HOME > アズビルについて > 会社PR > 会社紹介資料 > azbil Technical Review > 2024 > 新技術を「試し」「議論し」「育てる」ための新実験棟

新技術を「試し」「議論し」「育てる」ための新実験棟

キーワード:新棟建設, 2管式配管設備, 冷暖フリーVAV制御, 太陽熱利用, 蓄熱, 温冷感空調, 照明空調連携, 赤外線アレイセンサ, 吹出口単位の個別空調, AR

2022年9月にアズビル藤沢テクノセンター内に竣工した新実験棟(第103建物)は,まだ完成していないアズビル最新技術を多く実装した建物である。そしてこれら技術は,この建物で運用しながら自ら体験し,見学に来ていただいたお客様と議論をしながら改良を重ねて,そしてその成果を発信していくことを目指している。本稿では,本建物で実施している特徴的な技術(スペース有効利用とコスト削減技術・省エネルギー技術・利便性向上技術など)を紹介する。

1.はじめに

アズビルでは,研究開発の拠点として,神奈川県藤沢市の藤沢テクノセンターに研究施設を集約している。2022年9月には,次の成長に向けた技術開発環境の整備・強化を目的に建設を進めていた新しい実験棟(第103建物(1))が完成した(図1)

本建物は,実験室,会議室,食堂のほか,研究・開発の生産性・創造性を発揮するワークスペースも整備した建物である。また,建物そのものが,新しい技術を試す実験装置の役割を持っており,開発した技術はタイムリーにお客様に紹介,議論しながら,次の開発につなげていくことを目指している。

本建物に実装した技術は,本建物で初めて導入した技術など,試行中のものも多くあるが,それら技術は誰にも真似できない技術ではなく,本建物での試行後は,誰でも使うことができるものに仕上げていく予定である。本稿では,その中でも特徴的な技術を紹介する。

図1 第103建物ソリューションイメージ

2.スペース有効利用とコスト低減技術

本建物の空調設備は,快適な室内環境を小規模な設備で実現するため,様々な工夫がされている。ここではその技術を紹介する。

2.1 2管式配管設備と低温送水設計

建物の内周部(インテリアゾーン)では,冬期でも冷風を給気して室内環境を維持することも多く,冷水専用配管と温水専用配管で熱源設備と空調機をつなぐ4管式の配管設備が採用されることも多い。しかし夏期以外の季節は,冷涼な外気と気化式加湿器の加湿冷却効果があれば,冷水がなくても空調機で適切な冷風を生成することができる(図2)。そこで本建物では,冬期・中間期は冷涼な外気の活用を前提に,冷水と温水を季節で切り替える2管式の配管設備を採用し,コストを低減した(図3)。

また,本建物は熱源効率の高い7℃送水を設計基準とし,ピーク時には5℃送水とし冷却能力を向上させる計画としている。この計画により,通常空調機に持たせる余裕率・安全率等の各種係数を排除でき,配管径を小さくし,空調機コイル列数も削減した。冷凍機の出口温度を下げると熱源効率は低下するが,5℃が必要となるピークの発生時間はわずかであり,ほかの時間帯は出口温度を緩和する制御で熱源効率を向上させている。

図2 外気を用いたコイルでの冷却なしの冷房

図3 2管式配管設備によるダウンサイジング

2.2 冷暖フリーVAV制御

第103建物の3Fは,実験室と会議室が混在するフロアとなっており,それぞれの部屋ごとに空調機を設置すると,空調機台数が増え,その分のコストと設置スペースが必要となる。そこで,異なる負荷の部屋があっても同じ空調機で対応ができる制御(冷暖フリーVAV制御)を本建物に実装し,空調機設置台数を少なく抑えた(図4)。

図4 3Fの各部屋と空調ゾーンの関係

VAV空調方式は,各ゾーンに設置された温度センサの計測値と温度設定の差分により,VAVユニットの風量を調節する一般的な空調方式である。しかしながら,各ゾーンへの給気温度は等しいため,同一空調機系統内で,冷風が必要なゾーンと温風が必要なゾーンが混在する場合は,どちらかの要求にしか対応できないという課題があった。そこで冷風と温風が同時に必要な場合は,冷風と温風を交互に切り替えて(15~20分ごと),冷風を給気しているときは温風要求のVAVの風量を遮断し,温風を給気しているときは冷風要求のVAVの風量を遮断するようにした(図5)。このように制御すれば,各ゾーンでは,冷風,または,温風の間欠運転と同等となり,高負荷なゾーンがなければ,それぞれの異なる負荷を処理できる。温風が必要な時期は,外気温湿度が低く,換気に必要な外気取込みと気化式加湿器の加湿冷却効果のため,冷風給気時も空調機で加熱している場合が多い。そのため,冷風と温風を交互に切り替えても,空調機にとっては加熱を弱めるか強めるかの違いであり,エネルギーのロスにはならないのも特徴である。

