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液体流量計の開発と品質管理のための標準供給体制構築

キーワード:校正事業者登録制度,JCSS,校正設備,液体流量計,大流量,微小流量

アズビルは電磁流量計や熱式流量計などの液体流量計の製造・販売を行っている。これらの製品の開発や生産に欠か すことができない校正設備の紹介と製品の性能を評価できる設備の特徴や能力について述べる。また,これらの技術を 維持する仕組みとしてJCSS(Japan Calibration Service System)校正事業者登録制度を活用し,トレーサビリティの確 立や校正測定能力を維持していることを説明する。

1.はじめに

azbilグループで販売・製造している液体(水用)流量計(以下,液体流量計)の品質や性能維持に欠かすことができない校正設備を紹介する。液体流量計の校正設備はアズビル藤沢テクノセンター(以下, アズビルFTC)とアズビル京都にあり,微小な流量(1 g/min≒1 mL/min)から大流量(5090 ㎥/h)までJCSS校正が可能である。ちなみに微小流量の1 mL/minはティースプーン(約5 mL)を満たすまで約5分かかるのに対して,大流量の5090 ㎥/h では一般的な25 mプール(約600 ㎥)を約7分で満たすことができる。

液体流量計の主な製品として以下,微小液体流量の測定により充填や混合などに使われる熱式微小液体流量計とプロセス流体,スラリー性流体などの測定に使用される電磁流量計を紹介する。 ぞれぞれの流量の測定範囲は図1のとおりで,微小流量から大流量まで正しく測れることを校正作業で確認して出荷する。校正作業は,流量に応じた細かな対策(設備の工夫や手順など)が必要になるので本稿にて説明する。

図1 製品の測定流量範囲

2.校正設備の紹介

2.1 液体流量の校正

まず,一般的な液体流量計(水流量)の校正方法について説明する。図2のように標準器となる流量計(標準流量計)と校正対象の流量計を同一配管内に接続し,上流側の圧力を高くすることで配管内に水を流す。この状態で一定時間放置し配管内の流れの状態を安定させ,各流量計の出力を比較することで校正が可能になる。このように流量計同士を比較して校正することを比較法と呼んでいる。

図2 液体流量計の比較校正

比較法では,標準器(流量計)より高い能力(精度)で校正することはできないため高精度で校正するには,以降で紹介する秤量法という方法が使われる。秤量法とは,流量計を通過した水の重さ(質量)と流した時間を測って流量(質量流量)を算出する方法である。

2.2 微小流量校正設備

2.2.1 JCSS登録内容

微小流量計の校正設備はアズビルFTCに設置されており,この設備を用いて技術標準部計測標準グループがJCSS登録事業者として表1のとおり登録されている。

表1 JCSS登録内容(微小流量)

登録番号0155
校正手法の区分の呼称液体流量計
種  類微小用流量計
校正範囲1 g/min 以上 30 g/min 以下
拡張不確かさ
信頼の水準約 95 %
0.15 %

1 g/min ≒ 0.001 L/min

2.2.2 設備の概要

微小流量計の校正設備の概略は図3のとおりで,1.5 m× 1.5 mのスペースに設置できる大きさである。水の流れは右のタンクから左のはかりへと配管内を流れるが,図3の右上部に書いた圧力コントローラでタンク内の圧力を制御し(絶対圧250~400 kPaの範囲に設定),送水している。

流量を一定に制御するには水圧を一定に保つ必要があるが,水圧を水で直接コントロールすると力の伝達速度が速す ぎて脈動が生じてしまう。そのため空気の粘性による配管抵抗とタンク(ボリューム)で脈動を小さくする工夫をしている。

タンクから押し出された水は流量計を通過したあと,はかりの上の容器に排出され,ここにためられていく。一定時間経過後,たまった水の質量を経過時間で割ることで,実際に流れた流量を決定することが可能となる。しかし,測定対象は最小で1 mL/minと微小な流量であるため,これを高精度で測定するには様々な現象を考慮しなければならない。これらの内容とその対策について次節に述べる。

図3 微小流量校正設備の概略図

2.2.3 設備の概要

正しく測るには誤差要因を把握し,それらの対策をする必要がある。これらの対策のいくつかは厄介なトレードオフの関係(現象)になるため不確かさの感度係数や過渡的な物理現象を見極め,バランスを考えて校正設備を構築したり作業手順の一部を加えたり様々な工夫をする必要がある。次に挙げる誤差要因が及ぼす影響を軽減するために行った設備の特徴を4つ紹介する。

