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価値創出を指向するメーターデータプラットフォーム ガスミエール™

キーワード:data platform, as a Service

LPガス事業の経営課題である少子高齢化による人手不足や働き方改革に対しては、データ活用とデータ分析が重要である。そのためにメーターデータをIoTによりメーターデータプラットフォームに集約する。メーターデータプラットフォームはLPガス事業者に有益なデータを提供することやデータを使ったas a Service型のソリューションを提供する。as a Service型ソリューションの第一弾としてLPガスボンベ配送合理化クラウドサービスを開発した。

1.はじめに

IoT、ビッグデータ、AIなど新技術を活用したDX(Digital Transformation:デジタルトランスフォーメーション)の展開によるスマートシティ実現ためのas a Service型モデルが期待されている。 国内において、エネルギー自由化の規制緩和やスマートシティなど次世代社会の実現に向けた取組みが行われている。また我が国が目指すべき未来社会の姿として科学技術基本法の第5期科学技術基本計画において「IoT、ロボット、AI、ビッグデータなどを取り入れイノベーションを創出し、社会的課題を解決する」Society5.0が提唱されている。

海外においては、パリ協定をはじめとする環境保全の枠組み強化や環境負荷低減への投資が活発化する動きが顕著になってきている。
アズビル金門株式会社を取り巻く事業環境においてはIoTやAI、ビッグデータ活用の流れを受け、スマートメーターの導入やクラウドサービスの利用が進んでおり、少子高齢化による人手不足と合わせて、IoTによる自動検針や収集されたデータを活用したas a Service型事業モデルへの対応が求められている。

本論文ではB2B(Business to Business)やB2B2C(Business to Business to Consumer)のお客さまに対して、メーターデータの収集・蓄積・管理・利用を容易にするとともに、データ活用により社会問題を解決するための価値創出を指向するメーターデータプラットフォームを紹介する。またメーターデータ分析の諸問題についても論じる。

本論文の構成は次の通りである。2章でメーターデータ分析の課題と分析例を示す。3章で価値創出を指向するメーターデータプラットフォームの概要とそのプラットフォームを利用した付加価値クラウドサービス例を説明する。4章でこのプラットフォームを使った将来の展望を述べる。最後にまとめを述べる。

2.メーターデータ分析

従来、メーターデータ分析については欧州を中心に電力メーターの電力消費量の研究が行われてきた。2019年は我が国において、携帯電話の4G LTE回線を使ってガスおよび水道メーターのIoTサービスが開始された。このIoT化により、従来1カ月から2カ月ごとしか行われていない消費量計測が少なくとも1日ごとに実施され、必要に応じて数時間ごとに計測することが可能となった。

図1 レストランにおける各種データ

2.1 データサンプリング周期

メーターデータ分析においてデータのサンプリング周期は重要である。サンプリング周期が1時間から15分の場合は、横軸を時間として取得したデータを可視化した場合、棒グラフによるガスや水道の時刻別の消費量変化となる(1)。サンプリング周期が1分から1秒の場合は、取得したデータを可視化した場合、時系列分析が可能な折れ線グラフとなる。つまりガスや水道の1秒ごとの消費量変化が分かり、この消費パターンからどんな目的でガスや水道を消費していたかを推定することが可能となる。

Armel(1)は1分周期の電力メーターにおける電力消費量から消費量の変化パターンを抽出し、電気機器の種類を推定できることを示した。データのサンプリング周期が十分短ければ、このようなことができる。

2.2 メーターデータと属性データ

図1は当社で測定したあるレストランにおけるガス、電気の使用量および温度、湿度、ヒトの出入りを計測した例である。

グラフの凡例の意味は以下の通りである。M2はガス消費量、外は屋外の温度、湿度、ch1、ch2は電力メーターの電力消費量、内は室内の温度、湿度である。横軸は計測開始からの経過時間を分で示した。データ間の関連を探索する目的から、縦軸は計測値の最大値が100になるように調整した(2)。Ch1.pulseはレストラン入口に設置した人感センサの値でゼロ以上の整数値。データのサンプリング周期は1分である。 使用した分析手法は統計的手法として、相関分析、因子分析、主成分分析を用いた。 図1を目視することでは難しいデータの関連性も主成分分析(3)を使うことで次のことが分かった。

(1) ガス消費量、室内温度、単相電力消費量ch1の組合わせは同じ振る舞いをする。

(2) 単相電力消費量ch2、三相電力消費量ch1、ch2の組合わせは同じ振る舞いをする。

(3) 外気温度、人感センサは関連がある。

(4) 一方、屋外湿度と室内湿度は相関が低い。

得られた仮説として、外気温度と人感センサの値の相関に注目すると、外気温度が低いと客の入りが良い、と言える。仮説の検証として、このレストランは札幌にあるラーメン屋である事実からこの現象は説明可能である。

2.3 低サンプリング周期と属性データ

2.2は高サンプリング周期で属性データが多数あった場合であった。仮に2.2において、サンプリング周期が1分から1時間になった場合を考える。サンプリング周期が1分の場合はグラフの形は各データの計測値をプロットし測定値同士を線でつなぐ折れ線グラフとなり、時系列分析が可能である。一方サンプリング周期が1時間の場合は各データの計測値は棒グラフで表現される。このとき1時間内で発生したデータの変動はグラフ上では見えなくなってしまい、1時間内で発生したデータの変化は知ることができない。これはサンプリング周期を低周期にした場合の具体的な弊害である。