図5 冷暖フリーVAV制御

2.3 異なるフロアの空調機統合

一般的には,空調機を各階の機械室に設置することが多いが,本建物ではバルコニーや屋上に空調機を設置し,室内は1,500m²弱の防火区画のない整形した部屋を確保している。そして屋上に設置している空調機では,フロアという単位にこだわらず,4階から6階の近い場所に給気する方法で,空調機を統合し,空調機設置台数を削減している。また各空調機は,他の空調機コントローラから各ゾーンへの給気情報を共有することで,各階のエアバランスを適切に制御している(図6)。

図6 屋外空調機による制御

3.省エネルギー技術

本建物には多くの省エネルギー技術を採用した。ここでは,特徴的な技術を紹介する。

3.1 太陽熱と蓄熱槽利用

本建物の熱源システムは,太陽熱集熱器と縦型水蓄熱槽を組み合わせているのが特徴である(図7)。

太陽熱で生成した高温水は,空調と給湯に利用しているが,従来の太陽熱利用システムでは,建物を使用していないとき高温水の利用先がなく,生成した熱を大気中に捨てるしかなかった。しかし,本システムは,建物を使用していない休日なども生成した冷水や温水を蓄熱槽に蓄熱することで,太陽熱を無駄なく利用している。

蓄熱槽の活用方法では,従来の夜間蓄熱・昼間放熱のほか,昼間に空冷チラーで蓄熱をしながら,蓄熱槽放熱熱交換器で同時に放熱するモードも用意した。このモードでは空調負荷に合わせた冷水供給は放熱熱交換器の役割となるため,空冷チラーは空調負荷に左右されることなく,高効率な運転点での稼働を継続することができる。

図7 太陽熱と蓄熱槽を利用した熱源システム

3.2 熱源完全停止制御

最近の建物は,断熱性能の向上により,外気温度が低くても室内の熱が外になかなか出ていかず,中間期や冬期も冷風が必要となる建物も多い。一方,図2で示したように,空調機では,中間期や冬期,冷涼な外気と還気の割合を制御することで,コイルで冷却や加熱をすることなく適切な冷風を生成できる時期が多くある。

このコイルでの冷却を必要としない空調制御の効果を最大限発揮するには,各空調機の状況を適切に把握し,熱源を搬送ポンプも含めて完全停止する自動制御が必要となる。現在の熱源台数制御は,負荷熱量,または,負荷流量で制御することが一般的であるが,搬送ポンプまで停止すると,負荷熱量・負荷流量の計測ができず,熱源が必要かどうか判断できない。そこで,熱源コントローラは,各空調機コントローラから,バルブ開度や室温など,制御に必要な情報を通信で取得し,負荷側で冷却や加熱が必要かどうかを判断する制御を構築した(図8)。この制御により,熱源を完全停止することも可能となり,本建物では,外気冷房が主となる時期は,熱源システムの運転時間を25%削減できている。

図8 バルブ開度を用いた熱源群自動発停制御

3.3 温冷感申告と冷暖2設定制御

人が寒いと感じる温度と,暑いと感じる温度には幅があり,その範囲に入っていれば,寒くもなく,暑くもないという温度幅が存在する。しかし従来の空調は,この温度幅をあまり意識せずに設定温度という「点」を目指して制御してきた。そして,その点を目指す制御が,人の快適性を悪化させ,さらにエネルギーも多く消費する場合もあった。例えば,冬期に21℃(ウォームビズ設定)に設定していたとする。この設定は,設定した人からすると,「21℃までは暖めてほしい」という要望であり,「21℃にしてほしい」という意味ではない。つまり,設定した人からすると,温度環境が24℃だった場合は,より暖かくて良い環境なのである。しかし,今までの空調制御では,24℃の暖かくて良い環境を,エネルギーを使って,21℃まで冷やそうとしてしまうこともあった。

