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市場要求に応える気体大流量の標準供給体制構築

キーワード:JCSS,ISO/IEC 17025,校正範囲拡大,トレーサビリティ,不確かさ,気体流量計,音速ノズル,加圧校正,気体大流量

世界的に流量計測はエネルギー管理やエネルギー取引きにおいて重要視されているが,国内において気体流量のトレーサビリティに対する重要性の認識は,他の物理量と比較して遅れているのが現状である。それは,受け皿となるJCSS(Japan Calibration Service System)登録事業者の対応可能な範囲が限られているなども要因の1つであった。azbilグループにおいても大流量への標準供給体制の充実が求められてきた。そのような背景の中,アズビル金門校正サービスセンターは,2003年に気体流量計の区分においてJCSS登録事業者となって以来,校正可能な範囲を拡大してきた。現在では,国家計量標準で供給できない校正範囲のJCSS校正を可能にしている。本稿では,その取組みについて紹介する。

1.はじめに

1.1 校正サービスセンターの概要

アズビル金門校正サービスセンター(以下,当センター)は, JCSS登録事業者として気体流量計測に用いる音速ノズルおよび各種気体流量計の校正を行っている。

当センターは,2003年に気体中流量(50 m³/h~1000 m³/h)のJCSS登録事業者となって以来,その流量域において,実際に現場で使用される圧力条件を想定した加圧状態で実流校正が可能なJCSS登録事業者として,校正サービスを提供してきた。その後も2007年に6 m³/hまで小流量域に流量範囲を拡大した。2013年には,気体流量において国内初(2013年7月時点,当社調べ)となる現地校正(出張校正)に対応した。2016年には,国家計量標準で供給可能な上限の1000 m³/hを超え,国内最大流量(2016年9月時点,当社調べ)となる4000 m³/hまで,流量範囲の拡大を進めてきた。さらに,2021年12月に校正可能な圧力範囲を0.98 MPaまで拡大し,標準状態(0 ℃,1気圧)で約40000 m³/hのJCSS校正が可能となった。

また,JCSS登録事業者である優位性を活用して,azbilグループにおける気体流量計やベンチュリバルブ等の製造現場の検査設備に使用している基準器および標準器を定期的に校正し,トレーサビリティ注1を確保している。

当センターが供給する気体流量のトレーサビリティ体系の概要を図1に示す。JCSS登録事業者として特定二次標準器注2およびワーキングスタンダード(作業用標準器)注3である音速ノズル(以下,標準ノズル)に加えてワーキングスタンダード流量計(以下,標準流量計)を保有し,校正による切れ目のない連鎖によって一般計測器を国家計量標準に関連づけることでトレーサビリティを確保している。

注1~注4 詳しくはTechnical Review 2022年4月発行号「正しく測るための社内基盤整備」をご覧ください。

図1 トレーサビリティ体系

1.2 校正サービスセンターの校正設備

流量計を校正する大流量校正室(図2)は,広さが53 m× 13 m,総配管長が約130 mの非常に大きな設備である。そのため,校正対象流量計と標準ノズルおよび標準流量計間の配管ボリュームが大きく,配管自体の熱容量が流体温度に影響してしまうため,室温は重要な管理項目として設定温度±0.5 ℃で制御している。

図2 大流量校正室

気体流量の標準として,標準ノズル12本,標準流量計5台を設備に常設しており,試験条件によって最適な標準器を選択して校正を行うことが可能である。標準ノズルラインの写真を図3に示す。

図3 標準ノズルライン

恒久設備(引取り校正)および現地校正(出張校正)におけるJCSS校正の範囲を表1に示す。

表1 JCSS校正範囲

圧力範囲(M Pa)流量範囲(m³/h)拡張不確かさ(%)
恒久設備0.09 ~ 0.986 ~ 40000.25 ~ 0.54
現地校正0.09 ~ 0.1156 ~ 40000.29 ~ 0.40

2.気体流量校正の概要

2.1 気体流量の計測

気体流量の計測には大きく分けて2通りの方法がある。1秒間あたりに流れた体積(体積流量,単位は「m³/s」,1時間あたりの場合は「m³/h」)を計測する方法と,1秒間あたりに流れた質量(質量流量,単位は「kg/s」)を計測する方法である。一般的には,体積流量を計測する流量計が多い。体積流量と質量流量は密度を計測(密度は,温度,圧力,湿度の計測により算出)することで同じ単位(体積流量「m³/s」=質量流量「kg/s」÷密度「kg/m³」)に揃えることが可能である。

