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ON-OFF弁スマート化による不調検知と運用変革

〜高付加価値バッチプロセス時代の製造業を支える技術〜

キーワード:ON-OFF弁,スマート化,バッチプロセス,不調検知,異常検知,IoT,AI,予兆保全

産業プロセス業界は高付加価値製品へのシフトに伴い,バッチプロセスの重要性が増している。本稿では,バッチプロセスにおけるON-OFF弁の不調検知と運用変革を目的としたスマート化技術を提案する。既設弁に後付け可能なセンサ「Smart Valve Motion Detector」を用いて,開閉動作データを高精度に取得し,クラウドで解析する仕組みを紹介する。この技術により,不調の早期検知,計画保全の最適化,運転員の負荷軽減を実現する。さらに,AIによる予兆保全,他業界への展開,システム連携による製造DX推進の可能性についても論じる。

1.はじめに

近年,産業プロセス業界はグローバル競争の激化や市場ニーズの多様化を背景に,従来の汎用化学品から高付加価値のファインケミカルやスペシャリティケミカルへのシフトを加速させている。これらの分野では,従来の大量生産を目的とした連続プロセスではなく,少量多品種生産,厳格な品質管理,迅速な製品切り替えが求められており,バッチプロセスが主流となっている。

バッチプロセスは,工程ごとに原料投入,反応,生成物回収を区切って行う方式であり,流体切り替えや反応条件変更が頻繁に発生する。このため,流体の流れを確実に停止・開始するためにON-OFF弁が用いられる。ON-OFF弁は,配管内の流体を完全に遮断する,または全開で流すという単純かつ確実な制御を担い,原料の投入タイミングや反応停止,生成物の切り替えなど,工程の安全性と精度を確保する重要な役割を果たす。そのため,ON-OFF弁の開閉タイミングや動作の確実性は製品品質や安全性に直結する。

特にバッチプロセスでは,頻繁な開閉や厳しい流体条件に対応するため,高速,高トルクを発揮する空気式ON-OFF弁が,信頼性の面で重要な位置を占めている。一方で,現場ではON-OFF弁の開閉頻度や流体条件が多岐にわたるため,どの弁がいつ不調をきたすかを事前に把握することは容易ではない。また,不調が発生した場合,その原因を特定し,適切に対応するには熟練者のノウハウが求められる。しかし,近年は人材不足が進行しており,こうした対応を担う人員の確保が難しくなっている。その結果,安定した操業を維持することが現場の大きな課題となっている。

本稿では,ON-OFF弁の開閉動作における通常とは異なる挙動を「不調」と定義し,スマート化技術による早期検知と運用変革の可能性について論じる。アズビルではON-OFF弁のスマート化ソリューションとして,既設のON-OFF弁に後付け可能なセンサ「Smart Valve Motion Detector」を開発した。以下では特に,この「Smart Valve Motion Detector」を活用したデータ収集・分析の仕組みを紹介し,損失削減・保全最適化・安全性向上といった価値を提供する技術的アプローチを提案する。また,将来的なAI技術の活用や,他システムとのデータ連携による新たな価値創出の展望についても述べる。

本稿の構成は以下の通りである。第2章ではバッチプロセスとON-OFF弁の重要性を述べ,第3章で不調の定義と現場課題を整理する。第4章ではスマート化の目標と提供価値を示し,第5章でSmart Valve Motion Detectorの活用方法,第6章では実証事例と成果を紹介する。第7章ではデータ利活用とAIによる運用最適化の展望を示し,第8章では他業界への展開と今後の課題を論じる。

2.バッチプロセスとON-OFF弁の重要性

バッチプロセスは,原料投入から反応,生成物回収までを工程単位で区切って行う生産方式であり,化学産業をはじめとする多くの産業プロセスで広く用いられている。このようなバッチプロセスは一般的な製造方式である一方,特にファインケミカルやスペシャリティケミカルなどの高付加価値製品分野においては,製品品質や安全性への要求水準が高く,プロセス機器のわずかな動作不良が歩留まり低下や品質不良,さらには重大な安全リスクにつながる可能性が大きい。

