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三菱ガス化学株式会社 新潟工場

AIを活用した設備の異常予兆の早期把握が、化学プラントの操業の安定性と品質の担保に大きく貢献

製造プロセスにおいて繊細な制御が求められる高機能化学製品を生産する三菱ガス化学の新潟工場では、広大な製造装置の異常をすべて検知し、異常発生を回避することは困難という状況を抱えており、ベテランのオペレータから若手主体の体制へと移行する中で、操業の安定性と品質の担保が重要な課題となっていました。異常予兆検知システムの導入により、装置の異常が起こる数時間から数日前に予兆を捉え、早期に適切に対処できる体制が整いました。これによりオペレータの心的負荷も大幅に軽減されています。

工場・プラント分野 化学 電力・ガス 品質管理 安定稼働 メンテナンスサポート 運転監視・制御システム&ソフトウェア

高機能製品の製造プラントで安定操業と品質の担保が課題

「社会と分かち合える価値の創造」というミッションの下、産業や暮らしを支える化学製品を提供する三菱ガス化学株式会社。1952年に、自社採掘した国産の天然ガスを原料に、メタノール合成に日本で初めて成功し、以来、資源確保からプロセス開発、生産・輸送・販売までを一貫して手掛ける「メタノール総合メーカー」として、独自の技術に根ざした多様な事業を展開しています。

同社の主要生産拠点である新潟工場は、地下資源の豊富な新潟地区に位置し、天然ガスを利用したメタノール合成を皮切りに、合成樹脂、電子工業薬品やバイオ製品といった多彩な製品を生産しています。近年では、新潟市と共同でバイオマス由来のメタノールを生産するなど、カーボンニュートラルに積極的に取り組んでいます。この新潟工場の中で、三菱ガス化学の主力製品で、食品用梱包材などに使われるMXナイロン※1やエンジニアリングプラスチックス※2、あるいは自動車・住宅の塗料、接着剤、段ボールの強化剤といった用途に用いられる素材を生産しているのが、第三製造部 第二機能品課です。

「製品の特性上、当課が扱う製造装置は反応温度の低下、詰まりなどの異常がしばしば発生していました。また、さらに近年では、ベテランのオペレータが他部署に異動するケースもあり、若手主体でいかに操業を安定させ、製品の品質を担保するかが重要な課題でした」(加藤氏)

通常のDCS監視に比べ、早期に異常を検知できることを確認

第二機能品課では課題の解消に向けて模索を続ける中、2019年3月に新潟工場の電装課が主体となり開催したオンサイトセミナーで発表された、アズビル株式会社のオンライン異常予兆検知システム BiG EYES™に注目しました。

BiG EYESは、DCS※3による測定値のアラームの監視で異常を検知する方法とは異なり、AIを活用して異常発生の“予兆”を捉えることができるという先進的なツールです。他社にも類似するものはありますが、バッチプロセスで使うという目線で見たときに、アズビルのBiG EYESならうまくいきそうだと感じました」(椎谷氏)

同課では、本格導入に向けて、実際にプロセスで問題が発生していた三つの事象について、フィジビリティスタディ※4(以下、FS)を実施し、BiG EYESによる異常予兆の検知について、検証を行いました。

ナイロン重合槽では、樹脂を加熱しているジャケットの入口温度が低下すると、反応時間が延びたり、品質不良を引き起こしたりするという課題がありました。これに対し同課では、正常時のプロセスをBiG EYESに学習させ、異常発生時の操業データを用いて、BiG EYESがその予兆を早期に検知することができるかを検証しました。その結果、BiG EYESでは、DCSのアラーム発報でオペレータが異常に気付くよりも約1時間早く、その予兆を検知できることが確認できました。

「DCSのアラームが発報されてから、原因究明や問題への対処を行うと、その間に樹脂の品質がどんどん悪化していきます。これに対し、BiG EYESは約1時間早く異常の予兆を捉えるため、早期に必要な対処を行い、品質悪化を回避できることが検証により明らかになりました。たった1時間でもすごく大きな改善です」(加藤氏)

同様に、蒸留塔のベント金網詰まり、真空ポンプの異常停止といった問題についてもFSを実施。ベント金網詰まりについてはオペレータが認知したタイミングより約8日、真空ポンプの異常停止については約1日早い段階でBiG EYESが予兆を検知できるという結果になり、FSの実施を通して、製品の品質悪化や操業停止のような事態につながる前に、時間的余裕をもって必要な対処ができる体制を整えられることが確認されました。

中央制御室に設置されたBiG EYESで供給ポンプの電流値を監視

中央制御室に設置されたBiG EYESで供給ポンプの電流値を監視

装置ベント(給気、排気口)。FSでは、ベントに取り付けられた金網のフィルタ詰まりに起因するプロセスの反応異常をオペレータより約8日前にBiG EYESが検知している

