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日本製紙石巻エネルギーセンター株式会社 石巻雲雀野発電所

安定した稼働が求められる発電プラントを
AIを活用した異常予兆検知システムが支える

特定規模電気事業者に向けた電力供給事業を展開する日本製紙石巻エネルギーセンターでは、運営する発電プラントでの設備トラブルを機に、想定外の事態も未然に防止することができるような仕組みの整備を検討。異常予兆検知システムのスピーディな導入を実現し、ベンダーを超えた他社DCSとのシステム連携により一元監視体制を可能にしています。

工場・プラント分野 電力・ガス 安全・安心 安定稼働 稼働改善 クラウド・IoT・AI 運転監視・制御システム&ソフトウェア コントロールバルブ(調節弁)/操作端

異常予兆検知システムの導入で、想定外のトラブルも未然に防止

2015年5月に設立された日本製紙石巻エネルギーセンター株式会社では、日本製紙株式会社の石巻工場が保有する雲雀野(ひばりの)用地内に発電プラントを立ち上げ、2018年3月から特定規模電気事業者※1に向けた電力供給事業を開始しています。同プラント最大の特徴は、約30万世帯分の電力使用量に相当する14万9,000キロワットの発電量を誇りながら、間伐材などの未利用木材を活用した木質バイオマスと石炭を燃料として混ぜて使い、木質バイオマス燃料※2を最大30%(熱量ベース)まで混焼できる、再生可能エネルギーを活用した発電所です。電力の安定供給とともに、地球温暖化防止や未利用木材の調達による林業の振興をも念頭に置いて社会に貢献しています。

電力事業者にとっては、滞ることのない電力供給こそが最重要のミッションとなりますが、同プラントでは2019年3月に発生した設備トラブルにより、操業が一時停止してしまう事態が発生しました。

「トラブル発生時には、直ちに設備面での処置を行い、原因を解消することがもちろん必要ですが、これらのトラブルが発生する前に、想定外のものも含めて未然に防止していけるような仕組みを整える必要があると考えました」(熊谷氏)

同社はこの3~4年前からAI(人工知能)を利用した異常検知システムのスタディを続けており、これを機会に本格的に異常予兆検知システム導入に向けた検討を開始しました。

スピード感のあるシステム導入と豊富な実績が製品選定の決め手に

オンライン異常予兆検知システムBiG EYESでボイラータービンの運転を監視している画面。閾値(しきいち)内に収まっており安定して稼働していることが分かる。

オンライン異常予兆検知システムBiG EYESでボイラータービンの運転を監視している画面。閾値(しきいち)内に収まっており安定して稼働していることが分かる。

異常予兆検知システムの選定に際して、同社は二つの要件を掲げました。一つは、同社が既存で運用している他社製のDCS※3監視画面上に予兆検知の警報を発報することで、オペレータが対応できること。二つ目は、2019年10月に予定される定修※4の直前、つまり9月末までに導入を完了させることでした。これらを基に各社のシステムを検討した結果、同社は2019年6月にアズビル株式会社の提供するオンライン異常予兆検知システムBiG EYES™の採用を決定しました。

BiG EYESは、AIを活用することでいつもと異なる動きを予兆の段階で検知し、通常のDCSでの監視では捉えられないプラント異常の予兆を早期に通知。現場が時間の余裕を持って対処していくことを可能にするシステムです。アズビル以外の他社DCSとの間でもOPC※5を介して相互にデータを送受信できるため、オペレータはDCSでの一元管理が可能です。そして、システム導入に際してのカスタマイズやソフトウェア開発の必要がなく、プロセス監視用として完成度の高い汎用(はんよう)パッケージ製品として提供されていることからスピーディな導入が可能でした。

「候補に挙がった異常予兆検知システムの多くは、あくまでも現場の要求に合わせてシステムを作り込んでいくというタイプのもので、我々が求める期日までに導入を終えることは困難でした。そうした意味でアズビルのスピード感は大きな決め手となりました」(熊谷氏)

「アズビルには長年にわたる製品導入・保守などを通して信頼感がありました。それに加えて営業担当者、技術担当者による運用提案は非常に納得感のあるものでした。さらに、様々なプラントにおける事例が豊富だったことも採用を大きく後押ししました」(土屋氏)

60モデルを実装した運用を通じ、ノウハウが着実に蓄積される

BiG EYESでは、過去のプロセスデータから正常な振舞いを学習した監視モデルを作成し、そのモデルを用いることで、異常の予兆を早期に検知し、オペレータに通知します。導入に先立ち、同社では現場オペレータを含む3人が、BiG EYESに実装する監視モデル作成のトレーニングを3日間にわたって受講。その後、自社でモデル作成を進め、2019年10月のシステムの稼働開始までには9個の監視モデルを準備しました。さらに異常予兆検知システム稼働開始後にも、モデルを順次追加。今日までに給水流量管理や排ガス(SOx)濃度管理など、計60の監視モデルがオンラインで運用されています。