そこで本建物では,「ここまでは暖めてほしい」という暖房設定と,「ここまでは冷やしてほしい」という冷房設定を別々に持っている冷暖2設定方式を採用した(図9)。この方式であれば,室温が冷房設定と暖房設定の間であるときは,積極的に冷暖房する必要がないため,省エネルギーとなる。そして在室者は,暑さ寒さを感じたとき,業務用PC,もしくはスマートフォンで「暑い」「寒い」を申告し,その申告により,システムが冷房設定と暖房設定を即時適切に変更する温冷感空調システムと組み合わせた(図10)。従来,冷暖2設定方式は,設定値が2つあるため,冷房設定と暖房設定のどちらを変更すれば良いかがわかりにくいシステムであったが,温冷感空調システムと組み合わせることで,その課題を解決できた。

図9 冷暖2設定方式

図10 温冷感空調システム

4.利便性を向上させる技術

本建物は省エネルギーだけでなく,在室者の快適性や利便性を向上させ,より良い空間づくりに挑戦している。ここではその技術を紹介する。

4.1 ネクスフォートDD

本建物1Fには,カフェ型のワークスペースを設置し(図11),集中して思考する場所と気分転換できる場所をバランスよく配置している。空調制御でも,在室者の快適性向上を目的に,従来のVAV制御のゾーンよりも細かい単位で制御が可能なセル型空調システム ネクスフォート™DD(Damper on the Diffuser)を導入した(図12)。

本システムは,吹出口上部に設置する吹出口ダンパ,空調コントローラ,WP(ワークプレース)センサ,スマートフォン操作アプリで構成されている。WPセンサは執務者のデスク上に設置して温度・湿度・照度を計測できるセンサで,Bluetooth® Low Energy(BLE)通信を用いて吹出口ダンパに計測した情報を送信する。吹出口ダンパは,内蔵するBLE通信の受信機で最寄りのセンサを自動検知し,計測値を取得,吹出口の風量を制御する。在室者は,スマートフォン操作アプリで,最寄りの吹出口ダンパとBLE通信で接続し,自席にいながら,シンプルな操作手順で,空調のON/OFFや温度設定ができる。このシステムにより,VAV空調よりも細かいゾーンで制御し,負荷の偏在に対応でき,周囲よりも少し涼しい場所や暖かい場所を作り出すこともできる。吹出口個々で温度制御をしているので,レイアウト変更やテナント入退去時の計装工事がほぼ発生しないのも大きな特徴である。

図11 カフェ型ワークスペースとネクスフォートDD

図12 ネクスフォートDDシステム

4.2 赤外線アレイセンサシステム

本建物は,赤外線アレイセンサシステムを用いて在室者の検知をしている。赤外線アレイセンサは,物体から放出する微小な赤外線の量から物体の表面温度を検出できるセンサで,センサ内部に赤外線検出素子を複数個配列し,各素子が違う箇所の表面温度を隙間なくとらえることで検出対象範囲の表面温度分布を把握することができる。人は周囲と温度差がある場合が多く,表面温度分布を解析すれば在室者を検知することができ,検知エリア内に人が複数いた場合でも人数やその座標も特定できる。

本建物ではこのシステムの特性を活かし,人のいないエリアを特定し,空調設定値や照明照度の緩和のほか,在室者の人数に応じた換気量制御も実施している。照明の制御では,人のいる箇所だけでなく,人のいる周辺エリア(隣接在エリア)も区別して,ある程度の照度を確保することで,周りが暗いことで感じる在室者の不快感を軽減する制御も実施している(図13)。

また,カフェ型ワークスペースの各席の使用状況(図14)や,食堂の混雑状況(配膳の行列状況)(図15)を検知し,その状況を社員は自身の業務用PCで確認できるようにした。このシステムにより,社員は,今,自席から移動するべきかの判断に活用することができる。またこれらの情報は,新しいワークスペースの使われ方の分析にも,今後活用していく予定である。

図13 照明の隣接在制御

図14 席の使用状況の可視化画面

図15 食堂の混み具合(行列)検知の画面

4.3 照明と空調連動制御

本建物2Fの食堂は,食事の時間以外はワークスペースとして活用している。そして,このスペースは,温度設定の高い場所と,低い場所をあらかじめ作っておき,温度設定と照明の色温度を連携する制御を実施している(図16)。

人は,それぞれ好む温熱環境に違いがあり,ここでは空調が個々の好みに合わせるのではなく,人自身が温熱環境を目で見て把握し,自分の好む場所を選択してもらうようにしている。また,人は,温熱環境が同じでも,照明が暖色系の色であれば暖かく,寒色系の色であれば涼しく感じる効果もあり,その相乗効果で,より良い環境を実現している。

図16 照明と空調連動制御

5.将来技術の試行

本建物では,通常の業務用ビルではまだ見ることのできない技術も実装し,お客様との対話を重ねながら今後の活用方法の検討もしている。ここでは,その取組み事例を紹介する。

