HOME > アズビルについて > 会社PR > 会社紹介資料 > azbil Technical Review > 2023 > 巻頭言:センサなどの製作に用いられる半導体微細加工技術 MEMS

巻頭言:センサなどの製作に用いられる半導体微細加工技術 MEMS

江刺 正喜
Masayoshi Esashi
東北大学シニアリサーチフェロー (マイクロシステム融合研究開発センター) 兼 (株)メムス・コア CTO
Senior research fellow, Micro System Integration Center (μSIC) in Tohoku University and concurrently CTO in MEMS Core Co., Ltd.

高密度集積回路(LSI)の製作に用いられる半導体微細加工を発展させてセンサなどの製作に使う技術はMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)と呼ばれ,システムの鍵を握る要素として広く使われている。2022年9月にはアズビルで新クリーンルームの竣工式が行われたとのことで,今後のさらなるMEMS関連事業の展開が期待できる。

情報処理などに用いられるLSIの素子数は微細化により10年で100倍程の割合で指数関数的に進歩し,1970年から2020年の50年間で100億倍程になり,これは高集積化の流れでMore Mooreと呼ばれる。直径30cm程のシリコンウェハ上に1兆個(各チップに100億個)程のトランジスタが載っている。この異常な進歩は,光によるフォトマスクパターンの一括転写,標準化と大量生産による設備投資の回収による。1964年に米国のテキサスインスツルメンツ社の社長であった Patrik E. Haggerty氏は集積回路の将来について,「ほんの数社(五つ程度)が工業の必要全需要の90%かそれ以上を供給する」と述べている(フレデリック サイツ,ノーマン アインシュプラッハ 『シリコンの物語』内田老鶴圃(2000年))。

これに対しシステムの入出力などに使われるセンサ・MEMS技術は売り上げで毎年13%の割合で進歩し,多様化の流れでMore than Mooreと呼ばれる。高付加価値ではあるが,多品種・少量で開発がボトルネックになり,MEMSビジネスは多くの場合に困難に遭遇してきた。著者がSEMI通信(2020年6月30日)に執筆した「MEMSビジネスにはダイバーシティが大切」*1にあるように,ビジネスとしてどう発展させればよいか,それぞれの状況下で工夫されている。

MEMSは自動車あるいはスマートフォンなどに使われる量産タイプのものから,プリンタヘッドやビデオプロジェクタ用ミラーアレイのように量産・高付加価値のもの,また製造・検査や医療などに使われる高付加価値のものなど多様である。日本ではミスターセンサと呼ばれて世界中から敬愛されていた豊田中央研究所の五十嵐伊勢美氏が,ピエゾ抵抗型の圧力センサを開発し,1980年代に自動車のエンジン制御に使用して排気ガス対策に貢献した。この他自動車では1990年代にエアバック用に加速度センサが,2000年頃から角速度センサ(ジャイロスコープ)などが安全走行用に使われている。米国ではテキサスインスツルメンツでLarry J. Hornbeck氏がLSI上に100万個程の可動ミラーを形成したDMD(Digital Micromirror Device)を1977年から20年程かけて開発した。これは1999年にStar Wars :Episode 1(George Lucas監督)の初上映で使われてから,フィルム映画に取って代わることになった。

開発がボトルネックになるMEMSでは試作設備が課題である。東北大学の「西澤潤一記念研究センター」では,移設した半導体工場をベースに寄付された設備などを活用し,1,800㎡のクリーンルームにある「試作コインランドリ」*2で,会社から派遣された人が自分で操作し,4インチや6インチ,一部8インチのウェハで試作開発ができるようにしている。2010年より戸津健太郎教授が中心になって運営し,ここで作られたデバイスを市販させてとの要望に応え,東北大学が文部科学省や経済産業省と交渉し,2013年より製品製作が認められた。2022年6月までのユーザーは364機関(企業300社),毎月延べ1,000件ほど使われ,年間予算3億円ほどで利用料により独立採算に近い形で運営されている。建物はモノづくりのベンチャー企業などにも利用され,また「プロトタイプラボ」*3が2022年4月から始まった。これは完成度の高いハードウェアを試作できるオープンな開発環境で,多くの部品などを整理しExcelでキーワード検索をできるようにするのが私の仕事である。

MEMS技術は様々な知識を必要とするため,いかにして多様な知識にアクセスするかが大きな課題である。シーズから書いた江刺正喜『はじめてのMEMS』森北出版(2011年),ニーズから書いた 江刺正喜,小野崇人『これからのMEMS – LSIとの融合 –』森北出版(2016年)のほか,入門書の江刺正喜『半導体微細加工技術 MEMSの最新テクノロジー』アナログウェア No.13(トランジスタ技術2020年11月号別冊付録)CQ出版社(2020年),専門書のM. Esashi ed. 3D and Circuit Integration of MEMS, Wiley VCH(2021年)を参照していただきたい。1,000冊ほどの文献ファイルをExcelでキーワード検索できるようにしたり,4部屋の展示室*4を整備し,サンプルなどを直接見ていただけるようにもしている。

MEMSで多様な製品を世に出すことは容易でない。しかし高付加価値で値崩れも少なく,技術者は新しい価値を生み出す夢を追求できる。例えば本格的な遠隔手術や無人工場なども夢ではなくなる。

*1 https://www.semi.org/jp/blogs/technology-trends/mems-business
*2 http://www.mu-sic.tohoku.ac.jp/coin/index.html
*3 https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2022/04/press20220420-01.html
*4 http://www.mu-sic.tohoku.ac.jp/nishizawa/

著者紹介:
1971年東北大学工学部電子工学科卒。1976年同大学院博士課程修了。同年より東北大学工学部助手,1981年助教授,1990年教授となり,現在名誉教授。半導体センサ,マイクロマシニングによる集積化システム, MEMSの研究に従事。 電子通信学会業績賞(1980年), SSDM Award(2001年),第3回産学官連携推進会議文部科学大臣賞(2004年), 紫綬褒章(2006年), IEEE Andrew S. Grove Award(2015年),IEEE Jun-ichi Nishizawa Medal(2016年), 応用物理学会業績賞(2022年) 他

この記事は、技術報告書「azbil Technical Review」の2023年04月に掲載されたものです。