。

4.2.1 作業履歴の確認

作業履歴表示では,点検作業,保全作業,トラブル&リクエスト管理の作業履歴を一覧にまとめて表示させている。機能を横断し設備機器の現状を正確に把握できるので,不具合など緊急時の判断材料として参考にできる。

図17 作業履歴画面

4.2.2 費用・工数の確認

費用・工数表示では,点検作業,保全作業,トラブル&リクエスト管理の作業費用を一覧にまとめて表示させている。機能を横断して作業費用を表示するので,保全対応などの投資判断として参考にできる。

図18 費用・工数画面

4.2.3 稼動実績の確認

稼動実績表示では,運転時間,投入回数から,設備機器の稼動状況をグラフ表示させている。経過年数に応じた稼動状況を確認できるので,今後の運転方針の判断材料として参考にできる。

図19 稼動実績画面

4.3 計画立案業務のベストプラクティス

中長期保全計画機能と設備機器サマリ機能を活用したベストプラクティスの提供事例として,保全作業の実施シナリオを示す。

図20 計画立案業務の実施シナリオ

①~⑤で示したとおり,保全計画の作成,保全計画の選定,保全計画の変更といった煩雑な作業かつ高度な意思決定を,中長期保全計画機能と設備機器サマリ機能を活用することで効果的かつ効率的に支援できる。

5. おわりに

ビル向けクラウドサービスの設備保全管理(BM)を紹介した。ビルの設備管理は長期間にわたるため,多種多様な履歴が膨大に蓄積される。作業品質の維持・向上を図るためには,蓄積したデータを有効に活用し,設備オペレータ間の情報共有や,設備オペレータの入れ替わりの際の情報伝達を促進することが重要である。

今後は,ビル向けクラウドサービスの他のメニューとの連携機能,例えば,エネルギー管理(EM)のエネルギー情報を利用した管理標準機能や,クラウドの特性を活かした複数建物管理機能・比較機能を強化することで,さらなる提供価値の向上を図っていきたい。

<著者所属>
高橋 哲也 アズビル株式会社 ITソリューション本部ITソリューションビジネス推進部
関根 摩耶 アズビル株式会社 ITソリューション本部ITソリューションビジネス推進部
潮田 尚史 アズビル株式会社 ITソリューション本部ITソリューションビジネス推進部
森 達也 アズビル株式会社 ビルシステムカンパニー環境ファシリティソリューション本部ファシリティマネジメント企画部
森山 真一郎 アズビル株式会社 ビルシステムカンパニーマーケティング本部環境マーケティング部
伊藤 伸樹 アズビル株式会社 ビルシステムカンパニーマーケティング本部プロダクトマーケティング部

この記事は、技術報告書「azbil Technical Review」の2017年04月に掲載されたものです。