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個別快適ニーズに対応するための空調ゾーン細分化技術

キーワード:セントラル空調,セル型空調システム,ネクスフォート DD,吹出口ダンパ,WP(ワークプレース)センサ,アシスト制御,連成シミュレーション

吹出口単位(6~12㎡単位)に細分化された空調制御を実現するため,吹出口ごとに風量を調整するダンパ機構を設けた吹出口ダンパとこれを制御するコントローラを開発した。また,空調単位の細分化による吹出口間の干渉を解決するための制御機能を実現した。これら開発した技術により,吹出口変風量システムであるセル型空調システム ネクスフォート™DDとして製品化したので,その特長を説明する。また,今回開発した制御技術をシミュレーションにより検証し,環境実験室にてPredicted Mean Vote(PMV:予測温冷感)を指標として効果を評価したので,その内容を報告する。

1.はじめに

ニューノーマル時代の社会的背景を反映して,オフィスのワークプレースへの要望は,全体を空調することから個別の要望(ニーズ)に合わせて空調するというように,より細分化へと進んでいる(図1)。

従来のVariable Air Volume(VAV)システムによるセントラル空調では100㎡程度を単位として行っている,風量設定や発停を含む空調制御を,計測制御技術とInformation and Communication Technology(ICT)を組み合わせることで,6~12㎡というより細分化された吹出口単位で実現した。実現した空調制御を,今回はセントラル空調システム用のセル型空調システム ネクスフォートDDとして製品化したので,その概要とシステム構成機器の特徴およびその導入効果を2章で説明する。

空調単位を細分化すると,吹出口間の干渉という新たな課題が発生する。この課題を解決するために開発したアシスト制御と,従来の機能を改良した新しいグループ機能を3章で,制御技術の確認時に採用したシミュレーション技術,および環境実験室で評価した結果を4章で報告する。

図1 細分化ニーズの概念

2.システム構成

ネクスフォートDDのシステム構成を示す(図2)。

(1)吹出口ダンパ
コントローラとBluetooth®Low Energy(BLE)送受信機を備えた,吸気の吹出口に組付ける制御ダンパボックス

(2)WP(ワークプレース)センサ
机上や壁面に設置し,温度,湿度,照度の計測値をBLE通信で吹出口ダンパに送信

(3)スマートフォンによる空調操作
ワーカーのスマートフォンにインストールし,空調のON/OFFや温度設定を行う

(4)空調コントローラ
BAシステムのリモートとして吹出口ダンパと空調機を統合制御

また,主な機器の特長を以下に記述する。

2.1 吹出口ダン

施工性に配慮し,給気上流側の直管部を不要とするために,風速センサを使わない制御方式を採用している。最も大型のΦ200タイプで重量5kgと,軽量化を実現するとともに,ボックス内部にグラスウールを内貼して,現場における保温と騒音の対策を不要としている。

Bluetooth® Low Energy(BLE)送受信機を内蔵し,温度センサと操作端末をワイヤレス化し,調整時において脚立を使った天井裏へのアクセスを不要としている。

2.2 WP(ワークプレース)センサ

風量制御用室内温度のほか,湿度と照度の計測値をBLE通信で出力する,ワイヤレスセンサであり,配線工事が不要なので,レイアウトに合わせて容易に移設,増設できる。吹出口ダンパが最寄りのWPセンサを自動選択するため,アドレス設定など紐づけのエンジニアリング作業が不要である。ソーラーセルによる発電により内部蓄電池(交換不要)に蓄電された電力により動作する。内蔵する照度センサで,送信周期を明るい時は2秒発信,暗い時は60秒発信に自動的に切り替え,応答速度と低電力消費を高い次元で両立させている。

2.3 スマートフォンアプリ

ネクスフォートDDシステムで機器の操作を行うためのアプリケーションである。このアプリをオフィスワーカーの手持ちのスマートフォンにインストールしてもらうことで,吹出口ダンパの操作を感覚的に行える機能を提供する。吹出口ダンパ操作時には,内蔵のLEDを点滅・点灯させることで応答確認ができるなど,ユーザビリティにも配慮している。

2.4 空調コントローラ

細分化された空調制御を実現するための機器である。ネクスフォートDDの吹出口ダンパを管理・制御するために,3章でその詳細を述べる新しい技術を採用している。

さらに,従来の空調制御である空調機ファン変風量制御と給気温度ロードリセット(室内負荷に合わせて給気温度を適切に自動で変更する)制御の最適化も行っている。従来の汎用Direct Digital Controller(DDC)同様,BAシステムと連携しながら多様な制御と監視も実現している。

図2 ネクスフォートDDのシステム構成

2.5 ネクスフォートDDの導入効果

以下に,ネクスフォートDDを導入した場合の効果について記述する(1)

