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ウインドチャレンジャープロジェクト

制御技術を活用した新時代の“帆”船で、海運における温室効果ガス排出削減に挑む

商船三井が推進する「ウインドチャレンジャープロジェクト」は、風の向きや強さに応じて伸縮・旋回可能な“帆”を船首に設置し、風力エネルギーを船舶の推進力に利用することで、化石燃料の消費を削減し、商船の燃費改善と環境負荷低減を目指すという取組みです。この温室効果ガス排出量の大幅な削減が期待される同社の革新的なチャレンジは、新聞や雑誌、テレビニュースなどで広く紹介され、海運関係者だけでなく一般の人々からも高い関心が寄せられています。

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環境に優しい海上輸送サービスで持続可能な社会への貢献を目指す

運航隻数にして約800を有する世界最大級の総合海運企業である株式会社 商船三井。石炭や穀物、木材チップなどを輸送するドライバルク船や石油製品を輸送するタンカー、液化天然ガスを輸送するLNG※1船、自動車専用船、電気製品や衣料といった主に雑貨を運ぶコンテナ船など多彩な船種を運航し、海上輸送サービスの提供を通じて、世界経済に貢献しています。

海上輸送という社会インフラを担う同社の最重要テーマの一つが、人・社会・地球のサステナブルな発展を目指した環境領域の施策です。これについて同社では「商船三井グループ 環境ビジョン2.1」を2021年6月に策定。2035年までに、輸送における温室効果ガス(GHG)※2排出原単位を2019年比で約45%削減し、2050年までにグループ全体でネットゼロ・エミッション※3を達成するという目標を掲げています。

「目標達成に向け、実用可能なLNGやバイオディーゼルなどクリーンな代替燃料の積極的活用はもちろん、アンモニアのような次世代燃料の導入に向けた取組みや革新的な省エネ技術の導入にも挑戦しています」(水本氏)

風向や風の強さに応じて帆を制御、風力エネルギーを船の推進力に変換

こうした省エネ施策の一環として、同社が注力しているのが「ウインドチャレンジャープロジェクト」です。同プロジェクトは、大型商船の運航に風の力を利用することで、化石燃料の使用を抑え、環境負荷低減を目指すというもの。船首に設置した伸縮・旋回可能な“帆”を風向や風の強さに応じて制御し、風力エネルギーを補助的な推進力に変換するという取組みです。

「プロジェクト自体は、2009年に立ち上がった東京大学が主宰する産学共同研究の取組みである『ウインドチャレンジャー計画』が前身です。2018年1月から商船三井と株式会社 大島造船所を中心にその研究成果を引き継ぐ形で現在のプロジェクトを発足させました」(水本氏)

その後、プロジェクトの中核技術となる“帆”を両社の協業により開発。大島造船所建造の載貨重量(搭載可能な貨物の重量)約10万tのばら積み貨物船に搭載することを念頭に、GFRP(ガラス繊維強化プラスチック)製の「硬翼帆(こうよくほ)(ウインドチャレンジャー帆)」を完成させました。硬翼帆は4段構造からなり、上3段は油圧シリンダーによる可動式を採用。風の強さに応じて高さを約20~50mの範囲で伸縮させることができる仕様になっています。また、3台のインバータモータと減速機により、右舷、左舷、それぞれ90°ずつ計180°の旋回が可能です。

「運航時、最大の推進力が得られるように、時々刻々と変化する風向・風力に応じて、硬翼帆の伸縮・旋回を航行中に制御していきます。しかし、それを乗組員が都度判断して人手で行うというのは、技術的にも作業的にも大きな負担が伴うため、硬翼帆の動作はすべてシステムによる自動制御で行うことを当初から決めていました」(水本氏)

制御システムの導入にあたり同社が相談したのがアズビル株式会社でした。

「アズビルには、商船の中でも特に難易度が高く信頼性が必要なLNG船の機関部・荷役部の制御システムを担当してもらってきたという経緯があり、そうした実績に裏付けられた高度な技術力を高く評価していました」(水本氏)

今回新たな取組みとなった硬翼帆。プロジェクトにはアズビルも参画し、硬翼帆にはazbilロゴも掲出されている。

今回新たな取組みとなった硬翼帆。プロジェクトにはアズビルも参画し、硬翼帆にはazbilロゴも掲出されている。

第1号船が構想13年を経て竣工、新たな“帆”船時代の幕が開く

これを受けてアズビルでは、ウインドチャレンジャー計画の取組みを通じて確立されていた硬翼帆の伸縮・旋回にかかわる制御ロジックを、船舶用統合制御システム(Integrated Automation System:IAS)としてアズビルの協調オートメーションシステムHarmonas-DEO™に実装。硬翼帆という新技術を搭載した運航に、制御面から参画しました。

