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静岡市 西ケ谷清掃工場

清掃工場の発電プロセスで調節弁稼働データを活用し、制御の安定性を大幅に改善

地域で収集される家庭ごみを高温溶融処理により再資源化し、さらに溶融時に発生するガスを利用して電力を生み出す発電所としての役割も担う静岡市 西ケ谷清掃工場。同工場では、発電のための熱利用プロセスにおける温度の調整に大きな人的負荷がかかっていました。制御にかかわるスマート・バルブ・ポジショナを導入して調節弁の状態の可視化を図り、稼働データを制御調整に役立てることで、変動の激しかった温度を安定させることができました。その結果、発電効率の向上も実現しています。

工場・プラント分野 その他(市場・産業) 安定稼働 稼働改善 メンテナンスサポート クラウド・IoT・AI 運転監視・制御システム&ソフトウェア

発電プロセスにおける、変動が大きい温度の調整が課題に

南アルプスと駿河湾に囲まれ、古くから政治、経済、文化の要衝として栄えてきた政令指定都市、静岡県静岡市。同市葵区にある西ケ谷清掃工場は、主に市内南西部の家庭から排出されるごみを受け入れて高温溶融処理を行い、ごみの再資源化を進めています。一方で、ごみ処理の過程で発生する排ガスを再利用し発電する発電所としての役割も担っており、地産地消電源として同清掃工場をはじめとする小学校などの市有施設に供給しています。

「ごみの再資源化については、ごみ処理過程で生成される砂状の廃棄物『溶融スラグ※1』を農業用肥料としてリサイクルする研究に産学官連携で取り組み、2022年3月には農林水産省からその品質の安全性と供給の安定性が認められ、全国で初めて農業用肥料として本登録されました」(山本氏)

先進的な取組みを行う西ケ谷清掃工場では、工場の操業改善も積極的に進めており、そんな中で目指したのが発電における熱利用プロセスの制御性の改善でした。ガス化溶融炉内でごみを高温溶融処理した際に発生する熱分解ガスを燃やし、その熱をボイラで回収して約400℃の蒸気を生成し、タービンを回して発電しています。このボイラは、「電気事業法」により、2年に1度の定期事業者検査が義務付けられていますが、例えば大地震が発生するなどの非常時には、最大3カ月まで検査時期を延長することが認められています。ただし、通常操業時に既定の温度に対しプラス28℃の許容値を1回でも超えてしまうと、検査時期延長の対象から外れてしまいます。

「DCS※2で400℃を維持する制御をしていますが、ごみ処理施設特有のごみの不均一に起因する変動が大きい温度変化が避けられません。PID制御※3ではなかなか設定値に追いつかない場面がたくさんあり、428℃を超えることがないよう、ボイラの温度を一定に保つための過熱低減器の温度制御をオペレータが常に監視し、手動による温度調整の介入を行っていました。人的作業負荷に加え、制御にかかわる調節弁にも高い負荷がかかっている状況でした。また、温度が変動することは、発電効率低下の要因ともなっていました」(山本氏)

電子式ポジショナへの置き換えで、温度の安定性が向上することを確認

そこで静岡市では、同工場の操業を委託している日鉄環境エネルギーソリューション株式会社に相談したところ提案されたのが、調節弁に取り付けられていた機械式のポジショナをアズビル株式会社の電子式のスマート・バルブ・ポジショナへと更新し、同時に調節弁メンテナンスサポートシステムPLUG-IN Valstaff(以下、Valstaff)で各調節弁の状態や動作状況をリアルタイムで監視し、制御に反映させていくというものでした。

「日鉄環境エネルギーソリューションでは以前から、複数事業所でアズビルのポジショナとValstaffを試験的に運用し、調節弁の稼働データを制御に活用することができないか検証を進めていました。静岡市から相談を受けたのは、ちょうどその有効性が明らかになってきたタイミングで、課題の解決になり得ると考え、まずは半年間の試験的な導入を提案しました」(川野氏)

西ケ谷清掃工場で試験運用を行った結果、ポジショナの置換えだけで温度の変動が大幅に改善したことが確認できました。

スマート・バルブ・ポジショナの導入により、DCSからの制御指令に対して調節弁の動作の追従性が高まり、即応性が確認できました。これによりオペレータの負担になっていた温度のブレがほとんど発生しなくなりました」(泉氏)

