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湿度エレメント小型化によるセンサユニット化技術の開発

キーワード:湿度センサ,湿度エレメント,小型化,センサユニット,デジタル化

ダクト用温湿度センサは、製品性能を維持するために定期的なメンテナンス作業が必要であり、その作業工数の削減が望まれていた。その要求に応えるため、新たに小型湿度エレメントFP5™を開発し、温湿度計測部が交換可能となるようにセンサユニット化した。また、湿度エレメントの小型化から生じるS/N比の低下を補うため計測信号の処理をデジタル化し、それを利用して製品設計および生産管理上の課題解決を図った温湿度センサを開発した。

1.はじめに

建物空調制御に用いられる,ダクト用温湿度センサ設置環境には高湿環境や結露環境,腐食性ガス環境があり,経年劣化を避けることが難しく,定期的なメンテナンスが必要である。しかしながら,メンテナンス時でも簡単に空調を止めることができないため,作業工数の削減が望まれていた。また,湿度計測値が仕様から逸脱した際などは製品本体ごとの交換が必要であり,計測部だけを交換してメンテナンス費用を削減したいという要望があった。

2.湿度計測部の構造と計測原理

アズビルでは湿度センサの計測方式として高分子容量式を採用している。湿度計測に使用する湿度エレメントはセンサチップをパッケージングした構造である(図1)。

図1 湿度エレメントの構造

図2,図3のとおり,センサチップはガラス基材上に,高分子からなる感湿膜を上下の金属電極で挟み込んだ平行平板型コンデンサ構造を形成している。そして静電容量の式(1)のパラメータにより,静電容量\(CpU)が決まる。

図2 センサチップ立体図

図3 センサチップ断面図(イメージ)

\(CpU=\Large{a}×\Large{ε}\normalsize{_0}×\Large{ε}\normalsize{U}×\large{\frac{s}{t}}\)

\(CpU\)
: 相対湿度\(U\)における湿度エレメントの静電容量
\(\Large{a}\)
: 定数
\(\Large{ε}\normalsize{_0}\)
: 真空の誘電率
\(\Large{ε}\normalsize{U}\)
: 相対湿度\(U\)における感湿膜の比誘電率
\(s\)
: 電極の有効面積
\(t\)
: 電極間距離

計測の原理は以下である。

  • 感湿膜には適度な吸水量があり,その表面や内部では周囲の相対湿度に比例して水分子の吸着や吸収,および脱離が起こる。
  • 水の比誘電率は約80と感湿膜のそれよりも高いため,水分子が取り込まれると感湿膜の見かけの比誘電率が低湿から高湿にかけて直線的に変化する。
  • そのため感湿膜の比誘電率は周囲の相対湿度と正の相関関係をもち,その値に応じて静電容量に変化が生じる(図4)。したがって湿度エレメントの静電容量値を計測することで相対湿度を求めることができる。
  • 図4 湿度エレメントの静電容量と相対湿度の関係

    3.従来製品の課題

    3.1 メンテナンス作業時の課題

    従来製品では計測値が精度外となった場合には製品本体ごとの交換が必要であった。その原因は,高湿環境や結露環境,腐食性ガス環境におけるセンサチップの静電容量値のシフトであることが多いため,計測部のみを交換できることが望ましい。その際,交換箇所を最小化できれば,製品本体ごとの交換よりも現場工数と部材コストを下げることが可能となる。

    3.2 製品開発の課題

    (1)開発期間
    新規に湿度センサを開発するときは,おおよその回路構成は固定していたものの,部品や定数等は固定できていなかったため,製品ごとに設計を見直しており時間がかかっていた。

    (2)製品性能
    従来製品では,温度特性の補正や低湿,高湿での湿度直線補正を行っていないため,15℃から35℃かつ30%RHから70%RHまでの領域での湿度精度が,それ以外の領域では低下する傾向があった。

    3.3 生産管理の課題

    湿度出力値の調整はアナログのボリューム調整であったため,生産における出力調整時の個々のデータは異常な値となったとき以外では記録されていなかった。そのため,調整値変動の傾向を把握することができなかった。今回新たに開発した温湿度センサではこれらの課題を解決している。