2.5.1 オフィスワーカーのウエルネス向上

空調ゾーンの細分化が熱負荷の偏在や個室の設置に伴う温冷感の問題を解決して,オフィスワーカーのウエルネスの向上を推進する。 ESG投資原則に沿った「環境性能・ウエルネス(快適性・健康)に優れた不動産」評価のための建築物の環境性能評価ツールポイント付与に貢献する。

2.5.2 オフィス運用のフレキシビリティ向上

吹出口ダンパの組合せを「発停」「温度設定」「温度計測」の各グループにまとめて管理することにより,テナント入退去やレイアウト変更に合わせて空調ゾーンを容易に組替えることができる。

2.5.3 温室効果ガス排出量の削減

適正風量・温度設定値緩和・空調停止の細分化が,空調設備の省エネルギーに貢献する。また,レイアウト変更の際に発生する空調工事を削減するため, 「作る」「捨てる」を減らすことにつながり,温室効果ガスの排出量削減にも寄与する。

3.新しい制御,管理機能

空調単位を細分化すると空調単位である吹出口間の干渉という新たな課題が発生する。その課題を解決するための,新しい制御を以下で説明する。また,本システムでは,汎用VAV空調システムに対して改良した管理機能を実現したので,その管理機能についても以下で説明する。

3.1 空調ゾーンの細分化に伴う吹出口ダンパ間の干渉を抑制するアシスト制御(2)

空調ゾーンが細分化されると,隣り合った吹出口ダンパ間で給気が干渉し合い,吹出口ダンパの室温偏差が収束しないことがある。 ネクスフォートDDではこれを解決するためにアシスト制御を開発し,近隣の吹出口ダンパに対して設定値を増減するように連携させることで,各吹出口ダンパの室温偏差を収束させた。以下にその詳細を述べる。

空調機系統に存在するすべての吹出口ダンパの間で室温設定:SPsdfと室温:PVの偏差が極端に大きいものを減らすため,さらにそれぞれの吹出口ダンパにおいてPVのSPsdfへの追従性を上げるために,吹出口ダンパがそれぞれ単体で温度制御をしながら,過不足がある場合には周辺の吹出口ダンパと給気を援助(アシスト)し合う。

アシスト制御は,空調コントローラが各吹出口ダンパのSPsdfとPVの偏差に定数(アシストゲイン)を乗じて,周囲の吹出口ダンパの偏差に重畳し,上下限処理を加えて実現される。アシスト制御の概念を示す(図3)。

図3 アシスト制御の概念

なお,停止中の吹出口ダンパについては,温度制御の対象外であり,過剰なアシストを減らすため,周囲吹出口ダンパ間におけるアシストはゼロとする。また,専用のタブレット調整ツールで間仕切り設定した場合には,間仕切りにより干渉がなくなり,アシストが不要となるため,隣接する吹出口ダンパ間のアシストはゼロとする。

3.2 吹出口ダンパグループ管理機能

ネクスフォートDDではレイアウトに合わせた吹出口ダンパの管理を容易に設定できるよう,これまでの汎用VAVコントローラのグループ機能を拡張し,吹出口ダンパを「発停」「温度設定」「温度計測」のそれぞれの単位でまとめられるようにした。

3.2.1 「発停」グループ

吹出口ダンパの発停を,後述する温度設定グループよりも細かい単位で行うためのグループ設定である。これにより,より小さい範囲で吹出口ダンパを発停することができ,人が不在である場所の吹出口ダンパを停止することができ,省エネ性を高めることも可能となっている。

3.2.2 「温度設定」グループ

「温度設定」グループとは,管理する温度設定値SPを共有するグループであり,組織ごとや配置の方向ごとなど,負荷傾向が似たエリアにある複数の吹出口ダンパをグループとしてまとめることで,温度設定管理の効率向上ができる(図4)。

図4 温度設定グループの概念

3.2.3 「温度計測」グループ

「温度計測」グループは,WPセンサの温度を共有する単位を構成するグループである。 このグループ内の吹出口ダンパは,それぞれの周囲に設置されたWPセンサの測定温度を共有する。 そのため,ある1つの吹出口ダンパが,ワイヤレスであるWPセンサからの温度計測値を受信できなくても,温度計測値の欠落を防ぐことが可能である。

4.制御の検証

開発した制御に関して,計算機によるシミュレーションと,環境実験室での測定で検証したので報告する。

4.1 シミュレーションによる制御の検証

制御機能開発時には,ロジックやパラメータを決定するために制御シミュレーションを用い,制御性をトライアンドエラーで確認した。

なお,検討期間を短縮するため,連成解析シミュレーションを利用した。連成解析とは,2つ以上の物理現象が相互に及ぼす影響を考慮した解析のことを指し,ここでは,室内気流を分布系(メッシュ)として解析するComputational Fluid Dynamics(CFD)と各部の温度や風量といったプロセス量や制御ロジックを微分方程式として解析する制御シミュレーションを連成した(図5)。
なお,シミュレーション環境を実動作に近づけるために,以下2点が再現できていることを確認した。