計測の際に注意すべき点として,気体は液体に比べて圧縮性が大きいことから体積が変わりやすい。このため,膨張収縮による影響を無くすために流量,温度,圧力を安定させる必要があるが,これらはお互いに影響することから,安定状態を作ることが非常に難しい。このため,気体の場合は音速ノズルによる安定した流量を発生させる手法で精密な計測ができる。

2.2 音速ノズルの特徴

気体流量において高精度の校正を行う場合には,音速ノズルを用いて配管内の気体流量を一定に保つ方法が一般的に用いられる。

音速ノズルは,図4に示すような絞り構造で,上流側と下流側の差圧が一定以上になれば,スロート部を通る気体の流速は音速となり,それ以上変化しない特性を持っている。温度一定の条件下であれば音速は一意に決まるので,既知であるスロート断面積をかけるだけで体積流量も一意に決まる。この特性により安定した体積流量を発生させることができる。このように音速ノズルを流れる流量は一定流速になるが,実際に流れる流量は,境界層の存在等でスロートの有効断面積が小さくなり,理論的に求められる流量より少なくなる。そのため,音速ノズルの校正とは,理論流量(\(Q_{theo}\))と実際に流れる流量(\(Q_{meas}\))の違いを補正するための流出係数(\(Cd\))を決定(値付け)することである

図4 音速ノズルの説明

さらに大流量の場合,音速ノズルを並列配管にすることで,高精度を維持したまま2倍3倍と増やしていくことが可能である。当センターが標準ノズルとして使用している音速ノズルの形状は,JIS Z 8767の「トロイダルスロートベンチュリノズル」に準拠しており,製品評価技術基盤機構(以下,NITE)の技術的要求事項適用指針(1)によって最大で1000 m³/hまで増やすことが認められている。

2.3 気体流量の校正方法

気体流量の校正には大きく分けて2通りの方法がある。標準ノズルによって作り出した精密な流量を校正対象流量計で計測する方法(校正方法1)とブロワによって調整した流量を標準流量計と校正対象流量計で比較する方法(校正方法2)である。

図5に校正方法1の概略図を示す。この方法では標準ノズルが持つ,温度一定の条件下で配管内の体積流量を一定に保つことができる特性を利用し,高精度で安定した流量を発生することで校正を行う。直列に設置した標準ノズルと校正対象流量計に差圧発生装置となるブロワを用いて標準ノズルの上流側と下流側の差圧を発生させ,標準ノズルの流速を音速にする。その状態で,閉じた配管内(以下,閉ループ)の温度,圧力の安定を待ち,互いの流量値\({Q}_N\)と\({Q}_1\)を比較する方法である。当センターでは,標準流量計を校正する際に用いる最も精度の高い校正方法である。その校正測定能力は,拡張不確かさ0.25 %~0.29 %(信頼の水準約95 %)である。

図5 標準ノズルによる気体流量の校正方法(校正方法1)

図6に校正方法2の概略図を示す。直列に設置した標準流量計と校正対象流量計に流量発生装置となるブロワを用いて閉ループに気体の流れを作り,流量,温度,圧力が安定した状態で,互いの流量値\({Q}_0\)と\({Q}_1\)を比較する方法である。

図6 標準流量計による気体流量の校正方法(校正方法2)

体積流量は,流れる気体の温度や圧力に依存するため,校正対象流量計と標準流量計の温度や圧力にわずかな違いがあっても正しく校正することができない。このため,標準流量計の流量を補正して条件を揃える必要がある。

補正後の標準流量計の体積流量を\(Q\)
標準流量計の体積流量を\({Q}_0\)
標準流量計の圧力を\({P}_0\)
標準流量計の温度を\({T}_0\)
校正対象流量計の圧力を\({P}_1\)
校正対象流量計の温度を\({T}_1\)

としたとき,ボイル・シャルルの法則より,以下の補正式が成り立つ。

\(Q={Q}_0×\frac{{P}_0}{{T}_0}×\frac{{T}_1}{{P}_1}\)
式(1)

この補正した標準流量計の体積流量\(Q\)と校正対象流量計の体積流量\({Q}_1\)の値を比較することで正確な校正が可能となる。標準流量計を用いる校正方法2は,標準ノズルを用いる校正方法1より不確かさが大きくなってしまうが,小流量から大流量まで任意に流量を調整することができる。JCSS校正が可能な範囲は,圧力0.09 MPa~0.98 MPa,流量6 m³/h~4000 m³/hで,その校正測定能力は,拡張不確かさ0.29 %~0.54 %(信頼の水準約95 %)である。