このように,バッチプロセスにおいてON-OFF弁は,工程の成立性,製品品質,および安全性を支える重要な役割を担っている。

産業プロセス業界のバッチプロセスで使用される自動弁は,「調節弁」と「ON-OFF弁」に大別される。調節弁は流量や圧力を連続的に制御するのに対し,ON-OFF弁は流体の通路を完全に開く(全開)または閉じる(閉止)という二位置制御を担う。ON-OFF弁の基本機能は,流体を確実に遮断し,全開時に必要な流量を安定供給することである。

ON-OFF弁には駆動方式の違いから「空気式」と「電気式」がある(図1)。本稿では,特に空気式ON-OFF弁に焦点を当てる。空気式は圧縮空気を動力源とし,開閉動作において高速性や高トルクが求められる場面で広く利用されている。バッチプロセスでは,頻繁な開閉や厳しい流体条件に対応するため,空気式の信頼性と応答性が重要な役割を果たしている。

構造面では,「回転弁」と「直動弁」に分類される。回転弁(ボール弁,バタフライ弁)は弁体が回転して開閉し,構造がシンプルで開閉が速く,メンテナンス性に優れる。一方,直動弁(グローブ弁,ダイヤフラム弁)は弁体が直線的に動作し,シール性が高い傾向があるが,遮断性能は弁の種類や設計によって異なる。

このように,バッチプロセス現場では用途や設置環境,制御要件に応じて多様なON-OFF弁が選定されているが,本稿では,バッチプロセスにおける空気式ON-OFF弁のスマート化を中心に論じる。

図1 ON-OFF弁の操作器駆動方式と弁構造

図1 ON-OFF弁の操作器駆動方式と弁構造

3.不調の定義と現場課題

ON-OFF弁は構造こそシンプルであるが,バッチプロセスにおける流体切り替えや工程成立性を担う機器であり,その動作がプロセス全体に与える影響は極めて大きい。一方で,バッチプロセスの運用現場では,生産品目の切り替えや運転条件の変更に伴い,ON-OFF弁の動作環境が工程ごとに大きく変動するという特有の課題が存在する。

例えば,一日の開閉回数,流体の圧力・温度条件,さらには流体特性の違いによって,ON-OFF弁にかかる機械的・熱的負荷は一定ではない。その結果,不調の発生時期や進行度合いにばらつきが生じ,事前の予測や計画的な対応が困難となっている。

また,従来の保全や異常対応は,定期点検や日常運転中の目視確認,異音や振動の感知など,運転員の五感や経験に依存した方法が中心である。このため,対応が属人化しやすく,近年の人材不足と相まって,安定操業を維持することがますます難しくなっている。

このような運転環境のもとで,明確な故障として顕在化する前の段階で生じる動作変化を的確に捉えることが重要である。

本稿では,「不調」をON-OFF弁の異常兆候として定義する。不調は,完全な故障に至る前段階のわずかな変化を含み,通常とは異なる挙動が観測される状態を指す。具体的には,開閉速度の低下,開閉動作の形状(応答波形)の変化,異音や振動の発生,開度のバラツキなどが挙げられる。

バッチプロセスの運転員は,日常業務に加え,品種切替や工程変更など多様な作業を並行して行う必要がある。そのため,ON-OFF弁に異常が発生すると,突発対応が必要となり,全体の業務負荷が増大して通常業務が圧迫されることになる。特に非定常作業では経験や判断力が求められるため,運転員にとって大きなストレスやリスクとなる。また,PV(Process Value)値に異常が生じた場合,原因特定に時間を要し,状況によっては災害や事故につながる危険性もある(図2)。

前述の通り,従来の保全手法は定期点検や目視確認が中心であり,運転員の五感や経験に依存した属人的な対応が多い状況である。そのため,リアルタイムでの不調検知は困難であり,データが十分に蓄積されないため,過去の傾向を把握して先手を打つことも難しい状況である。熟練者の経験や勘に頼る場面が多く,担当者によって対応にバラツキが生じやすいという課題も存在する。人材不足が進む現場では,こうした属人化が運転員の負担増や対応力の低下につながっている。

このように,バッチプロセス特有の運転環境ではON-OFF弁の不調を的確に捉えることは非常に難しい。現場の安全と安定操業を維持するためには,より効率的かつ確実な不調検知の仕組みが求められている。

