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DR・VPPのためのリソース割当計画の自動作成

多彩な分散型エネルギーリソースの有効活用を支えるAI技術

キーワード:ディマンドリスポンス,バーチャルパワープラント

再生可能エネルギーの導入量が拡大する中,発電量と消費電力量のバランスを維持し電力系統を安定化させることが求められている。このバランスを調整する電力の供給にDR・VPPの活用が期待されているが,需要家側エネルギーリソースから生成する調整力は,規模が小さく再現性が低いリソースも多く,有効に活用するためには工夫が必要である。本稿では,需要家側エネルギーリソースの調整力の集約に最適化手法を適用し,再現性が高いリソースから優先的に1つに束ね,有効活用できる調整力を生成するリソース割当計画の自動作成技術と,建物設備をエネルギーリソースとするそのシミュレーション検証結果について報告する。

1.はじめに

2050年カーボンニュートラル社会の実現に向け,再生可能エネルギーの主力電源化を目指し,日本では太陽光発電や風力発電の導入量が拡大している。これら一部の再生可能エネルギーは季節や天候により発電量が大きく左右されるので,発電量と消費電力量のバランスを維持し電力系統を安定化させるために十分な量の「調整力」を供給できることが重要になる。従来は電力会社が保有する大規模な火力発電所がこの調整力の主力となっていたが,CO2排出量削減が叫ばれる中その代替として,分散型エネルギーリソースを適切に制御することで発電所と同等の機能を提供するVPP(Virtual Power Plant:バーチャルパワープラント)(1)の活用が期待されている。

VPPの中でも需要家側エネルギーリソース(発電設備,蓄電設備,需要設備)を制御することで電力需要パターンを変化させ調整力として活用するDR(Demand Response:ディマンドリスポンス)(1)への期待は高い。DRは例えば既存の需要設備を,系統電力の不足時には使用を控え,余剰時には使用を増やすよう運用することで,通常運用時の電力需要パターンからの変化分を生み出し調整力とする。そのため発電機や蓄電池を保有していない需要家であっても,新たな設備を導入することなく設備投資コストを抑えてVPPを開始できるというメリットがある。しかし,需要家側エネルギーリソースの個々の設備は規模が小さく,運転状態により得られる調整力の再現性が低い場合が多いため,これらのエネルギーリソースを有効に活用するためには,そのままでは難しく工夫が必要である。そこで大きな規模を有しかつ再現性の高い調整力として利用するため,複数のエネルギーリソースを束ねて(アグリゲートして)適切に制御することが必須となる。このようにエネルギーリソースをアグリゲートする事業者をアグリゲーターと呼ぶ。

アズビルはVPPのアグリゲーターとして,需要家側エネルギーリソースを一括管理し,電力会社等からのDR要請をトリガーに調整力を確保するDRサービスを提供している(2)。本サービスシステムは多くのエネルギーリソースを容易に扱えるよう自動化が進んでいる。本稿ではその自動化をさらに深化するために不可欠な機能として開発を進めている,個々のエネルギーリソースのDR発動有無を決める「リソース割当計画」をAI(Artificial Intelligence)により自動作成する技術について,建物設備をエネルギーリソースとした例をもとに報告する。

2.VPP事業を支えるAutoDR

アズビルはビルディングオートメーション事業において,主に建物設備をトータルに監視制御するBAS(Building Automation System)をお客様に導入してきた。さらに時代のニーズに合わせ,BASは建物のエネルギーマネジメントを行うBEMS(Building Energy Management System)としての役割を併せもつよう進化した。近年,通信技術が発達して大容量通信が一般的になると,あらゆるものがインターネットに繋がり,収集したデータをクラウド上へ蓄積し,それらのデータを利用した詳細な分析が実施できるようになった。BEMSにおいても同様,建物のあらゆる場所にセンサがあり,BEMSにより常時データを収集,さらにインターネットに接続してクラウド上でのデータ蓄積・詳細な分析といったソリューションも展開されている。また,その通信回線はデータ収集だけではなく,クラウドからBEMSを操作する「逆方向」の使い方も可能であるため,BEMSが導入されアズビルのクラウドと繋がっていれば,どのような建物であっても安全に遠隔制御が可能となる。この一連のシステムは遠隔からDRを実行する際にも同様に機能し,この仕組みを活用してVPPを実現するために構築されたのがアズビルのAutoDR™システムである。このシステムは複数のシステムの集合体となっている。システム構成を図1に示す。

