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花王株式会社 和歌山工場

AIを活用した異常検知システムの導入が生産現場での自己解決型人財の育成に貢献

自社の生産プロセスを深く理解し、“心と技”を磨く自己解決型の「エンジニアリングオペレータ」育成を目指す花王では、その目的に資する先端技術活用の一環として、AIを実装したオンライン異常予兆検知システムを導入。異常を予兆段階で検知できることで、発生しつつある事象に対処するための時間的余裕が確保され、トラブルの未然防止を実現しました。一方で、ベテランから若手への技術伝承も進み、メンバー各人の製造プロセスに対する理解が高まるという効果も得られています。

工場・プラント分野 化学 安全・安心 安定稼働 稼働改善 クラウド・IoT・AI 運転監視・制御システム&ソフトウェア

常に先進のものづくりを念頭に、自己解決型人財の育成を目指す

「ライフケア」「ヘルス&ビューティケア」「ハイジーン&リビングケア」「化粧品」という四つの事業分野で一般消費者の生活を彩る各種製品を提供している花王株式会社。同社は「ケミカル」事業分野においても産業界のニーズに対応した製品を幅広く展開し、その事業活動を通して世界中の人々の豊かな暮らしに貢献しています。1944年に操業を開始した花王 和歌山工場はグローバルのマザー工場であり、同社最大の生産拠点として、ファブリック&リビングケア、化粧品のほか、各種誘導体、界面活性剤といった家庭で使われる最終製品の原料となる中間品などのケミカル製品も生産。その年間生産量は約80万トンに上ります。こうした原料から中間品、最終製品までの一貫した生産体制を取る現場は、従業員にとって、ものづくりの原理原則を深く学べる環境でもあり、同社が各生産現場において目指しているのが「エンジニアリングオペレータ」の育成です。

「単に生産設備を運転するということではなく、各プラントがどういう意図で設計され、どういうプロセスで製品が生産され、さらには現場が生み出す製品が消費者にどういう価値を提供するのかといったところまでをしっかりと理解している、まさに“心と技”を兼備する自己解決能力に優れた人財こそが、当社の目指すエンジニアリングオペレータの姿なのです」(松下氏)

これに対し花王では、和歌山工場内に「テクノスクール」と呼ばれる教育施設を開設。グローバルで1,000人以上が卒業し各拠点で活躍する一方、同社の人財育成に寄与する生産設備の整備やオペレーションの標準化なども進めています。

複雑なバッチプロセスに対応するオンライン異常予兆検知システム

オペレータ同士がBiG EYESの可視化されたトレンドデータを確認し、大きなトラブルになる前に原因や対処の検討、議論を行うことができるようになった。

オペレータ同士がBiG EYESの可視化されたトレンドデータを確認し、大きなトラブルになる前に原因や対処の検討、議論を行うことができるようになった。

そうした中、最先端の技術動向をキャッチアップするために訪れた2018年11月の展示会で同社が巡り合ったのが、AI技術を活用しバッチプロセスに対応したアズビル株式会社のオンライン異常予兆検知システムBiG EYES™でした。

「従来、多様に変化する生産プロセスのトレンドデータから逸脱した状況を人が捉え、異常予兆を発見していました。BiG EYESは、プロセスデータを蓄積し、AIが生産設備の正しい振る舞いを学習、トレンドの微小な違いを検知するという花王の従来の異常検知方法とマッチしていたことに加え、課題としていた導入後の維持・運用管理が現場で可能ということでした。我々の取組みを助けてもらえる技術がここにありました」(松下氏)

アズビルは、2019年3月にBiG EYESの製品説明を実施。2020年2月に和歌山工場でPoC(Proof of Concept:概念実証)を開始しました。

「和歌山工場には非常に多くのバッチプラントがあり、品種数も多く、それらを監視するには高度な技術がオペレータに求められます。一方で自動化によるオペレータ数の減少や世代交代もあり、経験の浅いオペレータが少人数で多くの設備・品種を監視しなくてはならず、大きな心理的負担がかかっていました。BiG EYESを現場で活用できればトラブルを未然に防げる上、オペレータが運転監視をする際の負担を減らし、安全第一の実践に集中することができると感じました」(菅氏)

和歌山工場では、バッチプロセスにおいてBiG EYESが想定どおりに現場の持っている課題を解消できるか、今後も継続して使い続けられるかといった検証を経て、2020年6月にBiG EYESの導入をスタート。システムの導入、運用を円滑に進めていくためのプロジェクトが発足しました。

「プロジェクトは、BiG EYESの活用をベースとした先進的現場業務の実現と操業安定性の向上を念頭に、システム環境の整備、AI監視モデルの作成および運用、さらに工場内のほかのプロセスや国内の他工場、海外生産拠点をも見据えた運用標準の策定といった各領域をリードする人員が招集されました」(田村氏)