「船舶向けシステムの領域での経験も豊富なアズビルによる制御システムには、乗組員の誤操作の発生を確実に防ぐという思想が徹底されており、最も重要な船の航行の安全性という観点でも心強い制御システムが実現できたと考えています」(水本氏)

こうした硬翼帆を適正に制御するシステムに加えて、今回アズビルではHarmonas-DEOで収集した風向・風力などのデータを、最適航路の選定を支援するウェザールーティングシステムと連携するという仕組みも構築しました。

「一般にウェザールーティングシステムでは、航海中の気象や海象を予測し、到着時間や安全性も考慮して最適経路を割り出しますが、さらに航行中の船自体を取り巻く風や波浪、潮流のデータを加えて、燃費を最適化できる航路をガイドできるような仕組みを実現しています」(水本氏)

これら硬翼帆およびそれを制御するシステムは2022年2月に完成し、その後の陸上試験で風向・風力の変化に応じて帆が適正に伸縮・旋回することが確認されました。同年9月中旬の帆走試験を経て、10月に硬翼帆を搭載した第1号船が竣工。東北電力株式会社の石炭輸送船として運航を開始しました。

商船三井では、硬翼帆1本を搭載することで、従来の同型船と比較して、日本-豪州航路で約5%、日本-北米西岸航路で約8%のGHG排出抑制を実現できると試算しています。また、クリーンな代替燃料の活用など、ほかの省エネ技術との“足し算”による効果を享受できる点も大きな魅力です。既に、硬翼帆を搭載した第2号船の準備も着々と進められています。

「今後、硬翼帆が、大島造船所で建造される当社の船だけではなく、ほかの様々な船にも搭載されるようになり、持続可能な社会の実現を念頭に、『“帆”のない船は時代遅れ』と言われる時代の到来を期待しています。アズビルとは、そうした将来に向けて、今後も強固なパートナーシップを堅持していければと考えています」(水本氏)

操舵室に設置されたIAS(Harmonas-DEO)。風の状態から自動制御された硬翼帆の状態をリアルタイムに確認できる。緊急時などはオペレータからの操作も可能となっている。

操舵室に設置されたIAS(Harmonas-DEO)。風の状態から自動制御された硬翼帆の状態をリアルタイムに確認できる。緊急時などはオペレータからの操作も可能となっている。

船内の食堂・歓談スペースであるOfficer's Messroomに設置された大型モニタ。Harmonas-DEOで制御している硬翼帆の状態が表示され、同室を訪れるゲストなども操舵室と同様に硬翼帆の状態を確認することができる。

船内の食堂・歓談スペースであるOfficer's Messroomに設置された大型モニタ。Harmonas-DEOで制御している硬翼帆の状態が表示され、同室を訪れるゲストなども操舵室と同様に硬翼帆の状態を確認することができる。

※Harmonas-DEOは、アズビル株式会社の商標です。

用語解説

※1 LNG(Liquefied Natural Gas)

液化天然ガス。天然ガスをマイナス162℃まで冷却して液化させたもの。

※2 温室効果ガス(GHG)

大気圏にあって、地表から放射された赤外線の一部を吸収することにより、温室効果をもたらす気体の総称。

※3 ネットゼロ・エミッション

温室効果ガスの排出量を正味(=ネット)ゼロにすること。カーボンニュートラルとほぼ同義であり、排出量をゼロにするのではなく、排出量から吸収量と除去量を差し引いた合計をゼロにすることを意味する。

 

お客さま紹介

株式会社 商船三井 技術革新本部 技術部 ゼロエミッション技術革新チーム サブチームリーダー 水本 健介 氏
株式会社 商船三井
技術革新本部
技術部
ゼロエミッション技術革新チーム
サブチームリーダー
水本 健介 氏

ウインドチャレンジャープロジェクト

株式会社 商船三井

  • 所在地/東京都港区虎ノ門2-1-1
  • 設立/1942年12月28日
  • 事業内容/ドライバルク船、タンカー、LNG船、自動車専用船、コンテナ船などによる海上輸送事業、海洋事業、港湾・ロジスティクス事業など

この記事は2022年11月に掲載されたものです。

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