ここで図1にあるBOSSセンターは,アズビルが1980年代から提供している総合ビル管理サービスBOSS-24™というビルの遠隔監視・遠隔制御ソリューションを担う監視センターであり,関東と関西の2箇所に設置され,24時間/365日専属オペレータが常駐している。BOSSセンターでは,監視や計測計量といった情報収集のみならず,機器の発停から設定値変更,制御モード変更など,あたかも現地で監視・操作を実施しているかのようなサービスを全国470以上の施設から請け負っている。

また,同じく図1にあるアズビルアグリゲーションサーバーは,クラウド上で運用されており,電力会社等からDRの発動依頼を受け取ることができる。依頼を受けるとDR要請された調整力を確保するために必要なエネルギーリソースを選択して割り当て,選ばれた各リソースに対して運転指示を出力,さらにDR終了後には電力データを収集して実際に得られた調整力を算出する。これら一連の動作をすべて自動で実行する。

実際にDRを実行するには,DRのための国際標準通信プロトコルであるOpenADR(3)への対応も必要となる。OpenADRでは,DR指令発動側に「Virtual Top Node(VTN)」,DR指令受信側に「Virtual End Node(VEN)」とそれぞれサーバーを用意して通信する。AutoDRはOpenADR 2.0b準拠の認証を取得(4)しており,電力会社等が準備したOpenADRに対応したVTNに接続してDR発動依頼を受け取ることができる。

既に多くの建物にBEMSやBOSS-24が導入されており,国内全域にセキュリティを担保したアズビルの通信網が整備されていることと併せ,多くの建物がクラウド環境にあるアズビルアグリゲーションサーバーと接続して迅速にVPP事業へ参入することが可能である。

図1 AutoDRシステム構成

3.リソース割当計画の自動作成機能

3.1 課題

需要家側エネルギーリソースを利用したDRはその活用が期待される一方で,出力制御が容易な発電所の発電機とは異なり,その日の気象条件や対象設備の運転状態,その他の要因で得られる調整力が左右されやすい特性を持つため取扱いが難しい。またDR対応が可能な季節,時間帯など,リソースごとに特有の運用条件が存在するため,それらすべての条件を考慮した上でDRを実施しなければならない。

さらには安定した調整力の確保のために,複数のエネルギーリソースの中から同時に制御する対象リソースの割当てを考慮する必要がある。リソースの割当てについては,各リソースの制約条件をもとにどの時間帯でどの程度の調整力が得られるかの組み合わせ問題となり, 1件当たりで得られる調整力が少ない建物設備をエネルギーリソースとするDR・VPPにおいては必要なリソースの数が必然的に多くなるため,組み合わせパターンもリソース数の増加に応じて膨大になる(5)

これらの課題を解決するためにアズビルが独自開発した,AIを活用したDR対応リソースの最適割当機能(以下, AIリソース割当機能)のイメージを図2に示す。AIリソース割当機能はリソースごとに固有の制約や得られる調整力のパラメータを入力することにより,DRを実施するための最適なリソースの組み合わせとなる「リソース割当計画」を自動決定することができる。

図2 AIリソース割当機能のイメージ

3.2 提案手法

AIリソース割当機能では,DR可能な設備群のリソース割当計画を,混合整数線形計画法で作成するアプローチを採る(6)。混合整数線形計画法は設備の最適起動・停止問題によく用いられる最適化法として知られているが,DRの発動・非発動を取り扱うリソース割当計画においても有効に機能する。

次に,リソース割当計画最適化問題をどのように混合整数線形計画問題として定式化するかを示す。ここで,DR発動時の設備の消費電力変化量がそれぞれ独立した正規分布に従うと仮定し,その分布の分散の大小によって消費電力変化量の再現性の高低を表現することを考える。この仮定をおくと,目標とする消費電力変化量(以下,発電量) の残差を小さくするためには,発電量の平均が目標発電量と等しくなり,かつなるべく分散が小さくなるようなリソース割当計画であれば良い。そこで,最適化問題の目的関数を次のように定義する。なお,目標とする消費電力変化量(目標発電量)とは,調整力の買い手である送配電事業者等から事前に通告される目標消費電力量と,DR可能設備群すべてについてDRを発動しない場合の予測消費電力量との差である。

\( \underset{\xi_r, p_r}{\rm minimize} \ {\Sigma}_{r \in R} v(r) \cdot {p}_r\)
式(1)