図2 バッチプロセスにおける異常発生時の対応例

図2 バッチプロセスにおける異常発生時の対応例

4.スマート化の目標と提供価値

ON-OFF弁のスマート化は,運転員が安心して業務に集中できる環境を実現するための取り組みである。特に「運転中の異常ゼロ」「運転員の非定常業務ゼロ」「生産ロスゼロ」の3つのゼロを目標とし,現場の業務効率化と安定操業を目指す(図3)。

図3 現状と運用変革後のイメージ

図3 現状と運用変革後のイメージ

現実的には,ON-OFF弁の異常を完全にゼロにすることは難しい。しかし,不調を早期に検知できれば,バッチ運転の合間(停止期間)を活用して計画的な保守や対処が可能となる。これにより,次のバッチ運転において,ON-OFF弁が原因となるトラブルが未然に防止され,安定した運転が維持される。突発対応の減少は非定常業務を最小化し,運転員の負担やストレスを大幅に軽減できる。

スマート化によって,弁の状態が「見える化」され,不調を早期に把握・通知できるようになる。これにより,運転員は突発的なトラブルに追われることなく,計画的かつ安全に業務を遂行できる。属人化を排除し,計画的かつ安全な業務遂行が可能となり,現場全体の安定操業と安全管理が実現する。

さらに,スマート化は運転員だけでなく経営層にも価値をもたらす。製品ロスや設備損傷による損失削減,予防保全によるコスト最適化,安全性と安定稼働の確保など,現場運用の変革と経営的メリットの創出を支える重要な手段となる。

5. 技術的アプローチ:Smart Valve Motion Detectorの活用

前章で述べた不調検知と運用変革の目標を実現するための中核技術が,Smart Valve Motion Detectorである。

Smart Valve Motion Detectorは,ON-OFF弁の開閉動作を高精度で検出する後付け型センサであり,開度状態のデータを取得する。既存のON-OFF弁に後付け可能な設計を採用しており,既存設備への導入障壁が低く,現場の多様なニーズに柔軟に対応できる。

本稿で対象とする空気式ON-OFF弁は,頻繁な開閉や高トルクが求められるため,動作状態の変化を正確に把握することが重要である。Smart Valve Motion Detectorは,こうした弁の動作を監視し,不調を早期に検知するための有効な手段となる。

導入時は,数回のボタン操作で初期調整が完了し, 専門知識を必要としない。さらに,ユーザーは専用のアカウントを作成し,デバイスを紐づけることで,ON-OFF弁の稼働データをクラウド上で即座に閲覧・運用できる。アカウント作成はWebブラウザ上で簡単に行うことができ,ユーザーごとに管理画面が提供されるため,複数の弁を一元的に管理することが可能である。

Smart Valve Motion Detectorは電池式を採用し,電源ケーブル敷設を不要とした。加えて,無線通信(セルラー通信)により信号ケーブルも不要となり,従来の産業用I oT導入で一般的だったゲートウェイ機器設置も不要とし, 電源工事や電波干渉調査,管理機器増加といった従来のIoT導入課題を解消した。特に,電池式のゲートウェイ機器を採用する場合,運転員から目の届きにくい場所に設置されていることが多く,設置場所の管理や電池切れ時の所在確認が難しいため,保守負担が大きかった。しかし,Smart Valve Motion Detectorは,設置場所の管理が容易であり,クラウド上で電池残量や稼働状況を遠隔監視できるため,これらの問題を解決している(図4)。

取得したデータはゲートウェイ機器を介さず直接クラウドに送信され,時系列データとして蓄積される。このデータを活用することで,不調検知アルゴリズムや通知機能の実装,クラウド上でのAI・機械学習による予兆保全モデル構築,複数拠点・複数ラインの統合管理が可能となる。

さらに, Smart Valve Motion Detectorには,将来的な機能拡張に対応するため,FOTA(Firmware Over-The-Air:遠隔からファームウェアを自動更新する仕組み)機能を標準搭載している。これにより,クラウド経由でファームウェアの更新が可能となり,現場での作業を不要としつつ,新しいアルゴリズムや機能を継続的に提供できる。顧客は,導入後も常に最新の機能を利用でき,運用価値の維持・向上が期待できる。

図4 運用開始までのステップ

図4 運用開始までのステップ

Smart Valve Motion Detectorを活用したシステム構成は以下の通りである(図5)。

  • センサユニット:Smart Valve Motion Detector(既設ON-OFF弁へのアドオン設計,電池式・無線通信対応)
  • クラウドプラットフォーム:セルラー通信~サイバー空間(セルラー通信による直接接続,ゲートウェイ不要)
  • ダッシュボード:WEBブラウザ(稼働データの可視化,アラート通知,運用管理)
  • API連携(他システムとのデータ連携)