3.気体流量校正範囲の拡大

3.1 1000 m³/hを超える流量範囲の拡大

2016年当時,ビルやプラントの大規模化に伴って大流量が計測できる流量計の校正要望は高まり続けていた。しかし,当時JCSS校正が可能であった最大流量(1000 m³/h)では流量が不足しており,azbilグループのトレーサビリティ維持のためには流量拡大が急務となっていた。一方で校正が長期間停止するような大規模な設備改造もトレーサビリティ維持の観点から難しく,既存の設備を活用して短期間で完了できる改造に留める必要があった。そこで図7に示すような概要で流量拡大を実現した。

図7 流量拡大の概要

まず,NITEの技術的要求事項適用指針で認められている手法として,200 m³/hの標準ノズルを5本並列に使用し,最大1000 m³/hまで標準流量計を校正する。次に標準流量計を複数台並列に使用し,4000 m³/hまで積み上げる。理想的には同口径の標準流量計を4台準備し,同じ配管形状で並列に使用することで容易に4倍の流量を実現できるが,既存の設備を最大限に有効活用し,既存の標準流量計(80AのCVM300,150AのG650,200AのG1000,300AのG2500)を組み合わせ,4000 m³/hまで実現した。

1000 m³/hまでは,産業技術総合研究所と技能試験(互いに同じ流量計を校正して校正結果を比較する技術能力確認試験)を実施することで,JCSS登録事業者として技術能力が適正であることを証明できる。しかし,1000 m³/hを超えると国内に技能試験を実施できる校正機関がないことから,海外の国際相互承認された校正機関と技能試験を実施することが求められた。

1000 m³/hの流量から4倍の流量まで拡大したが,その校正結果の妥当性については,自らの評価結果に基づく自己宣言でしかないため,技能試験に合格するかどうかは実施しなければわからない。さらに海外の校正機関に流量計を送り技能試験を実施することは,時間的,費用的に容易ではないため,実施する前に妥当性評価を繰り返した。海外の校正機関との技能試験に用いる流量計は,標準流量計として実績があり,長期安定性と流量特性に優れたタービン流量計を選定し,我々の知見とノウハウを駆使して,1000 m³/hを超える流量域での挙動を慎重に推定した上で考えられる限りの対策を行った。並列使用する標準流量計のばらつきが十分小さくなる最適な通過体積を評価し,全体流量が変更された場合でも各流量計が安定して計測できる流量となるよう分流比を調整し,並列使用する標準流量計の合計流量を安定させた。その結果,広い流量範囲において,再現性のよい校正結果を得ることに成功した(図8)。

図8 流量範囲拡大の評価結果

この結果を踏まえて,国際相互承認された校正機関である台湾工業技術研究院へ校正した流量計を送り,技能試験を実施した。その結果,合格基準であるEn注4判定が|En|≦1.0となり,2016年9月に圧力0.4 MPa,流量4000 m³/hまでJCSS校正が可能となった。これにより,国家計量標準で供給できない標準供給が可能となり,国内で唯一1000 m³/hを超えた校正が可能なJCSS登録事業者となった。

3.2 0.4 MPaを超える圧力範囲の拡大

2019年までにJCSS校正可能な範囲を圧力0.09 MPa~0.4 MPa,流量6 m³/h~4000 m³/hまで拡大してきたが, 2020年にJIS M 8010「天然ガス計量方法」が改訂され,従来のオリフィス流量計,容積流量計,渦流量計に加え,新たに超音波流量計が規格に追加され利用可能になった。そのため超音波流量計の校正の必要性が増えることが期待される。しかし,当時JCSS校正が可能であった最大圧力(0.4 MPa)では校正可能な上限圧力が不足しており,より高い圧力に概要で0.4 MPaを超える圧力範囲拡大を実現した。

図9 0.4 MPaを超えた流量拡大の概要

既存の設備を最大限に活用して短期間で完了するために,トレーサビリティを確保した標準供給方法が課題となった。当センターが保有している特定二次標準器は,圧力0.1 MPa~0.5 MPaの範囲において,国家計量標準によって校正されている。0.5 MPaを超える圧力条件では,トレーサビリティが確保されていないことから,使用する圧力範囲まで自らが校正を行い,その校正結果が正しいことを技能試験で証明する必要がある。そのため,標準流量計を用いて,校正対象ノズル(特定二次標準器)を圧力0.5 MPa~0.98 MPaの範囲で校正した。その概略図を図10に示す。