なお,\(ξ_r\)はエネルギーリソース\(r\)の発動状態(発動は1,非発動は0),\( {p}_r \)は同\(r\)の計画発電量,\(v(r)\)は同\(r\)の単位発電量当たりの「発電量のばらつき(分散)」,\(R\)はリソースアグリゲーターが指令可能なエネルギーリソースの集合を表す。

続いて,制約を次のように定義する。

\( subject \ to \ \ {\Sigma}_{r \in R} \ {p}_r = \hat{g} \)
式(2)

\( {ξ}_r \cdot \underline{p}_r \leq {p}_r , \ {}^\forall r \in R \)
式(3)

\( {p}_r \leq {ξ}_r \cdot \overline{p}_r , \ {}^\forall r \in R \)
式(4)

\( {ξ}_r \in \lbrace 0,1 \rbrace , \ {}^\forall r \in R \)
式(5)

なお,\(\hat{g}\)は目標発電量,\(\underline{p}_r\)はエネルギーリソース\(r\)の発動時の下限計画発電量,\(\overline{p}_r\)は同\(r\)の発動時の上限計画発電量を表す。

式(2)は,目標発電量と計画発電量が一致しなければならないという制約である。それ以外の制約は,DR非発動時に計画発電量が0に一致しなければならず,DR発動時に下限計画発電量≦計画発電量≦上限計画発電量を満たさなければならないという制約である。

この問題を混合整数線形計画問題用の解法アルゴリズムが搭載されたソフトウェアを用いて解けば,なるべく消費電力変化量の再現性が高いDRを発動しつつも,そうではないDRも必要に応じて発動するような,リソース割当計画を得ることができる。

なお,発電量やその分布の分散の大きさは,対象設備のスペックシートや知見から得られる情報により初期値を決定し,DRを発動して得られる実績データを学習することによりその値を改善することができる。このように学習により現実に近いリソース特性を混合整数線形計画問題に反映できるため,より正確なDRを実施できるようになる。

4.シミュレーション検証

4.1 概要

調整力が活躍できる場として,需給調整市場三次調整力②(7)を例にとると,「1.指令値(目標発電量)の変更への追従」 「2.指令値に対する制御量が,一定間隔以内での供出可能量の±10%以内の滞在」などの条件をクリアする必要がある。各条件をクリアするためには,前もって様々なリソースの組み合わせで試験を実施する必要があるが,実際のリソースを何度も試験することは運用上難しい。そこでアズビルでは図3に示すように,仮想的にDR・VPPが実施できるシミュレーション環境を構築し,AIリソース割当機能の数値実験を実施した。

図3 シミュレーションシステムのイメージ

4.2 検証結果:目標発電量vs計画発電量

まず,目標発電量を満たすようなリソース割当計画が作成できているかを確認するため,少数のDR設備を用いた数値実験を行った。適当な想定発電量や発電量再現性(ばらつき,分散)を設定した12個の需要家(リソースID:31001~31014)を設定し,すべてのDR設備の合計容量に対して20%,40%,60%,80%,100%の目標発電量を与えて最適化問題を解き,それぞれの需要家の想定発電量を図4に示した。図4は,横軸に目標発電量,縦軸に計画発電量をDR設備ごとに色を分けて描画したもので,それぞれ目標発電量に応じた解が得られており,目標発電量と計画発電量の差異が供出可能量の±10%以内という条件をクリアしていることが見て取れる。

図4 目標発電量vs計画発電量

4.3 検証結果:目標発電量vs発電量の分散

次に,なるべく発電量の再現性が高いDRを発動するような振る舞いが見られるかを確認するための数値実験を行った。適当な想定発電量や発電量再現性(ばらつき,分散)を設定した100個の需要家を設定し,すべてのDR設備の合計容量に対して10%刻みで10%~100%の目標発電量を与えて最適化問題を解き,それぞれの需要家の目標発電量とその解における発電量のばらつき(分散)の関係を図5に示した。図5は,横軸を目標発電量,縦軸を発電量の分散として描画したもので,目標発電量が小さいほど目標発電量当たりの分散が小さい傾向が見て取れる。この結果から,なるべく発電量のばらつきが小さいDRから用いているが,目標発電量が大きくなるに応じて,発電量のばらつきが小さいDRだけでは目標発電量に到達できなくなると,発電量のばらつきが大きいDRも用いるようになっていることがわかる。