「モデル作成の際は、現場の熟練者に設備やプロセスの詳細を確認しながら行いました。モデルの作成・チューニングにおいてもメーカーへ対応を依頼することなく、自身で対応できる点はスムーズな運用やコスト面でもメリットがあります」(土屋氏)

「アズビルにはシステム導入以降も月1回のペースで5回にわたり、技術支援に出向いてもらいました。過去1カ月に我々が作成したモデルに対する実運用結果を踏まえ、その内容を評価し、改善に向けたアドバイスをしてもらうという取組みです。そうした支援を経て、我々のモデル作成に関するノウハウが着実に蓄積され、モデルの完成度を高めていくことができました」(熊谷氏)

既に同社では、BiG EYESによる異常予兆検知の成果も上がりつつあります。

「運用が始まった当初は、なぜその警報が発せられたのか分からないこともありました。実はそれが、その後に別の監視ポイントで発せられた警報に関係しているということが分かったのです。BiG EYESでの運用を続ける中で、DCSでは検知できないプラント異常の予兆や警報、各監視ポイントの関連性が把握できるようになり、オペレータからのBiG EYESの警報に対する信頼感が上がりました。次に同じ警報が発報した場合はすぐに対応が取れるようになっています」(土屋氏)

今後も日本製紙石巻エネルギーセンターでは、BiG EYESによる異常予兆検知にかかわる知見を積み重ね、実運用を通してモデル自体のブラッシュアップを行い、検知精度をさらに上げていくなどの取組みを通じて、想定外のものも含めてトラブルが発生する前に未然に防止できる体制を強化していく予定です。

一方、現在モデル作成を担当している人員が異動した場合に備えて、各モデルの仕様やパラメータの変更履歴などをまとめた台帳を作成するなど、円滑な引継ぎを常に意識して準備を進めています。

「今まで気づかなかった、何かおかしいというものを教えてくれる仕組みは、これまでにない画期的なものです。当社ではBiG EYESの運用や技術面での支援に大きな価値を感じています。この技術支援を継続的に受けられるよう、アズビルとの特別保守契約を締結しました。その枠組みの中で、人材育成という視点でのサポートについても大いに期待しているところです」(熊谷氏)

コンフィグレーション(設定)画面で、監視対象に関連するポイントを登録し監視モデルを作成する。

コンフィグレーション(設定)画面で、監視対象に関連するポイントを登録し監視モデルを作成する。

タービンのシーリング蒸気弁をコントロールするスマート・バルブ・ポジショナ  300シリーズ。

タービンのシーリング蒸気弁をコントロールするスマート・バルブ・ポジショナ 300シリーズ

※BiG EYESは、アズビル株式会社の商標です。

用語解説

※1 特定規模電気事業者

既存の大手電力会社以外で、特定規模の大口需要家に対して電気の供給を行う。2000年に改正された電気事業法による電力自由化に伴い新規参入した電気事業者。

※2 バイオマス燃料

動植物が持つエネルギー(生物資源)を利用した燃料のこと。石油燃料に代わる資源として注目されており、サトウキビやトウモロコシを発酵させて造るバイオエタノール、木のくずやわら、動物のふん、食品の生ゴミなどがある。

※3 DCS(Distributed Control System)

分散型制御システム。プラント・工場の製造プロセスや生産設備などを集中管理するための専用システム。構成する各機器がネットワーク上で機能を分散して持つことで、負荷の分散化が図れ、安全でメンテナンス性に優れている。

※4 定修

各種生産施設やプラントで定期的に実施される大規模な点検・修理作業。定期修繕。

※5 OPC(OLE for Process Control)

サービス指向アーキテクチャ(SOA)をベースに、マルチベンダー製品間でのプロセスデータやアラーム、履歴データなどの交換をWindows上で可能にするための標準規格。

 

お客さま紹介

日本製紙株式会社 石巻工場 原動部長代理 兼 発電課長 熊谷 敦弘(くまがい あつひろ)氏
日本製紙株式会社
石巻工場
原動部長代理
兼 発電課長
熊谷 敦弘(くまがい あつひろ) 氏
日本製紙株式会社 石巻工場 原動部 土屋 孝道(つちや たかみち)氏
日本製紙株式会社
石巻工場
原動部
土屋 孝道(つちや たかみち) 氏

日本製紙石巻エネルギーセンター株式会社 石巻雲雀野発電所

日本製紙石巻エネルギーセンター株式会社
石巻雲雀野発電所

  • 所在地/宮城県石巻市雲雀野町2-15-4
  • 設立/2015年5月
  • 事業内容/発電設備の運転・管理および電力の卸供給販売

この記事はazbilグループのPR誌azbil(アズビル)の2020 No.5(2020年12月発行)に掲載されたものです。

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