このように,Smart Valve Motion Detectorは,現場の導入・運用負担を最小限に抑えつつ,空気式ON-OFF弁のスマート化を迅速かつ確実に実現する実用的なソリューションである。

図5 Smart Valve Motion Detectorシステム構成図

図5 Smart Valve Motion Detectorシステム構成図

6.実証事例と成果

本章では,バッチプロセス現場におけるSmart Valve Motion Detector導入事例を紹介する。

ある化学プラントでは,空気式ON-OFF弁の内弁腐食により閉止状態が維持できず,プロセス流体が下流側に漏れ出す問題が発生していた。腐食の進行は通常,年1回の定期修理で確認されていたが,運転中に兆候を把握することは困難であった。その結果,弁が中間開度で固着し,動作しなくなる現象が発生した。異常が疑われる場合,運転員は本来自動で動作する弁を手動で開操作・閉操作し,固着解除を試みることで流体漏れの影響を最小化していた。しかし,この対応は非定常作業を増やし,負担とリスクを高めていた。

Smart Valve Motion Detector導入後,弁の開閉動作データを収集・蓄積できるようになり,目視では確認できない作動不良が初期段階で検知可能となった。弁が中間開度で固着する現象も早期に把握でき,従来予想より約6か月早く不調が発生していたことが判明した。図6は,正常な状態におけるON-OFF弁の動作波形を示している。一方,図7は,不調が発生している状態におけるON-OFF弁の動作波形を示している。TemplateはON-OFF弁の正常状態から作成した基準波形,Targetは実運転下で記録した波形である。両波形の差分を用いて,動作特性の変化や劣化兆候を判定する。

図6 正常なON-OFF弁動作

図6 正常なON-OFF弁動作

図7 不調な状態のON-OFF弁動作

図7 不調な状態のON-OFF弁動作

さらに,新品弁への交換後もデータ収集を継続した結果,前回よりも2か月早く同様の兆候が現れた。これは,ON-OFF弁の不調が一定の時間軸で発生するものではなく,プロセス条件によって大きく変動することを示している。Smart Valve Motion Detectorの導入により,運転員はデータという客観的証拠をもとに,保全タイミングの見直しや弁仕様変更を実施し,その効果を定量的に確認できるようになった。結果として,非定常作業の削減,設備損傷リスクの低減,安定操業の実現につながった。

この事例は,空気式ON-OFF弁スマート化の有効性と現場への導入メリットを明確に示すものであり, 今後の普及と現場改善への貢献が期待される。

7.データ利活用とAIによる運用最適化の展望

本章では,ON-OFF弁スマート化によるデータ利活用とAI・機械学習の運用最適化について,現時点での構想と今後の展望を示す。以下は,今後の技術進展やシステム連携を見据えた方向性である。

7.1 自システム内でのAI・機械学習活用

AI・機械学習の活用により,開閉動作データをもとに運用最適化を目指す。具体的には,以下のような機能拡張を構想している。

  • 不調検知の自動化
    AIによる開閉動作データの学習を通じて,通常とは異なる挙動や悪化傾向の早期検知を目指す。これにより,突発的なトラブルの未然防止や計画的な保全の実現が期待できる。
  • 予兆保全・保全タイミングの最適化
    時系列データを活用し,設備の劣化傾向や残寿命の予測,最適な保全タイミングの自動提案を目指す。運転員の負担軽減や安定操業への貢献を意図している。
  • 運転条件の最適化支援
    現場ごとの運転条件や設備特性の分析を通じて,最適な運転条件の提案や異常発生時の対応策のサポートを目指す。

これらの機能は,Smart Valve Motion Detectorのクラウドシステム内で完結し,導入現場ごとに活用できる仕組みとして構想している。

7.2 他システム連携によるAI活用の拡張

Smart Valve Motion Detectorで取得したデータをMES(製造実行システム)やERP(基幹業務システム)などの他システムと連携することで, 設備状態データに加えて生産実績・品質情報・計画情報などの文脈データが統合され,分析可能な情報の範囲が拡張する。これにより,AI・機械学習の活用領域もさらに広がる。

