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巻頭言:シン・オートメーションの時代

小林 彬
Akira Kobayashi
一般社団法人次世代センサ協議会会長
東京科学大学名誉教授
Chairman; Japan Society of Next Generation Sensor Technology (JASST)Institute of Science Tokyo Professor Emeritus

センシング技術から見たとき,機器計測化,見える化,情報化が遅れている,あるいはそれらがほとんど実施されてない領域・分野が数限りなく存在している。
SoTを意欲的に適用し,そのような未開拓分野を開拓し,予想できる膨大で潜在的センシングニーズを顕在化させる決断が必要である。それを実現するものはDXであり,SoT,IoT,AIの緊密な連携がその中核をなす。
SoTとは,Sensor of Thingsの略語で,所要の箇所にセンサを積極的に設置し,必要なデータをオンライン的に拾い上げる考え方であり,IoTに併行する新しい主張である。
SoTを導入し,未開拓分野の開拓によって実現される新しい時代は,一言で言えば,シン・オートメーションの時代ともいうべき時代である。

かつて,オートメーションが注目された時代,製造業(プロセス産業・自動車産業が中心)では,機器計測化,機械化,ロボット化,自動化等が進展し,生産技術開発における生産性向上(生産性向上1.0)が起きた。これに対し,シン・オートメーションの時代では,非製造業分野へ適用領域が拡大され,情報の見える化(視覚化),見守り化,総合化(知能化),多次元化(多様化),安全・安心化(含:自然災害減災,交通安全)を念頭に,判断のための状況認知の支援/結果としての人的作業のリードタイム短縮(生産性向上2.0)が実現すると期待されている。
ここで「シン・オートメーション」の語は,聞くところによるとアズビル株式会社の登録商標とのことである。流石にアズビルの面目躍如という感に至るが,期せずして,企業も学際レベルも同じ方向性を抱いている点が強調されるべきである。その深い意味を社会的に共有して認識し,広く普及させ,膨大な新しい計測制御分野の開拓を目指し,その振興に努力する考え方が重要である。
期待されるシン時代においては,別次元の生産性向上がもたらされ,異なる分野ということ以上に,その分野にとっても新しい「もの・こと」が始められる。さらに,それによって世の中が変わって行くと言うことである。同時に,新しい機能が提供されたり,これまで以上の性能向上が図られたりすることでもある。

一方,新しい機能・性能を持つシステムの実現にあたり,そのことが真に実現されたかを客観的に確認・保証することも重要である。然るべき観点からの客観的評価が必須であり,この役割を公平かつ,公正に担えるものはセンシング技術以外にはない。
このことは結果としてセンシング技術が社会を変革する大きな原動力となり得ることを意味している。また,様々な人的作業のリードタイムを短くすることは「もの・こと」の変化のスピードそのものであり,ビジネスにおける競争の原点である。

シン・オートメーションにつきセンシング技術を活用する方法に大きく2つの側面がある。

一つは,既に多くの成熟したセンシング技術が存在するが,それらを計測機器の形でなく,デバイス的に簡便に利用する方式の整備である。実現が技術的・期間的に容易なセンシングフレームワークを要望するニーズに応え,SoTを円滑に推進する方向である。この点,JASST(次世代センサ協議会)よりSUCS(ザックスと発音する)が提案されている。SUCSでは,センシング系はセンサ,AD変換部,通信部,電源の各ユニットの選択・組合せ・連結により構成され,さらにユニット連結標準化のためのガイドラインが整備され公表されている(SUCS1.0)。

二つ目は,集められた複数(多数)のデータを活用・評価する方法に関するもので,複合センシング系と称される新規開発を推進する方向である。ニーズの根本にある「もの・こと」を実現するための,新インデックスの創出と見える化,およびAI技術利活用によるセンシング系のマスカスタマイズの議論がポイントと考えられる。非製造業分野においても,様々な価値観が存在し,社会生活を円滑に進めるための,種々の判断基準(評価基準)がある。従って,そのような分野の自動化・システム化を進めるとなれば,人間の意思決定に付随する評価基準をアルゴリズム化しなければならずそれに対応するインデックスの創出が課題となる。新たな複合計測方式への最大の期待はここにある。

シン・オートメーションの「シン」には,アズビルが掲げる3つの成長領域で用いられる「新」の意味も勿論入るが,心,伸,真,清,親,振(振興),深,診,信(信頼),晋,等様々な意味が込められていると推察する。次世代センサ協議会での想いも同じである。自動化,システム化を進めるうえでの「シン・オートメーション」においてセンシング技術は,これからも進化,深化を遂げるであろう。その時に我々,次世代センサ協議会もその一助を担えれば光栄である。

著者紹介:
1964年東京科学大学(旧・東京工業大学)理工学部制御工学科卒。1969年同大学院博士課程修了。
同年より東京科学大学工学部助手,1975年助教授,1987年教授となり,現在名誉教授。パターン計測用並列処理型インテリジェントセンサ,感覚計測,解領域法による信号処理の研究に従事。2015年より一般社団法人次世代センサ協議会会長に就任。
計測自動制御学会学術論文賞受賞(1973年,1980年,1986年,2005年),東京都科学技術振興功労者賞(1994年),計測自動制御学会フェロー受賞(1996年),経済産業省産業技術環境局長(2011年)他。

この記事は、技術報告書「azbil Technical Review」の2025年04月に掲載されたものです。