5.1 AR技術を用いた温度や風量の見える化

AR(Augmented Reality)とは拡張現実のことで,タブレットのカメラで読み取った画像に,デジタル情報を重ね合わせて表示する技術である。第103建物では,この技術を用いて,普段,目で見ることが困難な「温度」や「風量」の見える化に挑戦している。この見える化は,ネクスフォートDDの各吹出口の風量と温度,また縦型蓄熱槽内の温度分布を対象とした。

見える化のための情報は,タブレットの専用アプリケーションからインターネット経由でアズビルのクラウドシステムにアクセスし,中央監視システムから見える化に必要な現在情報を取得する(図17)。ユーザーはタブレットで特定場所に用意されたARマーカーを読み込むことで,カメラで読み取った画像と取得した情報を重ね合わせて見ることができる(図18・図19)。そして,これらの画像をお客様に紹介しながら,今後の活用方法を議論している。

図17 ARによる見える化 システム構成

図18 ARによる吹出口風量と温度の可視化

図19 ARによる蓄熱槽温度の可視化

5.2 水に触れることができるワークプレイス

自然の風など屋外の心地よさを感じることができるテラス席には,足湯の機能もあり,今までにないワークプレイスとなっている。水の温度は制御可能であり,夏場は足水とすることで涼しさを感じることもできる。また照明の色も自由に変えることができ,例えば,夏は寒色系の色でひんやり感を,冬は暖色系の色でぽかぽか感を演出するようなこともできる。今後,このテラス席の効果も検証していきたいと考えている。

図20 屋外のテラス席での打合せ風景

6.エネルギー消費量

現在の建築物省エネ法(正式名称:建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律)では,基準値よりもエネルギー消費量の多い建築物は建設することができないため,建築物の確認申請時にエネルギー消費量見込みを計算し,提出することになっている。また,その計算値が基準値の50%以下となると,ZEB Readyの認証を受けることが可能となる。

本建物では確認申請時のエネルギー消費量は基準値の69%となっており,ZEB Readyの認証には届かない結果となった。しかし,実際の1年間のエネルギー消費量を評価すると,基準値の30%のエネルギー消費量となり,省エネルギー性能の高い結果となった(図21)。

これは,確認申請時に評価できる省エネルギー項目でなく,評価できないが効果の大きい施策を重視し,計画を立てた結果と考えられる。近年,ZEB認証のため,計算値を重視される傾向もあるが,実際のエネルギー消費に大きく寄与する施策を,本建物から多く発信していければと考えている。

図21 エネルギー消費の評価

7.おわりに

本稿では,新棟の特徴的なソリューションを中心に紹介したが,本建物では他にも多くの技術を導入している(表1)。また,これからも新しいソリューションを実装していく予定である。今後,中央監視装置に蓄積している運用データも活用し,今回紹介した技術含めて,分析・評価し,PDCAを廻して,価値ある技術を多く生み出していきたい。

表1 第103建物に導入したその他技術

導入技術 技術概要
VWT制御 熱源の出口温度設定を可変させて,熱源効率を向上
VWV制御 空調機のバルブ開度情報と連携して,搬送ポンプの圧力設定を下げて,搬送動力を削減
能力不足防止制御 猛暑などで建物設備能力の限界を超えそうなことを事前に把握し,事前予冷などで能力不足を回避
ディマンドリスポンス 電力削減の指令時に,電力使用機器からガス使用機器に切り替え電力消費を削減
空気式放射空調 放射パネルも用いた気流感の少ない空調制御を実現し,快適性を向上
厨房排気量制御 赤外線アレイセンサでコンロやフライヤーの発熱を検知することで,厨房の使用状況を把握し,排気量を制御し省エネルギーを実現
BIM活用 BIMと中央監視の連携を検討
照明色温度選択 好みの色温度を選択できる会議室で,知的生産性の向上を目指す
ダンボールダクト ダンボールの素材のダクトを採用しCO2排出量削減に貢献

<参考文献>

(1) 小澤諭,明本学:アズビル藤沢テクノセンター第103建物, BE建築設備2023年5月号, pp. 10- 15,一般社団法人建築設備総合協会

<商標>

ネクスフォートは,アズビル株式会社の商標です。

BACnetは,ASHRAEの商標です。

Bluetooth®はBluetooth SIG,Inc.の商標です。

<著者所属>
太宰 龍太 アズビル株式会社 ビルシステムカンパニー マーケティング本部 IBシステム部

この記事は、技術報告書「azbil Technical Review」の2024年04月に掲載されたものです。