監視モデルの作成作業を通じて技術伝承の側面でも多大な効果

コンフィギュレータ(設定)画面を操作し、監視対象に関連するポイントを登録、監視モデルを作成する。BiG EYESは、他社DCSともオンラインで接続し監視を行うことができる。

コンフィギュレータ(設定)画面を操作し、監視対象に関連するポイントを登録、監視モデルを作成する。BiG EYESは、他社DCS※2ともオンラインで接続し監視を行うことができる。

そうした準備を経て和歌山工場では、2020年9月からBiG EYESの試運転を進め、同年12月には本格稼働を開始。現在、3種類の界面活性剤製品の反応プロセスでBiG EYESによる監視が行われ、既に明確な効果が表れています。

従来の監視方法では、警報発報時には既に異常が発生してしまっているという状態でした。これに対しBiG EYESは、多変量時系列パターン分析※1により多様なデータの類似度を時系列的に分析することで、定常時運転からの逸脱を不具合発生前に検知することが可能となり、オペレータの心理的負担も大幅に解消されています。

「いち早い予兆検知は、現場メンバーの間でその原因や対処の検討、議論を行う時間的余裕の確保にもつながります。プロセスの結果だけを見ると気付かない兆候が可視化されるので問題の発生を未然に防いだという事例もあり、そうした議論や検討がメンバー各人の製造プロセスへの理解を深めるという効果も得られています。運転監視業務の在り方を変える『現場で使えるAI』です」(菅氏)

「現場人員の世代交代が進む中で、ベテランから若手への技術伝承が進んだことも大きな成果です。BiG EYESのモデル作成作業を通じて監視業務の棚卸しが行われ、暗黙知化されがちな監視ノウハウを改めて可視化できました。現在は当社運転業務の標準化のブラッシュアップも進めています」(松尾氏)

今後も花王では、和歌山工場内の多種多様な生産プロセスにBiG EYESの適用を進めていくほか、国内の他工場、さらには海外の生産拠点にも今回の監視業務の改善を横展開していきたいとしています。

「今回の導入を通じてBiG EYESは、花王が考えるものづくりの考え方にフィットした有益なソリューションであることが確認できました。花王のものづくりにおいて今後は重要な役割を担っていくことになるでしょう」(木村氏)

※BiG EYESは、アズビル株式会社の商標です。

用語解説

※1 多変量時系列パターン分析(MTSA:Multivariate Time-series Shape Analysis)

ロットごとに繰り返される計測値のトレンドを複数重ね合わせ、時間軸上で同期することにより標準のトレンドパターンを作成。実測値とこの標準トレンドパターンの差異により、プロセス異常や設備の不調を早期に検知するアルゴリズム。

※2 DCS(Distributed Control System)

分散制御システム。プラント・工場の製造プロセスや生産設備などを監視・制御するための専用システム。構成する各機器がネットワーク上で機能を分散して持つことで、負荷の分散化が図れ、安全でメンテナンス性に優れている。

お客さま紹介

花王株式会社 コーポレート戦略部門 先端技術経営改革部 戦略コーディネーター (前和歌山工場長) 松下 芳 氏
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コーポレート戦略部門
先端技術経営改革部
戦略コーディネーター
(前和歌山工場長)
松下 芳 氏
花王株式会社 SCM部門 製造統括センター 基幹技術グループ (電気計装技術) 部長 木村 泰久 氏
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SCM部門
製造統括センター
基幹技術グループ
(電気計装技術)
部長
木村 泰久 氏
花王株式会社 SCM部門 製造統括センター 基幹技術グループ (電気計装技術) 田村 仁 氏
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基幹技術グループ
(電気計装技術)
田村 仁 氏
花王株式会社 SCM部門 製造統括センター 和歌山工場・化学品プロダクション部門 油脂・機能品 エステル 松尾 信吾 氏
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製造統括センター
和歌山工場・化学品プロダクション部門
油脂・機能品
エステル
松尾 信吾 氏
花王株式会社 SCM部門 製造統括センター 和歌山工場・化学品プロダクション部門 油脂・機能品 エステル 菅 啓太 氏
花王株式会社
SCM部門
製造統括センター
和歌山工場・化学品プロダクション部門
油脂・機能品
エステル
菅 啓太 氏

花王株式会社 和歌山工場

  • 所在地/和歌山県和歌山市湊1334
  • 設立/1942年(操業開始 1944年)
  • 生産製品/ファブリック&リビングケア製品、ビューティケア製品、および油脂、機能材料などのケミカル製品

この記事は2021年09月に掲載されたものです。

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