次に利用可能な属性データが減った場合を考える。2.2では、属性データに対して統計的手法を適用した。主成分分析によって、外気温度、人感センサの間に関連があることを探索的に発見することができた。得られた知見は札幌のラーメン屋なら当たり前のことであるが、これを探索的な方法ではなく、最初から計測するデータを絞り込み、仮説生成および検証を行うことは容易ではない。データの収集・蓄積・管理・利用が容易になることにより比較的素朴な統計的手法を用いた場合においてもデータ間の関連を見出すことができる。このような知識発見が可能になることがデータプラットフォームの価値である。

3.価値創出指向メーターデータプラットフォーム

2章ではレストランにおける各種データを使った分析例を示した。探索的な分析方法によりデータ間に存在する知識を発見することができた。3章ではデータの収集・蓄積・管理・利用を容易にするとともに、高度なデータ活用を可能とするデータプラットフォームを紹介する。

図2 ガスミエールの構成

アズビル金門はLPガス事業者向け「新時代クラウドサービスガスミエール™」を販売開始した。 ガスミエールは指針値データや保安情報など様々なメーターデータをIoTによりメーターデータプラットフォームに集約しLPガス事業者にとって有益なデータを提供するクラウドサービスである。 図2にガスミエールの構成を示す。

LPガス事業で課題となっている人手不足による事業継続リスクや働き方改革に対してメーターデータを活用することで課題解決できるas a Service型のソリューションを提供し、LPガス事業者にとって価値創出となるクラウドサービスを開発していく。 その第一弾として、LPガスボンベ配送合理化クラウドサービスを開発した(4)。 また、ガスミエールはLPガスボンベの所在地とLPガスの消費量およびLPガスボンベやガスメーターの状態データを地理情報と関連付けることができる。2.3のような低サンプリングデータや属性データが少ない場合におけるセレンディピティ(serendipity)な知識発見も可能となる(5)。これにより単なるLPガスの消費量の可視化と管理を超えた価値を創出することができる。

4.今後の展望

LPガスボンベの配送計画はMulti-Depot Periodic Vehicle Routing Problem(6)として解くことができる(7)。配送計画に必要なデータは配送先住所と配送日情報である。ガスメーターのIoT化により、ガス消費量のデータを毎日取得できるので、配送コストを最小化できる配送日を計算することが可能だ。配送日が決まれば、その日に配送するガス需要家の住所を抽出し、その住所集合に対して最短距離で配送するルートを計算する。

LPガスボンベ配送計画で必要なデータはガス消費量と需要家の住所情報だけである。この制限された情報を使って我々の生活が豊かになる他のアプリケーションを考えてみる。

図3 地図上にガス使用に関する色を配置した例

図3はガス需要家の住所に対してガス消費量データをある演算を施しその結果に基づいて色を付けた例である(8)
この色の意味はいろいろ考えられるが例えば、ガス消費量が多いと赤色に変える例や、LPガスボンベの容積があらかじめ分かっているので、ガス消費量からLPガスボンベの残りのガス量が少ない場合に赤色に変えたりするなどが考えられる。このように地図上にある意味を持つ特別な領域を示すことができる。この特別な領域の意味は色を付ける演算それぞれによって異なる。

しかし、使用するデータはToki(7)と同じで、それに地理情報を追加しただけである。このように地理情報を使ったアプリケーションはGIS(Geographic Information System)と呼ばれる。 今後はToki(7)のような低周期サンプリングにより取得されたガス消費量データと少数の属性データや地理情報を使ったアプリケーションの研究(9)や限定された情報を使って社会全体が豊かになるサービスについて探求する予定である。

5.おわりに

本論文ではデータ活用とデータ分析が可能となるメーターデータプラットフォームを紹介した。また、データ分析について乗り越えるべき課題があることを示した。この課題の解決方法として、メーターデータのGIS化が有力であること示した。

本論で紹介したメーターデータプラットフォームを通じてLPガスボンベ配送合理化クラウドサービス(4)が利用可能となっている。このソリューションや将来利用可能となるソリューションによりLPガス事業者およびLPガス利用者の課題が解決され豊かな社会になる一助となれば幸いである。

<参考文献>

(1) Carrie Armel, Energy Disaggregation, Precourt Energy Efficiency Center, Stanford, 2011

(2) Aurélien Géron, Hands-On Machine Learning with Scikit-Learn, Keras, and Tensorflow: Concepts, Tools, and Techniques to Build Intelligent Systems, O’Reilly, 2019

(3) Victor A. Bloomfield, Using R for Numerical Analysis in Science a nd Engineering, Chapman and Hall, 2014

(4) 村上英治、土岐爽真、組み合わせ最適化手法によるLPガス容器配送方法とその効果、技術報告書azbil Technical Review、2020年4月発行号

(5) 大澤幸生、チャンス発見のデータ分析-モデル化+可視化+コミュニケーション->シナリオ創発、東京電機大学出版局、 2006

(6) Roberto Cantu-Funes et al., Multi-depot periodic vehicle routing problem with due dates and time windows, Journal of the Operational Research Society, 2017

(7) Soma Toki, Naoshi Shiono, Eiji Murakami, A practical approach to the vehicle routing problem in cylinder gas distribution, INFORMS Annual meeting, 2018

(8) Eiji Murakami, How to enable the utility data under the lower sampling rate and less attribute for making smart cities, The 33rd Annual Conference of the Japanese Society for Artificial Intelligence, 2019

(9) TM Vinod Kumar, Geographic Information System for Smart Cities, Copal Publishing Group, 2014

<商標>
ガスミエールはアズビル金門株式会社の商標です。

<著者所属>
村上 英治 アズビル金門株式会社 経営企画部

この記事は、技術報告書「azbil Technical Review」の2020年04月に掲載されたものです。