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高度なエネルギー管理と快適な空間を提供するsavic-net™ G5システムの統合コントローラ

キーワード:savic-net G5,エネルギー管理,省エネルギー,快適性,統合制御

地球温暖化防止やエネルギー安定供給の観点で、建物のエネルギー利用では持続的かつ高度なエネルギー管理が求められる。さらに業務用ビルでは、知的生産性に配慮した快適空間の提供が必要である。これらの要求は状況によっては相反することがあり、各種設備機器の個別制御だけでは両立させることができない。両立させるためには、ビル全体の状態を総合的に判断し、複数の機器を最適に制御する統合制御が必要である。その統合制御のアプリケーションを提供していくための様々な先進機能を基盤に備えたsavic-net™ G5の統合コントローラを開発した。

1.はじめに

第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)にて,地球温暖化対策の国際枠組みが採択される(パリ協定)など,温室効果ガス排出量の削減は重要な課題である。ビル業界においても,エネルギーの使用の合理化等に関する法律(省エネ法)や東京都環境確保条例によってCO2排出量の報告や省エネルギー対策が必要となっている。また2018年7月には第5次エネルギー基本計画にて再生可能エネルギーの主力電源化が明記され,バーチャルパワープラント(VPP)やディマンドリスポンス(DR)への対応が推進されている。実際に記録的猛暑により電力の需給逼迫でDRでの対応が求められるなど,省エネルギーだけでなく高度なエネルギー管理の重要性が高まっている。

一方で近年は,業務用ビルにおいても知的生産性の向上やストレス軽減の観点で,室内環境の快適性への関心が高くなっている。また多くの企業が働き方改革を推進しており,柔軟な働き方を実現する快適空間が求められている。

これらの要求は状況によっては相反することがあり,各種設備機器の個別制御だけでは両立させることができない。両立させるためには,ビル全体の状態を総合的に判断し,複数の機器を最適に制御する統合制御が必要である。また経済産業省の省エネルギー技術戦略2016において,ビルエネルギーマネジメントシステム(BEMS)による統合制御が重要技術として挙げられている。

新ビルディングオートメーションシステムであるsavic-net G5の統合コントローラは,統合制御を実現することを目的として開発した製品である。統合コントローラによる統合制御を実施するためには,接続されるコントローラのベンダによらずデータを取得でき,高速かつ信頼性が高くなければならない。また,制御対象機器が増えてもエンジニアリングが容易であることが望ましい。統合コントローラは「マルチベンダ対応」「データの高速スキャン・変化蓄積」「統合コントローラ間の情報共有」「統合コントローラの二重化」といった機能を基盤に備え,様々な新しいアプリケーションを継続的に提供可能な製品として開発した。

本稿では,3,4,5,6章で統合制御を実現するために開発した基盤機能について説明し,7章でアプリケーションの例として電力デマンドの概要を説明するとともに,基盤機能の効果について報告する。

2.システム構成

savic-net G5のシステム構成について図1に示す。一般的なビルシステムでは空調,照明,電気などの設備ごと,またはフロアごとにサブシステムを構築する。統合コントローラはサブシステムごとに設置され,サブシステム内の複数のコントローラを監視する。監視用PCは,複数の統合コントローラの情報をまとめてシステム全体のユーザーインターフェースを提供する。

図1 システム構成図

3.マルチベンダ対応

ビルシステムで監視する対象の設備には,空調,照明,電気などの設備があり,大規模なシステムの場合はそれぞれの設備を異なるベンダが監視することが一般的である。システム全体の統合制御を行うためには,これら複数のベンダと接続し,どの設備に対しても同様に制御ができる必要がある。

複数のベンダを対象とする場合,ベンダによって通信プロトコルが異なることがある。また,ベンダによって機能の違いがあるため,同様の機能を提供するためには差異を吸収する仕組みが必要である。

本章では,複数のベンダと接続して統合制御を行うために開発した仕組みについてその概要を説明する。

3.1 複数通信プロトコル

複数の通信プロトコルに対応するための仕組みを,図2に示す。監視対象の機器やセンサのデータ(状態/値)など入出力のそれぞれをポイントという概念で管理する。アプリケーションはポイントにアクセスすることで監視対象の情報の取得や,監視対象の操作を行うことができる。アプリケーションと通信機能は,ポイント機能の層で分離されているため,アプリケーションは通信プロトコルの違いを意識せずに動作することができる。

図2 複数通信プロトコルの仕組み

3.2 代行機能

複数のベンダと接続する場合,使用する通信プロトコルやコントローラの種類によって,機能に差があることがある。例えば,BACnetのポイントオブジェクトには,ポイントオブジェクトに対する操作に対してプライオリティ管理を行うことができるが,Modbus™にはそのような機能は定義されていない。アプリケーションの入出力となるポイントに機能差があると,制御で実現できることに差が出てしまう。