(1)水の蒸発対策
まず始めに水の蒸発を防ぐ方法を,図3を参照しながら説明する。秤量法による流量計の校正では流量計を通過した水をはかりの上にある容器にためていくが,このときの水の量が非常に少ないため,測定中のわずかな蒸発量でさえ測定に影響を与えてしまう。この蒸発の影響を避けるため水が直接,測定環境の空気に触れないよう工夫をしなければならない。そこで植物油(パラフィン)を容器内の水に浮かべることで蓋をし,蒸発を防ぐ対策をとった。蒸発防止の蓋としてパラフィンを選定した理由は,液体なのではかりに余計な力をかけないためでもある。

(2)気泡や溶存空気対策
次に,配管内において気泡の発生を防ぐ方法を説明する。微小流量校正設備には接手やバルブがいくつも介在し配管の内径が一様ではないため,内径の変化によって水が流れる際に圧力差が生じ,気泡が発生しやすい環境になる。液体流量の校正において配管内に気泡が混在すると,流体の体積や熱伝導率などの物理的特性が異なることで誤差が生じる。そのため,あらかじめ校正前にタンク内の水を真空脱気することで気泡や水に溶け込んだ空気を除去している。その後,校正を開始するとタンク内の空気を加圧して送水するため徐々に水中へ空気が溶け込んでしまう。その校正中に溶け込んだ空気を取り除く方法として真空脱気装置をタンクの出口に装着し校正中も脱気処理を行っている。この真空脱気装置を通過する水の流路は多孔性のテフロン膜で構成されており,その流路の外側は容器で囲われている。この容器内を真空にし続けることで気泡が流路の外側へ透過する構造になっている。このような脱気原理であるため同時に一部の水が水蒸気となり,その気化熱で水温低下が生じてしまう。そのため配管にヒーターを巻き精密な水温制御でリカバリしている。また,同時に水蒸気も脱気されてしまうため,配管内の水の圧力が低下してしまう。この圧力損失分を見越した設計が必要になる。

(3)温度変化対策
次に温度変化が流量の校正において,どのような影響を及ぼすのかを説明する。どんなに測定環境を精密に温度制御しても,人の出入りや校正設備の発熱などにより,環境の温度変化をなくすことは難しい。さらに水を配管に流す際,流量計を通過する過程で電子回路等の発熱により水温が上昇してしまうため,水の温度変化をなくすことも難しい。ここで考慮しなければならない現象は配管と水の熱伝導率や熱膨張率の違いにより温度変化があると,それぞれの膨張・収縮の違いによって,水を押し出したり,吸い込んだりすることで流量校正に影響を与えるということである。この影響を小さくするには校正対象の流量計を通過してからはかりの容器に入るまでに必要な配管の容積をできる限り小さくする方法が効果的であるが,小さく(細く短く)し過ぎると圧力損失が大きくなり水が流れにくくなる。そのため,圧力損失の大きい流量計を想定して配管径,配管長を設計したが,微小流量になると理論どおりの結果が得られず,試行錯誤により適切な配管を見つけ出した。

(4)液滴対策
微小流量の校正では,測る水の量があまりにも少ないため,配管出口を水面から上方に離すと,配管から液滴となって断続的にはかりの容器に落下することになり連続的なデータを取得することができず,時間当たりの質量変化が安定しないということになる。その対策としてパラフィン下に配管出口を浸水させ送水することで,連続的なデータの取得を可能とした。対策前後の結果の一部を図4に示す。これは約0.05 g/minの例であるが,この対策により連続データが取得できていることがわかる。

図4 液滴の影響と配管出口浸水の効果

図4のとおり液滴による問題は解決したが,測定中は水の量が増え配管が徐々に浸かる。その結果,配管の浸水部分が増加し,その体積にかかる浮力が誤差になる,そのため浸水する配管は可能な限り細くし,この影響を無視できるように設計した。

2.3 大流量校正設備

2.3.1 JCSS登録内容

大流量用の流量計校正設備はアズビル京都に設置されており,この設備を用いてアズビル京都校正グループがJCSS登録事業者として表2のとおり登録されている。

表2 JCSS登録内容(大流量)

登録番号0274
校正手法の区分の呼称液体流量計
種  類水用流量計
校正範囲0.002 ㎥/h 以上5090 ㎥/h 以下
拡張不確かさ
信頼の水準約 95 %
0.10 %