2 MPaまで蓄圧した10 m³のサージタンク,圧力調整弁,校正対象ノズル,大気圧でJCSS校正された標準流量計の順に設置し,校正対象ノズルの上流側圧力を任意の圧力(0.5 MPa~0.98 MPa)に制御し,一定流速を発生さる。流した流量は,校正対象ノズルの下流側が大気圧になる過程で気体が膨張し,圧力比の分だけ流量が増える。その流量を標準流量計で測定し,校正対象ノズルを校正する。例えば,図10の例に示している25 m³/hの校正対象ノズルの上流圧力を0.5 MPaに制御した場合,大気圧(0.1 MPa)では5倍の約125 m³/hの流量となる。校正対象ノズルの理論流量と標準流量計から得られた実際に流れる流量の比から流出係数を決定する。流出係数は,流れの状態を表すレイノルズ数の関数であるが,レイノルズ数は流速が同じであれば密度に比例するため,校正対象ノズルの上流側圧力を変えることでレイノルズ数を変えることができ,数点校正することで流出係数とレイノルズ数の関係を求めることができる。

図10 0.5 MPa超における標準供給方法

圧力範囲を拡大したい最大流量は4000 m³/hであることから,積み上げていくための流量標準となる校正対象ノズルは可能な限り大きな流量の標準ノズルを選定したいが, 2 MPa,10 m³のサージタンクの容量から,一定圧力を維持したまま十分な計測時間が確保できる6.25 m³/h,12.5 m³/h, 25 m³/hとした。25 m³/hの校正結果を図11に示す。校正した結果から得られた流出係数とレイノルズ数の関係は,特定二次標準器として使用可能な範囲(0.1 MPa~0.5 MPa)の関係式から求めた外挿値によく一致した。

図11 特定二次標準器の外挿値校正結果

0.98 MPaまで校正した3本の標準ノズルを用いて,0.4 MPaを超えた圧力範囲における4000 m³/hまで積み上げるための基となる標準流量計を校正する。その概略図を図12に示す。

図12 0.4 MPa超における標準ノズルを用いた校正方法

2 MPaまで蓄圧したサージタンク,圧力調整弁,校正対象流量計(標準流量計),標準ノズルの順に設置し,標準ノズルの上流側圧力を任意の圧力に制御し,一定流速を発生させている状態で校正対象流量計と比較して校正する。

4000 m³/h まで積み上げる方法は,図12の校正方法で校正した4台の標準流量計を閉ループラインに並列設置し, 25 m³/h×4台(100 m³/h)で校正対象流量計(標準流量計)を3台校正(図13のSTEP 1)し,100 m³/h×3台(300 m³/h)で校正対象流量計(標準流量計)を校正(図13のSTEP 2)し,様々な流量で積み上げ校正を繰り返し4000 m³/hまで積み上げた(図13)。

図13 積み上げ校正のイメージ

技能試験を国内で対応できる校正機関がないことから,フランスの国際相互承認された校正機関であるCESAME-EXADEBITへ校正した流量計を送り,技能試験を実施し,良好な結果を得た(図14)。その結果,合格基準であるEn数判定が|En|≦ 1.0となり,2021年12月に圧力0.98 MPa,流量4000 m³/hまでJCSS校正が可能となった。これにより,国家計量標準で供給できない校正範囲をさらに拡大した。

図14 技能試験結果

4.おわりに

当センターは,気体流量のJCSS登録事業者になって以来,様々な取り組みにチャレンジし,校正範囲を広げてきた。その結果,気体流量において国内最大の流量と圧力条件で校正が可能な唯一のJCSS登録事業者となった。今後も常に新しい取り組みにチャレンジし,継続的な校正能力,校正技術の向上により,顧客ニーズに広く応えていきたいと考えている。

<参考文献>

(1) 独立行政法人製品評価技術基盤機構認定センターJCT20810 技術的要求事項適用指針(流量・流速/気体流量計)
https://www.nite.go.jp/data/000001459.pdf

<著者所属>
古屋 宏樹 アズビル金門株式会社 開発本部校正サービスセンター

この記事は、技術報告書「azbil Technical Review」の2022年04月に掲載されたものです。