(1)汎用吹出口の等速線図の再現
CFDの妥当性を検証するために,市販の吹出口の等速線図を再現させ,ほぼ同等の線図となっていることを確認した(図5)。

(2)部屋における複数吹出口設置時の制御の再現
3章で述べている新しい制御機能に関して,意図する機能が実現できていることを,吹出口の気流ベクトルと高さ110㎝の室温等高線図の結果で確認した(図5)。

図5 連成解析シミュレーションの概念と実施例

4.2 環境実験室における評価

熱負荷を部分的に上げて偏在させた場合に,汎用VAV空調システムと比較をし,ネクスフォートDDにどの程度の快適性の差が出るかを,温熱環境を評価する指標の1つであるPMV注1の値(-3から+3の範囲の数字で示され,0なら暑さや寒さを感じない熱的に快適な状態を意味する)で検証したので報告する。 なお,評価の際の計測は,アズビル社内の設備である環境実験室(延べ床面積約94㎡)で行った。
以下に詳細を述べる。

注1  PMV(予測温冷感)は温熱環境を評価する指標の1つで,空気の温度や相対湿度,気流,放射温度という物理的な要素に,人側の要素である代謝量と着衣量を加えた6要素を基に算出する-3から3の値であり,0が熱的に最適であることを示している。

4.2.1 計測設備の構成(図6)

(1)VAV空調システム
・VAV:1台

(2)ネクスフォートDD
・吹出口ダンパ:8台

(3)熱負荷
・2台:500Wと1,000Wを切替
・2台:500W固定

(4)温度計測
・熱電対8本(高さ110cmに設置)

図6 社内環境試験室の構成

4.2.2 評価条件および対象

(1)評価条件
夏場のオフィスでのデスクワークを想定し,熱負荷を部分的に500Wから1,000Wに増加させ,居住者近傍のPMVのばらつきを比較する。なお,設定温度はPMV≒0となる24℃とした。評価要素は以下のとおりである。

(2)PMVの要素
室内温度
放射温度
熱電対計測値
相対湿度
WPセンサ計測値
相対気流:0.2m/s(固定値)
着衣量 :0.7(固定値)
活動量 :1.1(固定値)

4.2.3 結果

熱負荷を切り替えたあとの各吹出口でのPMV値の変化は以下のようになった(図7)。
汎用VAV空調システムの場合,熱負荷UP後90分間の吹出口でのPMV時間平均値で0.60となった吹出口があった。一方,ネクスフォートDDの場合は,各吹出口のPMV時間平均値は0.17~-0.25となり,汎用VAV空調システムに比較してPMVが理想値である0により近くなり,ネクスフォートDDにより温熱環境が改善されたことが確認できた(図7)。

図7 熱負荷切替時のPMV

5.おわりに

本稿では,ネクスフォートDDの概要,およびシステム構成機器の特長を述べるとともに,課題解決のための制御技術,改良したグループ機能,機能確認のためのシミュレーション技術を説明し,実験室レベルでの改善効果を報告した。 今後は,ネクスフォートDDの実納入現場におけるオフィスワーカーの温冷感と知的生産性の評価を進めていく予定である。

<参考文献>

(1) 水高,吉田,大曲,森田,斎数,伊藤,小谷:吹出口変風量システムによるオフィスワーカーのウエルネス向上の推進(第1報)システム概要と実験室における環境実験室における評価,空気調和・衛生工学会 2022/09/14大会報告書,2022,pp.1-2

(2) 水高,吉田,大曲,森田,斎数,伊藤,小谷:吹出口変風量システムによるオフィスワーカーのウエルネス向上の推進(第1報)システム概要と環境実験室における評価,空気調和・衛生工学会2022/09/14大会報告書, 2022, p.3

<商標>

Bluetooth®はBluetooth SIG, Inc.の商標または登録商標です。
BACnet はASHRAEの商標です。
savic-net,ネクスフォートはアズビル株式会社の商標です。

<著者所属>
羽場 照芳 アズビル株式会社 ビルシステムカンパニー開発本部開発2部
三枝 隆晴 アズビル株式会社 ビルシステムカンパニー開発本部開発2部
井波 太郎 アズビル株式会社 ビルシステムカンパニー開発本部開発4部
水高 淳 アズビル株式会社 ビルシステムカンパニーマーケティング本部プロダクトマーケティング部

この記事は、技術報告書「azbil Technical Review」の2023年04月に掲載されたものです。