2.3.2 設備の概要

アズビル京都の大流量校正設備では大量の水を使用するため地下水槽に貯水し,校正に必要な水の量を循環させて使用している。図5の流量校正設備の断面図(概略図)をもとに地下水槽から水の流れに沿って校正設備を説明する。まず「地下水槽」から「揚水ポンプ」で「高架水槽」に水を上げ,ここから重力を利用して各配管(表3の各校正ラインへ)に水を流す。この流量を測る「制御用流量計」の出力をもとにして目標の流量になるように「流量制御バルブ」の開度を調整する。流量が安定したら捨て流し工程を経て「ダイバータ」で流路を切り替え「秤量タンク」に水をためる。所定の水の量がたまれば再び「ダイバータ」で流路を切り替え,たまった水の質量(重さ)を「秤量器」で測る。ダイバータとは,短時間で水の流れを切り替える装置であり,ダイバータからの切替信号により秤量タンクに水をためている時間を正確に測定することができる。この時間でたまった水の質量を割れば,この間に流れた流量(質量/時間)を算出できる。

表3 アズビル京都の校正ラインの対象口径と流量範囲

校正ライン名称校正対象口径流量範囲
S12.5A ~ 25A0.005 ㎥/h ~ 14.1 ㎥/h
S22.5A ~ 25A0.002 ㎥/h ~ 14.1 ㎥/h
M140A ~ 50A4.34 ㎥/h ~ 42.4 ㎥/h
M250A ~ 65A14.8 ㎥/h ~ 71.7 ㎥/h
M380A ~ 100A39.8 ㎥/h ~ 226 ㎥/h
L1125A ~ 200A102 ㎥/h ~ 905 ㎥/h
L2250A ~ 1200A442 ㎥/h ~ 5090 ㎥/h
T15A ~ 200A0.090 ㎥/h ~ 905 ㎥/h

図5 流量校正設備の断面図(概略図)

2.3.3 設備の特徴

大流量校正設備の4つの特徴を紹介する。

(1)高架水槽
まず,大流量の安定化について高架水槽の役割・機能を説明する。一般的に大流量の水を配管に流すには,ポンプなどの動力源を利用し循環させる方法を使う。しかし,この動力源の特性によって脈動や旋回流が引き起こされる。また,動力源の発熱により水温が上昇する。これらの結果として校正に必要な安定した流量を作り出すことが難しい。
そこでアズビル京都では大流量の水を安定して流すために35 mと20 mの落差を持つ高架水槽を設置し,常に水があふれている状態を保つことで水面を一定にし,水圧を安定させている(オーバーフロー方式)。これにより,ポンプなど動力源の影響をなくし,重力によって安定した流量を作り出す方式を採用した。2021年現在,アズビル京都の高架水槽は国内最大級の容量と高さである。
表3に示した各校正ラインはそれぞれ個別配管で高架水槽と繋がっているため,他の校正ラインに流れた水の影響(水圧の変化)を受けず,水圧が安定することで流量が安定する。さらに図6の写真にように高架水槽は2段構造となっており,下段は大口径用,上段は小口径用の校正ラインへと送水している。
各校正ラインで使用された水は再び揚水ポンプ室の下にある地下水槽に流れ込む。地下水槽は常に800 ㎥以上貯水でき,最大流量を流しても十分な水量を確保できている。また,地下水槽から再び高架水槽へと給水することで水を再利用し環境に配慮した設計になっている。

(2)配管類
上記の(1)で説明した安定した水圧と共に流量測定の重要な要素には,水の流れの状態がある。図6の写真のように配管には,集合管,分岐管,バルブや曲がり管があり,ここでは偏った流れ( 偏流)や配管内を回転しながら進む流(旋回流)が発生してしまう。校正対象の流量計によってはこれらの影響を受けてしまうため,偏りや旋回成分のない整った流れ(軸対象流)を作り出す必要がある。配管設計に関しては流体シミュレーションを行い,旋回流を極力発生させない配管レイアウトとした。また,全ての校正ラインで口径の50倍(50D)以上の直管長を被校正器の直前に設置し,安定した流れを実現した。

(3)気泡や溶存空気対策
次に大流量でも気泡の混入は悩ましい誤差要因の1つである。高架水槽が大気開放状態であり,構造的に水の真空脱気ができず気泡の混入は避けられないが,小さな気泡が水に溶け込んだ状態で維持されれば大流量では大きな影響が出にくい。しかし,配管内に気泡が塊となって存在し,それが校正中に配管内から秤量タンクに放出された場合は大きな誤差要因となる。これを回避するため配管の高低差を利用して気泡が集まりやすい場所を作り,その場所から校正作業の直前に気泡抜きを実施している。この気泡抜きは,表3に示す8つの校正ラインの全てで行っており,また,気泡検知器を設置している。これにより気泡が検知された場合は,自動的に校正を中断する仕組みとなっている。

