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都市ガス事業者の地震対策を支援するガバナ監視システムの開発

キーワード:遠隔監視, ガバナ

IoT(Internet of Things)という言葉が今は一般的になり、ガス事業者は震災のたびに浮き彫りになる課題に向け、遠隔監視システムの機能強化が求められている。そこで、震災時においても強力に支援できる機能を備え、かつシステム導入を容易にしたガバナ監視システム(GMS)を開発した。

1.はじめに

都市ガス事業では,全長数万kmにも及ぶ配管網を安全かつ安定した供給設備として効率的に維持するために, 1990年代から公共回線を利用した遠隔監視を実施してきた。しかし,ICT(Information and Communication Technology)やIoT(Internet of Things)という言葉が一般的となった現在において,遠隔監視は監視だけに留まらず,震災のたびに浮き彫りになる課題解決のための機能が求められている。中小ガス事業者を中心とした一部のガス事業者においては,課題を解決するためのシステム導入費用,時間などが導入の障壁となることが多い。

本稿では,これらの課題を解決するために開発したガバナ監視システム(以下GMS)を紹介する。

2.ガバナ監視システム(GMS)

まずは,GMSについて説明する。

都市ガスは,ガスの製造拠点でつくられた高圧で送り出されたガスを中圧にし,工場や大型施設などに届けられる。さらに,中圧のガスを減圧し,低圧ガスが各家庭に届けられる。この一連の流れを示したものが図1である。

ガバナ設備は,ガスの圧力を中圧から低圧に減圧する変圧器およびそれに付帯するセンサなどで構成される。そして,この設備を遠隔地で監視するシステムがGMSである。 GMSは,図2に示すとおり,ガス供給指令センターなどの監視室に設定されたセンター側PC(サーバ機能+GUI機能)と,地区ガバナ側に設置された伝送装置盤(以下,子局という)から構成される。

センターと子局間は株式会社NTTドコモの閉域網回線接続サービスを介してFOMA回線(LTE回線)で接続される。対応する伝送装置(テレメータ)はアズビル株式会社製DCX350とアズビル金門株式会社製iDATである。

図1 需要家までの都市ガスの流れ

図2 システム構成

3.ガバナ監視システムの変遷

続いて,当社がこれまでかかわってきた開発の歩みを紹介する。

1990年代初頭,ガス供給会社は条令に定められていた人による巡回点検と,ペーパー記録計の回収を日常業務として行っていたが,条令が改定され供給圧力記録は電子媒体保存でもよくなり,当社はガバナ向けの通信機能とデータコレクト機能を持つ簡易テレメータ(遠隔監視に使用される機器の一般名称)の開発を始めた。 その後DCX200が完成し,一般向けに販売を開始した。しかし,大手ガス会社以外のほとんどのガス会社はガバナ設備を遠隔地から監視することはなく,ペーパ記録計かDCX200に装着された記憶媒体の回収をするだけであった。そのため,ガバナ監視は普及しなかった。

状況が大きく変わったのは1995年の阪神・淡路大震災以降である。これをきっかけに,災害時危機管理対応の一環として,ガス供給指令センターなどで各地域に点在するガバナ設備の遠隔監視が求められるようになった。当社でも,DCX200に対応した遠隔監視システムをお客さまごとに開発し,中小規模のガス会社に販売するようになった。

ガバナ設備の情報を遠隔地にある監視センターに送信する通信手段も変わった。開発当時はアナログ公衆回線を用いたが,無線インフラの普及とともにテレターミナル(日本の無線パケット通信を利用した双方向無線通信システム),アナログ携帯電話,PHS,DoPaなどに変化した。 2000年ごろには,アナログ通信方式からDoPa後継デジタル通信方式のFOMAが普及した。これが爆発的に普及したのは周知のとおりである。

当時の金門製作所(現,アズビル金門)は,FOMA対応ガバナ伝送システム(iDAT)を開発し,ガバナメーカーの強みを活かして中小ガス会社に販売するようになった。当社では2009年にDCX200の後続機種でFOMA対応遠隔データコレクタDCX350の一般販売を開始した。同時に,DCX350用OPCサーバを開発し,センター側で監視するシステムとして,当社の分散形制御システム(DCS)であるHarmonas-DEOTMを利用可能とした。しかし工場を監視する目的のシステムでは,低圧ガバナ監視だけが目的のガス会社にとっては自由度が高く,機能が多過ぎることがあだとなり,導入が進まなかった。

そんな折,東日本大震災,熊本地震などが発生し,震災後の,緊急時の供給停止の判断基準が変更され,ガバナ監視に地震対応機能が求められるようになった。このような背景から,現状においては震災時には現場の判断を支援し,かつ導入が容易なシステムが期待されている。

4.充実した地震対応機能

いざというときに現場判断を強力に支援する機能として,(1)感震モードと(2)遠隔遮断がある。また,平常時や警報発生時,過去の履歴参照などに使用する(3)監視機能,(4)データ収集機能,(5)アラーム通知機能がある。ここではそれらの機能を紹介する。

(1)感震モード
地震発生時に,遠隔地からガバナ設備を監視する上で,課題は2つある。

  • 地震発生を誤検知せずに正しく検知すること。
  • 地震後などに発生する通信会社などの接続規制がかかるようなときにも,継続して状況を監視すること。


GMSでは,一定時間内に2カ所以上から感震対象アラームを受信することで地震を検知し,自動的に感震モードに移行する。感震モードに移行すると,センター側から連続収集を開始し,通信回線を確保(プリザベーション対応)することで課題を解決している。
画面上ではSIセンサ注1設置局のSI値と合成加速度警報状態を自動表示する。オプションで地震速報メール(モード移行後のSIピーク値とその震度相当)の発信機能も有している。
感震モードの解除はすべての感震警報の復帰確認による手動解除もしくは指定時間経過による自動解除がある。解除時には,その期間のSI値,合成加速度のピーク値とその時刻を記録して,後に履歴画面で参照可能になっている。