そこで,コントローラが持っていない機能は統合コントローラで機能の代行を行う。アプリケーションからは,すべてのポイントが同じ機能を持つものとして扱えるので,コントローラの機能差に関係なく制御を行うことができる。

図3 代行機能の仕組み

4.データの高速スキャン・変化蓄積

統合コントローラで正しく制御を行うためには,監視対象の機器やセンサのデータ(状態/値)を正確に知る必要がある。室内温度のように変化が少ないものは1分程度の周期で値を確認できれば良いが,電力などの変化が激しいものはより速い周期で確認が必要となる。 本章では,監視対象のデータ(状態/値)を正確に管理するための仕組みについてその概要を説明する。

データ・スキャンの仕組みを図4に示す。統合コントローラは,監視対象のコントローラのデータをスキャンすることで,監視対象の状態を取得している。BACnetやModbusなどの通信機能は,各コントローラに対して並列にデータのスキャンを行う。スキャンしたデータはポイント機能のキューに積まれる。ポイント機能はキューに積まれたデータを順次ポイントの状態に反映する。このようにポイント機能と通信機能を分離することで,ポイント機能(計測値上下限値監視,プライオリティ管理等)の負荷に影響を受けずに高速にスキャンを行うことができる。統合コントローラは,最短1秒周期でデータのスキャンを行うことが可能であり,変化が激しいデータを正確に監視することができる。

また,ポイントの状態を更新する際,状態が変化していた場合にその状態と変化を検出したタイムスタンプをセットで蓄積することで,すべての変化を正確に記録することができる。

スキャン周期や変化蓄積の件数はポイントごとに指定できるため,監視対象の用途に応じた適切なスキャン周期と変化蓄積の件数を指定することができる。

図4 データ・スキャンの仕組み

5 統合コントローラ間の情報共有

サブシステムをまたがるシステム全体の統合制御を統合コントローラで実施するためには,統合コントローラ間の情報共有が必要である。

従来のシステムでは,共有する必要のある情報を個々の統合コントローラに設定することで実現していたが,設定作業をオフラインで行わなければならない場合,エンジニアリング作業によるシステムの無監視状態が発生する。また,共有する情報が大量にある場合はエンジニアリングコストが増大するという課題があった。

本章では,これらの課題を解決して,統合コントローラ間の情報共有を行うための仕組みについてその概要を説明する。

5.1 物理構成の隠蔽

統合コントローラ内のすべてのアプリケーションは基盤機能をとおしてデータのやりとりを行う。どの統合コントローラにどのポイントが存在するかの物理構成の情報は,基盤機能が管理し,基盤機能が物理構成を意識したデータ送受信を行うため,アプリケーションは,物理構成を意識せずにシステム全体のどのポイントに対してもアクセスすることができる。

また,ポイントの状態/値が変化した場合,アプリケーションは,基盤機能をとおして即時変化を取得することができるため,制御の応答性を高めることが可能となった。これにより,アプリケーションの配置に制約がなくなり,システム構築を容易に行うことができる。

図5 アプリケーションとポイント間のデータのやりとり

5.2 構成情報の管理

構成情報を管理する仕組みを図6に示す。統合コントローラの基盤機能は,自分が監視しているコントローラのポイント情報を保持している。アプリケーションから自分が保持していないポイント情報の問い合わせがあった時は,他の統合コントローラに対して問い合わせを行う。ポイント情報を保持している統合コントローラからの応答を,構成情報として保存しておき,次回そのポイントの問い合わせをする際にはこの構成情報をもとにやりとりを行う。構成情報を保存しておくことで,他の統合コントローラに対する問い合わせを省略し,高速にやりとりすることができる。この仕組みにより,エンジニアリングを行わなくとも,複数の統合コントローラ間で情報共有が可能となった。

図6 構成情報を管理する仕組み

6 統合コントローラの二重化

DHC(District Heating and Cooling:地域冷暖房)のシステムなどで統合制御を行う場合,統合コントローラには高い信頼性が求められる。信頼性を高めるためにコントローラを二重化するのが一般的であるが,単純に二重化すると,接続する他デバイスは二重化を意識して接続することが必要となる。本章では,他デバイスが二重化を意識せずに接続可能とするための仕組みについてその概要を説明する。

図7 二重化の動作イメージ

二重化の動作イメージを図7に示す。他デバイスから1台のコントローラとして見えるように,2台の統合コントローラが共通の仮想IPアドレスを持つ。一方のみがそのアドレスを有効とし,他方は無効とする。アドレスを有効としているデバイスが異常となった際には,他方がアドレスを無効から有効に切り替えて動作を継続する。この仕組みにより2台の統合コントローラが共通のIPアドレスを使用することができる。他デバイスからは,1台のコントローラとして見えるため,他デバイスは二重化を意識することなく接続することができる。