(4)温度変化対策
大流量設備での環境温度と水温や配管の温度変化による校正結果への影響は,微小流量と同様であるため詳細は割愛するが,アズビル京都の校正設備は非常に大きいため恒温室内に設置することができない。そのため外気の影響により水温や配管温度は季節によって大きく変わるが,十分な時間をかけて大量の水を循環させる慣らし運転を行い,水温と配管温度を安定させることで校正時の温度変化が小さくなるようにしている。

図6 大流量校正設備の水の流れ

3.トレーサビリティ

流量は質量(体積)と時間から成り立ち,このトレーサビリティ注1を明らかにするには,これらの2つの上位標準を辿る必要がある。まず質量計(天びんなど)は,JCSS校正された分銅を使って現地で,流量測定の不確かさの1/10以下で校正している。次に時間測定であるが,アズビルFTCの微小流量校正設備(2.2節)ではPCの時計を用いている。このPCには特殊な周波数ボードを組み込んでおり,ここに標準周波数発生器の10 MHz信号を入力し時間の基準としている。したがって,この時間測定の標準器は標準周波数発生器となる(図7)。そして,この標準周波数発生器はGPS衛星からの信号を受信できるようになっており,GPS信号を仲介して産業技術総合研究所(以下, 産総研)の時間標準と遠隔でリアルタイムに比較校正されている。この遠隔校正の仕組みを用いてアズビルの技術標準部計測標準グループは周波数区分のJCSS登録事業者にも登録されている。

図7 トレーサビリティの概略図

アズビル京都の大流量校正設備(2.3節)では,ダイバータ切り替えの時間間隔を周波数カウンタで読んでいるが,周波数カウンタの外部参照信号入力端子に微小流量校正設備と同様に標準周波数発生器の10 MHz信号を入力している。したがって,時間測定の標準は周波数カウンタ内部のタイムベースではなく,より高精度な標準周波数発生器となっている。この標準周波数発生器は前述した遠隔校正の仕組みによりアズビルFTCの標準周波数発生器を標準に遠隔校正されている。アズビル京都に標準周波数発生器が導入される以前は,各校正ラインに2台,合計で16台設置されている周波数カウンタを1年周期でアズビルFTCに搬送し校正していたが,遠隔校正(e-trace)導入後は個別の周波数カウンタの校正が不要となったため,運搬の必要がなくなり,取り外しや輸送によるドリフトのリスクがなくなった。

以上によりPCの時計や周波数カウンタではなく,標準周波数発生器を標準とすることで,時間標準に起因する不確かさは非常に小さくなっている。さらに標準周波数発生器が有する同期機能によって,インターネットを通じて常に産総研の時間標準と同期しているため,時間測定の誤差は流量測定の不確かさにとって無視できるほど小さい。

注1 詳しくはTechnical Review 2022年4月発行号「正しく測るための社内基盤整備」をご覧ください。

3.1 トレーサビリティの階層化の取組み

1993年のJCSS制度発足後,大きな改正の1つに,現場に近い計測器へJCSS校正の普及を目指して階層化が導入された。階層化とは,上位標準供給機関にあたるJCSS登録事業者から校正を受けた計測器を使い妥当かつ安価な方法で校正を実施する体制のことを言う。具体的にはアズビル京都内で校正された流量計を標準器として用いて他の校正ラインを校正することで,その校正ラインもJCSS校正設備(液体流量校正設備(WS)と言う)として位置づけられる。これにより設備管理を簡略化し,校正費用を削減している。この階層化の校正ラインは,新品の電磁流量計のJCSS校正に使用することにより,製品へのコスト影響を抑えている。

4.おわりに

液体流量計の区分では,アズビル京都で2011年4月にJCSSの初回登録,2014年4月に登録範囲を拡大し,現在の登録範囲(0.002 ㎥/hから5090 ㎥/h)とした。その後, 2019年10月に微小流量範囲(1 g/min~30 g/min)の登録も行い,現在は国内で広い流量範囲に対応する水用流量計のJCSS登録事業者の1つとなり,数々の校正業務や流量校正に関する相談を受けてきた。またJCSS校正以外(一般校正と呼んでいる)も含め,年間200件程度の校正業務を実施する中で,流量計の校正やトレーサビリティに対する関心が年々高まっていることを実感している。今後は,様々な規格要求事項に盛り込まれニーズが高まり,さらにJCSS校正が普及すると考えられ, 校正依頼件数が減ることは考えにくい。azbilグループは流量計の製造メーカーであり,校正事業者でもあるので両事業の継続とJCSS校正事業者登録制度のさらなる周知と活用に貢献していきたいと考えている。

<著者所属>
杉山 信幸 アズビル株式会社 技術標準部計測標準グループ
山口 徹 アズビル株式会社 技術標準部計測標準グループ

この記事は、技術報告書「azbil Technical Review」の2022年04月に掲載されたものです。