注1  SI値とは,アメリカのハウスナー(G.W.Housner)によって提唱され,地震によって一般的な建物にどの程度被害が生じるかを数値化したものであり,SIは,Spectral Intensityの略である。

(2)遠隔遮断
地震発生時もしくはその後の状況により,安全を確保するためにガス供給を一部停止する必要がある場合,図3に示す画面を使用し,センターからの遠隔操作で遮断を可能にしている。これまでは各地区のガバナ設備に行って遮断を実行する必要があったが,過去の大震災で,早期復旧が求められたこと,職員自身も被災していることなどから,安全が確認できた場合,供給停止の範囲を必要最小限とすることが可能となった。ただし,地震時以外の誤操作やサイバー攻撃などによる遠隔遮断を防ぐ必要がある。GMSでは,自動・遠隔制御ユニット,インテリジェント地震センサ(以下,地震センサ)と組み合わせて使用することで,地震時以外には遠隔遮断ができない仕組みも備えている。

図3 遮断操作画面

(3)監視機能
震災時だけでなく, 平常時にも監視,帳票,アラーム通知などの機能を有している。監視画面は,メイン画面として全体監視画面(図4),ブロック監視画面,全体状態画面,一覧画面があり,サブ画面として個別監視画面,アラーム状態画面(図5)がある。全体監視画面とブロック監視画面は背景に地図(国土地理院提供)もしくは簡易導管フロー図を用意して,その上に配置表示される。

図4 全体監視画面の例

図5 アラーム状態画面

(4)データ収集機能
本システムには,現在値を定期的に読み出すポーリング収集と,テレメータ側に保存されている記録データを収集する機能がある。これらのデータは.既に当社で商品化されているヒストリデータ収集パッケージに格納される。そして,本システムでは,図6で示すトレンドを表示したり,帳票を作成したりするときに利用している。また,図7で示す詳細トレンドとして本システムから直接当社のヒストリアンのトレンドを呼び出すこともできる。

図6 トレンド画面

図7 詳細トレンド画面

(5)アラームの通知
DCX350/iDATともに警報発生(復帰)時にはイベント通知がなされる。このイベント受信時に各種のアラーム通知を行う。通常,中小のガス供給管理事業所では低圧ガバナ監視の画面を常時監視しているわけではない。そのため,音,ランプ,携帯電話へのメールなどで通知する必要がある。本システムでは監視業務形態に合わせ以下から選択(複数)できるようにしている。

  • PCサウンド通知
  • 警光灯(ブザー,回転灯など)
  • メール通知

この一報をきっかけとして監視画面を確認し,発生警報場所と内容が把握できるようになっている。

5.高効率エンジニアリング

GMSは,容易にシステム導入ができることを目指して設計した。DCSだけでなく,市販されている汎用SCADAを使ってシステム構築することも可能であるが,前述したとおり,機能が豊富であるため,自由度が高く,初期構築および局追加/変更に伴うタグ作成や画面作成にかなりのエンジニアリング工数がかかることが課題であった。

本システムでは,必要な機能を標準パッケージ化し,市販の表計算ソフトを使って効率的にエンジニアリングできるツールまでを用意した。このツールはほぼすべての機能をコンフィグレーションできるようになっており,中小規模のガス事業者が監視する子局30~40局を約1日で設定可能とし,工事等とのスケジュールに併せて柔軟に使用できる。コンフィグレーションと一覧表示パーツの例は,図8に示すとおりである。

図8 表示用コンフィグレーションと一覧表示パーツ

また,画面用に図9で示す局単位の各種表示パーツを用意しており,テレメータ通信情報や入出力データ定義後にパーツをドラッグ&ドロップすれば画面が出来上がる。表示位置は表示ウィンドウ内の縦横比率(%)で管理しているので,画面サイズ変更/解像度の違いにも対応できる。

図9 各種表示パーツ

なお,表示色などは都市ガス事業者ごとに好みやポリシーがあるため,図10で示すコンフィグレーション専用画面をエンドユーザーに提供する。また,通知先のメールアドレスもここで設定する。

図10 エンドユーザー向け設定ツール

6.おわりに

GMSは,震災時において強力な支援機能を備えるとともに,パッケージ化することで容易な導入を可能とした。今後は,設備管理を効率化したいという要望を,過去の運転データを用いた機械学習による供給配管網の異常検知等で実現し,自らの状態や状況を伝え,人に行動を促す関係へと進化させたい。

さらに,これまでの知見,技術を洗練することで,進化した人と機械との協調による安全かつ効率的な製品,サービスを提供し,課題解決に貢献していきたい。

<商標>
DoPaは株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモの登録商標です。
FOMAは株式会社NTTドコモの登録商標です。
Ethernetは富士フイルムビジネスイノベーション株式会社の日本または他の国における商標です。
Harmonas-DEOはアズビル株式会社の登録商標です。

<著者所属>
蒔田 浩子 アズビル株式会社 アドバンスオートメーションカンパニーエンジニアリング本部ソリューション技術部
喜多井 剛志 アズビル株式会社 アドバンスオートメーションカンパニーSSマーケティング部
小泉 芳範 アズビル株式会社 アドバンスオートメーションカンパニーエンジニアリング本部PAソリューション部

この記事は、技術報告書「azbil Technical Review」の2018年04月に掲載されたものです。