    4.温湿度計測部のユニット化

    4.1 センサユニット構成

    メンテナンス作業時の課題を解決するために,温湿度計測部をセンサユニット化して交換可能な構造としている。またセンサユニットはエレメントと電子部品を同一プリント基板上に配置した構造で,調整データを記憶させておく記憶部により,ユニット間に互換性をもたせることで交換後の現場調整を不要としている。図5にセンサユニットの回路ブロック図を示す。

    センサユニットを次のような構成としている。

    • 温度計測部
    • 湿度計測部
    • 演算部
    • 記憶部
    • コネクタ
    • 図5 センサユニット回路ブロック図

      4.2 新しい湿度エレメントFP5の設計

      4.2.1 設計指針

      センサユニットを構成するにあたって,湿度エレメントを小型化することとした。しかし,湿度エレメントを小型化するとその容量値および変化幅が低下する(図6左)。それに伴い,従来の回路ではS/N比も低下するため,これをカバーする目的で,容量デジタルコンバータ(以下CDC)を使用した。CDCの優位性としては,複数の部品からなる従来の容量測定回路を1つのCDCに置き換えて,センサユニットの部品点数を減らすことができる。

      ただし,CDCの特性を十分に活かすためにはエレメントの湿度特性変化幅を調整する必要があった。そのため,新しい湿度エレメントの容量値および変化幅をCDCのオフセット可能範囲で,かつ計測範囲内に相対湿度0~100%RHの静電容量の変化範囲を収めることとした(図6右)。

      図6 エレメントの小型化による静電容量値の低下(左)とCDCの仕様に合わせた容量値の調整(右)

      4.2.2 新しいセンサチップの設計

      湿度エレメントの計測部であるセンサチップの外観を図7に示す。新しいセンサチップ(図7右)の面積を従来のセンサチップ(図7左)の約30%の大きさに小型化した。

      図7 センサチップ外観

      小型化にあたり,従来のセンサチップの単純な縮小ではなく,以下を考慮して新しいセンサチップを設計した。

      (1)容量値特性(電極面積)
      湿度エレメントの静電容量値がCDCのオフセット可能範囲内に入り,かつ静電容量変化範囲がCDCの計測範囲内となるように電極面積を決定した。またCDCのビットあたりの相対湿度値に相当する分解能(%RH/bit)が十分な値であることを確認した。
      電極パターンを形成する際の寸法精度が変わらないため,電極面積を小型化すると,相対的に容量値のばらつきが大きくなることが懸念された。そのため,電極パッドへの接続部パターンを中心部よりも狭めて,チップ形成後のトリミングによる容量値調整等をすることなく安定した生産を可能とする構造とした(図8)。

      図8 FP5用センサチップ外観

      (2)湿度エレメントの組付け性
      センサチップサイズの小型化で湿度エレメントの組付け作業性が低下しないように,電極の両側に電極パッドと配置して信号取出し用のリードを接続しやすくした。また,小型化したセンサチップに合わせてパッケージを設計した。

      4.3 完成した湿度エレメントFP5

      新しい湿度エレメントFP5を図9に示す。従来湿度エレメントに比べて約30%の大きさに小型化した。

      図9 湿度エレメントパッケージ後外観

      新しい湿度エレメントの小型化による静電容量値低下に対して,相対湿度0~100%RH変化における静電容量変化幅をCDCの入力幅に合わせたことで,S/N比を維持させた。

      5.課題解決

      5.1  回路プラットフォームによる開発期間短縮

      新製品開発では効率よく開発を行うことが重要な要素である。将来の製品にも使用できる設計を行い共通化することができれば,開発効率だけでなく品質の向上にもつながる。

      これまでの湿度センサの回路は基本的には似ている回路ではあったが,製品ごとに設計や部品構成などが異なっていた。そこで,湿度センサの回路および電子部品のプラットフォームを設計し,回路構成や部品の共通化により開発効率を高めていくこととした。

      これにより,ダクト用温湿度センサ,ダクト用露点温度センサ,室内用温湿度センサといった異なる製品の開発を同時に進め,短期間に効率よく開発することができ,さらに今後の新製品の開発にも利用可能とした。

      5.2  デジタル化による製品性能課題の解決

      製品の回路ブロック図を図10に示す。

      図10 回路ブロック図

      センサユニットのCDCでは湿度エレメントの静電容量をデジタルに変換し,同じくセンサユニットに搭載されているEEPROMにはCDCのオフセット量や湿度感度特性などの調整データを記憶させており,これらのデータを回路の演算部で読み取る。その結果,従来よりも湿度エレメントの個々のばらつきを正確に補正するとともに,温度特性の補正や低湿,高湿での湿度直線補正をプログラムにより行って湿度計測精度を向上させた。詳細を第6章に記載している。