7.電力デマンド

本章では,savic-net G5の統合制御アプリケーションとして開発した電力デマンドの概要を説明するとともに,基盤機能の効果について報告する。

7.1 電力デマンドの概要

電力会社は,取引用電力量計によって電力使用量の計測を行っている。この電力量計は,デマンド時限(30分間)の電力使用量を計測し,平均使用電力を算出する。この平均使用電力がデマンド値と呼ばれ,デマンド値が契約電力を超えると,超過割増料金を請求される場合,または契約電力の引き上げを要求される場合がある。

電力デマンドは,デマンド時限終了時刻におけるデマンド値を予測し,それを予測電力とする。予測電力が目標電力以下になるように,空調の停止・起動,給気温度設定値の調整やユーザーへの警報通知を行う。目標電力に契約電力以下の値を設定することで,契約電力を超過しない範囲で設備の運転を行うことができる。また,目標電力を超えないように制御することで,ピーク電力を抑制することができ,電力の安定供給に寄与することができる。

図8 電力デマンドのイメージ

7.2 快適性の低下を抑えた電力デマンド

電力デマンドで空調の停止や給気温度設定の調整を行うと,快適性が低下する可能性がある。そこで,制御対象に優先度を指定できるようにすることで,快適性の低下を抑えた制御を行う。また,優先度が同じ制御対象に対してはローテーションをすることで特定のエリアだけで快適性が低下することを防止する。

制御対象とする機器は,最大15グループに分類することができ,グループごとに優先度を指定することができる。予測電力が目標電力を超過する場合,優先度が低いグループから段階的に消費電力の抑制を行う。複数のグループに対して同じ優先度が設定されている場合,優先度が同じグループに対してはローテーションを行う。

電力デマンドの動作例について図9に示す。①の時点で予測電力が目標電力を超過しているため,優先度に従って「共用部」と「事務エリアA」の消費電力を抑制する。②の時点で予測電力が目標電力を下回るため「事務エリアA」の消費電力の抑制を取りやめる。③の時点で再び予測電力が目標電力を超過する。「事務エリアA」と「事務エリアB」は同じ優先度であるため,今度は「事務エリアB」の消費電力の抑制を行う。④の時点で依然として予測電力が目標電力を超過しているため,さらに「事務エリアA」「応接エリア」に対して消費電力の抑制を行う。

図9 電力デマンドの動作例

7.3 統合制御

電力デマンドが扱う機器とコントローラの構成を図10に示す。電力デマンドの制御対象は,複数のコントローラにまたがって存在するため,個別のコントローラで制御すると各機器の優先度をシステム全体で管理することができない。

統合コントローラは,特別なエンジニアリングを行わなくても,複数の統合コントローラ間で情報共有が可能なため,電力デマンドのアプリケーションは,サブシステムを横断した複数の機器を制御対象とできる。また,マルチベンダの対応により,異なるベンダのコントローラで監視している機器も同様に制御対象として扱うことができる。

1台の統合コントローラがシステム全体の統合制御を行うことができるため,空調や照明など異なる設備を横断して機器の優先度に応じた制御を行うことができる。

図10 電力デマンドの統合制御

7.4 電力予測

電力予測の仕組みを図11に示す。電力予測は,監視対象とする電力量の履歴をもとに予測を行う。予測には現在時刻からサンプリング時間だけの履歴を使用する。この履歴に対して,最小二乗法で線形近似を行うことでデマンド時限終了時刻におけるデマンド値を予測する。

図11 電力予測の仕組み

一般的なビルシステムでは1分程度の周期で履歴を蓄積している。サンプリング時間は通常1,2分であるため,1分程度の周期の履歴では予測の精度が低い。統合コントローラでは,データの高速スキャン・変化蓄積によって,監視対象の電力量の履歴を正確に記録することができる。また,スキャン周期はポイントごとに指定することができるため,スキャン周期を短く設定することで,リアルタイム性を向上させることができるとともに,予測に使用するデータ数を増やし,予測精度を向上させることができる。

8.おわりに

savic-net G5の統合コントローラは,統合制御を行うためのコントローラとして開発した。「マルチベンダ対応」「データの高速スキャン・変化蓄積」「統合コントローラ間の情報共有」「統合コントローラの二重化」といった機能により,効率よく開発を行うことができる。今後も,統合制御によって省エネルギーと快適空間を実現するアプリケーションを拡充していく予定である。

<商標>
savic-netは,アズビル株式会社の商標です。
BACnetは,ASHRAEの商標です。
Modbus is a trademark and the property of Schneider Electric SE, its subsidiaries and affiliated companies.

<著者所属>
深浦 敦 アズビル株式会社 ビルシステムカンパニー開発本部開発1部

この記事は、技術報告書「azbil Technical Review」の2019年04月に掲載されたものです。