装置ベント(給気、排気口)。FSでは、ベントに取り付けられた金網のフィルタ詰まりに起因するプロセスの反応異常をオペレータより約8日前にBiG EYESが検知している

予兆検知以外にもBiG EYESを活用、操業プロセスとノウハウを可視化

このFSの成果を受け、第二機能品課は、2021年12月にBiG EYESの導入を正式に決定し、効果を検証した三つの対象について運用を開始しました。また、DCSだけでは検知が難しいストレーナの目詰まりや、原料ポンプの電流値異常などといった新たな課題に対しても、BiG EYESを導入することで、問題の早期発見につなげています。特にストレーナの目詰まりについては、目詰まりが発生した段階で、即時に清掃作業を行わないと操業停止に発展してしまいますが、高温で運転している装置ということもあり、例えば夜間の暗い時間帯に清掃作業を行うことは避けたいものです。完全に閉塞してしまう前の早い段階にBiG EYESで予兆をつかむことで、現在運転中のプロセス終了後すぐに清掃を行うべきなのか、また夜勤の場合には、朝までは運転を行い、明るい時間に点検をすればよいのかなどの判断をオペレータが考えて計画的に行動できるようになり、オペレータの心的負荷も大幅に軽減されました。

BiG EYESを導入することで必要となるモデルは、FS実施時に15種類ほど作成しました。あらかじめアズビルが実施するモデル作成の講習を受け、現場では随時、アズビルのエンジニアからアドバイスをもらいながら作成しました」(椎谷氏)

また、問題の予兆検知だけでなく、反応がよかったときと、そうでなかったときのトレンドを見比べて原因を追究するトラブルシューティングや、高額の施工費用がかかるタンクの保温について、保温した場合と、しなかった場合でどの程度、効果に違いがあるかという検証にも活用するなど、様々な用途にBiG EYESを適用しています。

「モデルの作成は、精度向上のためにも現場で操作にあたるオペレータが中心となって作成できるような体制を目指したいと考えています。その結果、操業プロセスや様々なノウハウの可視化が進んでいくことも期待されます」(椎谷氏)

こうした第二機能品課でのBiG EYESの活用による成果は、三菱ガス化学社内でも注目を集めています。全社改善発表会では社長をはじめとする経営層に対して成果を発表し、高く評価され、「生産技術賞」を受賞しました。さらに社内では、BiG EYESユーザー会が立ち上げられ、各工場間、部署間での活用方法の共有を行っています。

「全社改善発表会での改善成果発表を受け、他部署からもやってみたいという声を多く聞きます。ユーザー会では改善テーマやモデル作成に関する情報を共有し、社内でのBiG EYES活用を推進したいと考えています。引き続き、アズビルの手厚いサポートを期待しています」(加藤氏)

BiG EYESが捉えた循環ポンプ電流量の異常予兆

BiG EYESが捉えた循環ポンプ電流量の異常予兆

※BiG EYESはアズビル株式会社の商標です。

用語解説

※1 MXナイロン

酸素や炭酸ガスに対して優れたバリア性を持つ素材。包装材料や成形材料、モノフィラメントなど、幅広い用途に使われている。

※2 エンジニアリングプラスチックス

強度に優れ、耐熱性の高いプラスチックの一群。使用温度や強度の点で、金属部品と従来型プラスチック部品の中間的/補完的な位置にあり、用途に応じて使い分けられている。

※3 DCS(Distributed Control System)

プラント・工場の製造プロセスや生産設備などを監視・制御するための専用システム。構成する各機器がネットワーク上で機能を分散して持つことで、負荷の分散化が図れ、安全でメンテナンス性に優れている。

※4 フィジビリティスタディ

実現可能かどうかを確認・検討するために、事前に行われる調査・研究。実行可能性調査。

お客さま紹介

三菱ガス化学株式会社 新潟工場 第三製造部 第二機能品課 課長 加藤 一弥 氏
三菱ガス化学株式会社
新潟工場
第三製造部
第二機能品課
課長
加藤 一弥 氏
三菱ガス化学株式会社 新潟工場 第三製造部 第二機能品課 椎谷(しいや) 洋行 氏
三菱ガス化学株式会社
新潟工場
第三製造部
第二機能品課
椎谷(しいや) 洋行 氏

三菱ガス化学株式会社 新潟工場

  • 所在地/新潟県新潟市北区松浜町3500
  • 操業開始/1952年
  • 生産内容/メタノールとアンモニアの誘導品、メタキシレンジアミン、MXナイロン、バイオ関連製品

この記事は2025年03月に掲載されたものです。

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