図5 目標発電量vs発電量の分散

5.今後の課題

提案手法は,目標発電量(目標とする消費電力変化量)と計画量が一致するようにリソース割当計画を作成するものの,現実には目標量と実績量に誤差が生じてしまうことがある。誤差を0に近づけるためには,比較的高速に応答する設備を用いたフィードバック制御を併用すると良い。フィードバック制御は,提案手法の結果を初期操作とし,残差に応じて発電量を増減させることで,提案手法と併用することが可能である。誤差を0に近づけることを重視する場合は,比較的高速に応答する設備をフィードバック用の予備として相応量とっておくと良い。なぜならば,例えば,提案手法がすべての設備でDRを発動した状況で発電量が不足している場合,既にすべての設備がDRを発動中のため,フィードバック制御により発電量を増やすことができない。このように,フィードバックによる調整の余地が無くなることを避けるためには,提案手法が計画の対象とする設備に加えて,余分に,フィードバック制御用の(比較的高速に応答する)設備を事前に十分な量確保しなければならない。

また,提案手法において,設備の発電量の平均や分散の正確な予測は重要である。これらが現実と異なっている場合,発電量の目標と実績の差が大きくなる懸念がある。提案手法の最適化問題を求解する前に予測が完了する方法であればどのような予測方法を用いても良いが,設備に応じて適切な方法を用いることが求められる。

6.おわりに

DR・VPPのためのリソース割当計画を自動作成する技術について,最適化手法を適用してDRを発動するべきリソースを選択する方法を提案し,なるべく消費電力変化量の再現性が高いDRを発動しつつもそうではないDRも必要に応じて発動するという結果が得られていることを数値実験で確認した。

なお,この提案手法は,経済産業省VPP構築実証事業等において,現実の需要家側エネルギーリソースのDRによりVPPを構築する実証試験でも使用し,その有用性を確認している(8)

カーボンニュートラル社会へと向かい,将来的に再生可能エネルギーを大量導入して有効活用していくことが求められる中で,調整力の重要性は非常に高まってきている。本稿で報告したAutoDRやAIリソース割当機能は,このような社会要求に対する解決策の1つになると考える。また,これらの技術は建物設備だけではなく工場を含む様々なエネルギーリソースにも対象を広げ,需給調整市場だけではなく,需要家サイドに今後構築されていく様々なスタイルの地域マイクログリッドにおいても,電力需給調整を実現する上で大きく貢献する技術になると期待している。

<参考文献>

(1) 資源エネルギー庁 VPP・DRとは, https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/advanced_systems/vpp_dr/about.html(アクセス日 2024.1.30)

(2) 黒崎淳,宇野侑希,畑野隆文: VPPに貢献する自律的なDRのためのAI , スマートグリッド, 2022年,Vol. 63, No. 6, pp. 12- 16, 大河出版

(3) OpenADR Alliance,https://www.openadr.org/(アクセス日 2024.1.30)

(4) 中村瑞,水谷佳奈: ディマンドリスポンスシステムの 開発とバーチャルパワープラント構築実証事業への適用, a zbil Technical R eview, 2018年, Vol.59,pp. 50- 55, アズビル株式会社

(5) 市村健: 電力システム改革の突破口 DR・VPP・アグリゲーター入門, 2021年, pp. 151- 154, オーム社

(6) 宇野侑希: ディマンドリスポンス設備のエネルギーリソースアグリゲーション, 自動制御連合講演会講演論文集, 2023年, pp.735-737, 計測自動制御学会

(7) 送配電網協議会 需給調整市場とは, https://www.tdgc.jp/jukyuchoseishijo/outline/outline.html(アクセス日 2024.1.30)

(8) azbil ERAB アズビルの実績, https://www.azbil.com/jp/erab/results/(アクセス日 2024.1.30)

<商標>

AutoDR,BOSS-24はアズビル株式会社の商標です。

OpenADRはOpenADR Allianceの米国及びその他の国における商標です。

<著者所属>
宇野 侑希 アズビル株式会社 AIソリューション推進部
黒崎 淳  アズビル株式会社 AIソリューション推進部
畑野 隆文 アズビル株式会社 ビルシステムカンパニー サービス本部 グループクラウドサービス部
中村 瑞  アズビル株式会社 ビルシステムカンパニー 開発本部開発3部
片桐 汐駿 アズビル株式会社 ビルシステムカンパニー 開発本部開発3部

この記事は、技術報告書「azbil Technical Review」の2024年04月に掲載されたものです。