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オイルフリー高感度圧力センサの開発と応用検討

キーワード:ピエゾ抵抗式,オイルフリー,MEMS,歪センサ,サニタリー向け圧力センサ,トルクセンサ

差圧・圧力発信器に搭載されているピエゾ抵抗式圧力センサが大気中だけでなく高湿度下においても高い安定性を有する特長を活かし,サニタリー仕様の圧力センサへの応用を検討した。サニタリー仕様ではいくつかの要求事項があるが,特にオイルフリー要求に対して性能面で満足する製品は,現状世の中に存在しない。そこで,独自設計したMEMSセンサ素子を金属受圧ダイアフラムに接合し,ダイレクトに歪(ひずみ)を検出することで,オイルフリーで液封型同等レベルの高精度な圧力センシングが可能であることを実証した。さらに,本技術を「ロボットアームおよびロボットハンド用の力覚センサ」への応用を視野に入れ技術検証を行ったので報告する。

1.はじめに

アズビルの主力製品である差圧・圧力発信器は,汎用性の高い工業計器であり,世界中で広く使用されている。内部には,ピエゾ抵抗式のMEMS圧力センサ素子(1)が搭載されており,プロセス流体と接触する金属バリアダイアフラムで受圧した圧力を内部に封入されたシリコンオイル等の封入液を媒体として圧力伝達し,センサ素子内に形成したSiダイアフラムで検出する仕組みとなっている。圧力検出部は封入液で満たされており,常に安定した状態を保つことができるため,長期的に信頼性の高い製品となっている。

ところが,食品分野においては安全性の面から封入液を使用しないオイルフリー圧力センサが求められている。しかし,オイルフリー圧力センサは封入型と比較して性能面,品質面で劣っており,全面切替えに至っていないのが現状である。今回,独自プロセスで製作した圧力センサにおいて, 60℃/ドライ環境と60℃/90%RHの高湿度環境でそれぞれドリフト試験を行ったところ,既存製品(図1)に搭載されている封入型圧力センサ素子と同等の高い安定性を有していることが判明した(図2)。そこで,封入液を使わない新しいピエゾ抵抗式圧力センサの開発を目指した。

図1 圧力センサBravolight™(形 PTG60S,形 70S)

図2 (a)ドライ環境下での圧力センサ出力ドリフト比較 (b)高湿度下での圧力センサ出力ドリフト比較

2.圧力センサ概要

2.1 サニタリー仕様の圧力センサ

衛生的な配慮が必要な食品市場等の製造ラインで用いられるサニタリー向け圧力センサは,以下のような要求事項がある。

(1)耐食性
圧力の測定対象の流体が接触する接液部分にステンレス鋼,セラミックス,およびチタン等の耐食性の高い材料を用いる必要がある。

(2)清浄性
定期的な高温蒸気による洗浄が行われるが,洗浄残りがないように,できる限り凹凸のないダイアフラム構造が求められるとともに,蒸気洗浄に対する耐熱衝撃性が必要となる。

(3)信頼性
封入液を使用しないオイルフリーであること,および剛性の高いダイアフラムで破れないことが求められる。

(4)汎用性
脱着可能なフェルール継手が一般的に用いられており,クランプバンドで締め付けたときの,センサのゼロ点オフセットが生じないことが要求される。

これらの要求事項がセンサ性能に影響するため,高精度化が容易ではないといえる。特に,剛性の高い金属ダイアフラムの微小な歪を金属薄膜の歪ゲージを貼り付けて検出する方式では,低感度かつ複数の歪ゲージの貼り付け精度がセンサ特性に影響を与えるため,ばらつきが大きいといった課題がある。

2.2 開発したオイルフリー圧力センサ

当社では前述の要求事項を考慮した上で,ダイアフラムのマイクロメートルレベルの微小な変形を高感度にセンシング可能なSiピエゾ抵抗式の歪センサを搭載したオイルフリー圧力センサを開発した。

図3に示すように,ピエゾ抵抗ゲージを形成したシリコン層の下に3本のガラス柱が接合されており,ダイアフラム中央と外側の変形差をシリコン層に伝達する構造である。例えば,直径Φ23mm, 厚さ0.5mmのステンレスダイアフラムが圧力1MPa印加時に,ガラス柱の中央と外側に生じる変形差は10um程度と微小であるが,効率よくSi層に変形伝達することで,同ダイアフラムに貼り付けた歪ゲージ式と比較して,約80倍の感度を実現した。また,温度変化による出力変動を極力抑制するために,ステンレスダイアフラムとセンサ素子の線膨張係数の違いによる出力変動が発生しない位置に抵抗ゲージを配置することで,高SNな特性を実現している(図4)。