      5.3  生産管理の課題解決

      製品のデジタル化により,出力回路調整については従来のアナログのボリューム1点調整から,デジタルのデータを通信ポートより製品本体に送信して多点調整を行う方式へと変更した。それにより,生産時の調整データを記録してトレンドを管理することで,不具合を早期に発見できるようにした。図11は実際の湿度調整時のデータ推移である。この図からは検査合格範囲に対して十分狭い範囲で調整データが分布しており,安定した品質で湿度エレメントを生産できていることがわかる。

      図11 湿度オフセット調整データ推移

      6. センサユニット搭載センサの開発

      6.1 製品概要

      前記の技術を盛り込んだ,新しい湿度エレメントFP5を搭載したダクト用温湿度センサ,ダクト用露点温度センサ(図12)および室内用温湿度センサ(図13)を開発した。

      図12 ダクト用温湿度センサ
      ダクト用露点温度センサ(外観は同じ製品

      図13 室内用温湿度センサ

      ここでは,ダクト用温湿度センサについて,特長を説明する。構成を図14に,仕様を表1に示す。

      図14 ダクト用温湿度センサ 構成

      表1 ダクト用温湿度センサ仕様(項目抜粋)

      項目仕様
      計測範囲温度-20~60℃
      湿度0~100%RH
      精度湿度±3%RH@5~60℃10~90%RH

      新たに開発した温湿度センサと従来製品の精度を比較した湿度精度範囲図を図15に示す。従来製品で精度範囲は斜線/点線網掛けで示した範囲であり,新たに開発した温湿度センサでは精度範囲が拡張していることがわかる。

      図15 ダクト用温湿度センサ 湿度精度範囲図

      6.2  その他の製品改良点とその効果

      主な改良点とそれによる効果について記載する。

      (1)部品交換の容易化
      図16にセンサ計測部の交換箇所を示す。図16(左)は前述したセンサユニット交換である。図16(右)は塵や水滴飛沫を防ぐためのフィルタで,従来製品ではキャップを外さないと交換できなかったが,キャップを外さずに交換できる構造にした。ユニット交換により,メンテナンス作業時の課題であった現場工数を約50%,部材コストを約80%削減した。

      図16 センサ計測部の交換箇所

      (2)センサ部シール性の向上
      従来製品ではダクト内外の圧力差が大きい場合に,センサ本体内部を通って空気が流れてしまうことがあった。このときダクト内外の温度差により保護管内部で結露し,機器を破壊するという事象が起きていた。これを解決するため,開発したセンサではセンサユニットが保護管内とダクト内とのシール性を高めた構造にしたことで,保護管内への空気の流入を防止した(図17)。

      図17 ダクト内外圧力差による空気流入への対応

      (3)環境配慮設計による環境ラベル取得
      アズビルでは環境配慮設計に取り組んでおり新製品に対して環境設計アセスメントを実施している。評価結果が社内基準に達したものは環境配慮製品に認証されazbilグループ環境ラベル(図18)を取得できる。本製品はセンサユニット化により,製品本体の長期使用を可能にし,廃棄を減らしたことなどが評価され環境ラベルを取得している。

      図18 azbilグループ環境ラベル

      7.おわりに

      従来製品の設置現場での課題を解決するため,新たに小型湿度エレメントFP5を開発し,温湿度計測部のみを交換可能とするセンサユニット化して,それを搭載した新しい温湿度センサを開発した。

      開発したセンサにより,現場メンテナンスの工数と部材コストを削減し,製品開発および生産での課題の解決を可能とした。今回開発したセンサユニット化技術を今後デジタル通信やIoTに対応する次世代製品に応用する。

      <商標>
      FP5,FP3はアズビル株式会社の商標です。

      <著者所属>
      矢野 樹史 アズビル株式会社 ビルシステムカンパニー開発本部開発4部
      杉山 正洋 アズビル株式会社 ビルシステムカンパニー開発本部開発4部

      この記事は、技術報告書「azbil Technical Review」の2021年05月に掲載されたものです。