  • 全社的な最適化・品質保証体制の強化
    複数拠点・複数ラインのデータを統合し,全社的な設備管理や品質保証体制の強化に活用することを目指す。
  • 生産計画や運用の高度化
    生産計画や品質管理データと連携することで,設備の稼働状況に応じた生産スケジュールの最適化や,品質異常の早期発見を目指す。
  • システム診断・複合的なトラブル予兆把握
    ON-OFF弁だけでなく,他の制御機器(ポンプ,流量計,圧力計など)とのデータ連携を進めることで,システム全体の挙動から異常を検知し,複合的なトラブルの予兆把握を目指す。

このように,まずは自システム内でAI・機械学習を活用し,さらに他システムとの連携によってデータの価値と活用範囲を段階的に拡張していくことが,現場の運用最適化と製造DX推進の重要な方向性であると考える(図8)。

図8 AIとIoTデータ連携による運用最適化の展望

図8 AIとIoTデータ連携による運用最適化の展望

8.他業界への展開と今後の課題

本稿で提案してきたON-OFF弁のスマート化技術は,化学プラントでの適用を主眼として,Smart Valve Motion Detectorを中核とする形で検討・開発を進めてきた。一方で,本技術の考え方やアプローチは,化学プラントに限らず,食品,医薬品,水処理,エネルギーなどの他業界にも適用できる可能性を有している。本技術は,衛生管理,品質保証,環境規制対応など,弁の状態監視が重要なさまざまな現場において,新たな価値を提供しうるものである。

たとえば,水処理やエネルギー業界では,広範な設備に多数のON-OFF弁が設置されている。従来の人手による点検・保全では,作業負担が大きく,十分な対応が困難である。こうした課題に対し,スマート化技術の導入は,遠隔監視や自動保全,省人化を可能にすることで,労働人口減少や運転コスト削減への有効な対応策となる。

他業界展開にあたっては,業界・現場ごとのニーズに応じた機能調整や設計最適化,既存の制御システムやMES,ERPなどとの円滑なデータ連携が特に重要な課題である。加えて,セキュリティ対応やAIモデルの精度向上,現場条件に応じた継続的な学習・モデル更新は,全業界共通の技術的課題である。

将来的には,AI・IoT・クラウド技術を融合した「スマートファクトリー」や「自律型プラント」の実現に向け,ON-OFF弁スマート化技術が基盤技術の一端として重要な役割を果たすと考える。

9.おわりに

本稿では,バッチプロセスを中心とした産業プロセス業界におけるON-OFF弁の重要性や現場課題を整理し,スマート化技術による不調検知と運用変革の可能性について論じた。Smart Valve Motion Detectorを活用したデータ収集・分析の仕組みは,導入・運用負担を抑えつつ,状態監視や早期不調検知の実現に寄与することを示した。

また実証事例を通じて,従来は属人的・経験依存であった運用・保全業務が,客観的データに基づく効率的かつ安定したものへと移行しつつあることを確認した。本技術は,現場の負担軽減,コスト削減,全社的な品質保証体制の強化など,多面的な効果をもたらす実用的な技術基盤である。

さらに,同様の課題を抱える他業界への適用可能性も有しており,AI・IoT・クラウド技術との連携深化を通じて,より高度な価値創出が期待される。食品・医薬品・水処理・エネルギーなど多様な分野での応用も視野に入れ,より幅広い現場での活用を目指していきたい。

<参考文献>

(1) 柿元雄太郎 他,日本の化学産業の今後の展望 世界をリードするスペシャリティケミカルメーカーへと進化するために,Energy Resources & Materials Article,2023年4月13日, McKinsey & Company

(2) 島稜 他,化学・素材産業の過去・現在・未来の俯瞰と今後に向けた課題・打ち手,知的資産創造,2025年5月7日,pp. 4-19,野村総合研究所

<商標>
Smart Valve Motion Detectorはアズビル株式会社の商標です。(商標出願中,2026年3月25日時点審査中)

<著者所属>
山﨑 史明  アズビル株式会社 アドバンスオートメーションカンパニー IAPマーケティング部
村田 耕一郎 アズビル株式会社 アドバンスオートメーションカンパニー 開発本部DXCV開発部

この記事は、技術報告書「azbil Technical Review」の2026年04月に掲載されたものです。