図3 (a)オイルフリー圧力センサ素子模式図 (b)オイルフリー圧力センサの動作原理

図4 圧力・熱印加時のSi表面応力分布

2.2.1 設計のポイント

高感度を実現するためには,ステンレスダイアフラムの微小変形をいかに効率的にSi層に伝達できるかが重要である。そのために以下3項目を採用している(図3)。

① ガラス分離(柱)構造
② Si層の局所薄肉部構造
③ AuSnはんだ接合

①については,柱間で生じた変形差をSi層に効率よく伝達することができ,ステンレスダイアフラムとの接合面積を極小化できることがメリットである。またガラス柱を長くすることで,蒸気洗浄時のSi表面の温度上昇を抑制し,かつステンレスとの線膨張係数の差をガラス柱が変形することで吸収する利点がある。②では,Si層が厚いと剛性が高くなり,変形伝達時にガラス柱や接合部に負担がかかり破損のリスクがある。そのため,Si層を局所的に薄肉化することで,変形を阻害することなく伝達することができる。また薄肉部を局所的に形成することで,応力発生箇所を極小化できるため素子サイズを小さくすることも可能となる。③のセンサ素子の接合では,接着剤で試したものの求める感度が得られなかったため,より剛性が高く,かつ接合温度が低いAuSnはんだ接合を採用した。ステンレスダイアフラムとガラス柱の底面にはスパッタリングやめっきにより金を成膜しておき, AuSnはんだリボン材を挟み,炉内で溶融させて接合している。センサ素子を長手方向に拡大すれば,伝達する変形量が大きくなるため,さらなる高感度化は可能であるが,はんだ接合時の応力増大やチップ素子コストアップとなるため,使用温度範囲や圧力レンジなどの要求仕様に応じて最適な設計が求められる。

2.2.2 耐熱衝撃特性

高圧蒸気による定期的な配管洗浄は,圧力センサ接液部の受圧ダイアフラムも洗浄の対象となる。接液部に蒸気が接するとダイアフラム表面が瞬間的に高温になり大きな熱分布が生じるためダイアフラムが変形する。さらに時間の経過とともにハウジング全体に熱が伝達していき,それに伴って圧力センサの出力変動が生じる。工場によっては,出力変動量が大きいとインターロックがかかってしまう場合があり,変動量をできる限り抑制する必要がある。液封型の場合,受圧ダイアフラムからセンサ素子までの間に封入液があり,さらに距離が離れているため,ほとんど熱衝撃の影響を受けない。一方,受圧ダイアフラムに直接センサ素子を貼り付けた場合,その影響は大きいことが想定される。そこで,我々はまず図5の蒸気熱流体解析モデルを作成し,蒸気洗浄時の温度変化をシミュレーションにより解析した。その結果を過渡伝熱と構造の連成解析シミュレーションに境界条件として与えてやることで,計算コストを抑えた効率的な応力分布の解析手法を実現した。

本手法で設計した圧力センサにて,蒸気接液時のセンサ出力変動量を±3%FS以下(従来比:1/10以下)に低減し,大幅な耐熱衝撃特性の向上を達成している(図6)。

図5 熱流体解析モデル(蒸気洗浄)

図6 蒸気接液時のセンサ出力変動

2.2.3 今後の展望

従来のオイルフリー圧力センサに対して大幅な高感度化を実現し,液封型同等レベルの精度達成見込みが得られた。今後は,食品・飲料市場で求められている要求仕様・顧客価値を調査し,国内仕様だけでなく,グローバルスペックの達成を目指す。

3.ロボット用力覚センサ応用

当社では上述した高感度歪センサ技術を内蔵した次世代スマートロボット(2)を開発した。これは協調型のロボットアーム(図7)で,ロボットの各関節に搭載した力覚(トルク)センサで,アームの高精度制御,さらには人がロボットに接触したことを高感度に検知することが可能となっている。また先端のハンド部にも同様に力覚(曲げ)センサを搭載することで繊細なハンドリングを可能とし,卵やカステラといった柔らかいものも把持することを実現した。

図7 アズビルスマートロボットイメージ

3.1 トルクセンサ

トルクセンサは起歪体と呼ばれる歪を発生させる部品に歪センサ素子を搭載したものと定義する(図8)。センサ素子は圧力センサと構成は同じで,ガラス層が分断されていないところが異なっている。トルクが印加されると応力分布図で示すようにセンサ素子表面に45°方向の応力分布が生じる。この応力を効率良く検出するために,4つの抵抗ゲージを45°の向きで中央に配置することで高感度かつ,温度特性の良好なセンサを実現した(図9)。本センサは,一般的な歪ゲージと比較して2桁以上の感度を有し,ヒステリシスを± 0.5%FS以下に抑制できている。図10にトルクセンサ特性を示す。図10を見ると,直線性・再現性に優れた特性であることが分かる。

図8 トルクセンサ外観(起歪体/センサ素子)

図9 高感度歪センサ抵抗ゲージ配置

図10 トルクセンサ特性

4.おわりに

高感度歪センサは,センサ素子単体ではその効果を検証することができず,ダイアフラム等の起歪部と合わせて最適化していく必要がある。現時点で,センサ素子に発生する応力は,Siの母材強度に対して1/50以下のため,材料としてのポテンシャルを活かしきれておらず,さらなる高感度化,高精度化の余地があると考えている。今後,様々なアプリケーションの検討を行い,技術の成熟化を目指す。

<参考文献>

(1) 徳田智久:世界最高水準の精度と安定性を有するピエゾ抵抗式圧力センサの開発, azbil Technical Review, 2009年12月号

(2) 原田豊,田原鉄也,岩下純久:次世代スマートロボットの開発, azbil Technical Review, 2018年4月号

<商標>

Bravolightはアズビル株式会社の商標です。

<著者所属>
瀬戸 祐希 アズビル株式会社 技術開発本部マイクロデバイス部

この記事は、技術報告書「azbil Technical Review」の2023年04月に掲載されたものです。