この効果を受けて西ケ谷清掃工場では、2023年12月に温度制御が難しい発電プロセスの「主蒸気」の系統を中心にスマート・バルブ・ポジショナ5台とValstaffの本格導入を決定しました。

Valstaffの画面で主蒸気温度調節弁のスティックスリップ*5診断パラメータをグラフで確認できる

Valstaffの画面で主蒸気温度調節弁のスティックスリップ※5診断パラメータをグラフで確認できる

調節弁の状態に応じた保全により、メンテナンスコストを削減

西ケ谷清掃工場は、本格導入により、想定以上の効果を得ています。 「導入前は、オペレータが1時間に数回は手動で温度を調整する必要がありましたが、今では1日に数回程度、予防的に操作するという状態で運用しています」(山本氏)

オペレータの作業負荷が削減されただけでなく、温度の変動を抑制できたことにより発電効率の向上にもつながりました。さらに、Valstaffで各調節弁の稼働状況が可視化されたことで、PID制御などの見直しにも大きく役立っています。

「DCSで設定値を変えたときにも、そのPID制御の変数の適合性の可否を、Valstaffで可視化された調節弁のデータから判断できます。これにより温度の変動が生じない適正な値を速やかに制御に適用できるようになりました」(本松氏)

また静岡市では、Valstaffと併せてWeb上で調節弁の診断結果が確認できるDx※4 Valve Cloud Service を導入しました。調節弁から収集した情報を基に作成されたレポートで、いつでも、調節弁ごとの健全性を把握することが可能になりました。これらの情報は今後のメンテナンス計画に活用していく予定です。

「オーバーホールの実施計画や予算計画も立てやすくなりました。当工場では、定期点検・修繕を毎年実施しており、調節弁を分解し点検を行う開放点検を2年に1度といった定期的なサイクルで行ってきました。しかし、調節弁を分解してみると問題がないものも多いのが実態です。今後はValstaffから得た調節弁のレポートを基に適正なタイミングで開放点検を実施することができます。つまり、故障の有無に関係なく定期的にメンテナンスする時間基準の保全(TBM:Time Based Maintenance)から、劣化状況に応じてメンテナンスする状態基準の保全(CBM:Condition Based Maintenance)への移行が可能となり、これによるコスト削減も見込まれます」(山本氏)

西ケ谷清掃工場では、今後、同様の仕組みを溶融燃焼処理にも展開することで、エネルギーの最適化を目指した制御を実現してきたいと考えています。

スマート・バルブ・ポジショナの実装を可能とする調節弁の種類を増やすなど、アズビルには今後も、製品・サービスの付加価値向上を大いに期待しています」(川野氏)

発電用タービンを回すための蒸気に対し、水を投入して温度制御を行う他社製の調節弁に装備されたスマート・バルブ・ポジショナ

発電用タービンを回すための蒸気に対し、水を投入して温度制御を行う他社製の調節弁に装備されたスマート・バルブ・ポジショナ

※Valstaffは、アズビル株式会社の商標です。

用語解説

※1 溶融スラグ

廃棄物を約1700度以上の高温に保った炉の中で溶融し,これを空気中や水中で冷却固化して得られるガラス状生成物。廃棄物を焼却した場合の半分近くまで容積を減らせ、最終処分場の延命化を図ることができる上、極めて高い温度で行われるためダイオキシン類が分解され、重金属類もほとんど残らず安全性が高い。一定の基準に適合すれば土木資材などの用途に再利用することも可能。

※2 DCS(Distributed Control System)

プラント・工場の製造プロセスや生産設備などを監視・制御するための専用システム。構成する各機器がネットワーク上で機能を分散して持つことで、負荷の分散化が図れ、安全でメンテナンス性に優れている。

※3 PID制御

フィードバック制御の基礎的な手法であり、入力値の制御を出力値と目標値との偏差、その積分、および微分の三つの要素によって行う方法。

※4 Dx

「Dx」とは医療分野で診断を意味する、「Diagnosis(診断)」の略称。バルブの健康状態を把握し、お客さまにバルブを常に安全にお使いいただくことをこの言葉に込めています。

※5 スティックスリップ

弁軸の摺動が固着(スティック)と急作動(スリップ)を繰り返す現象。

 

お客さま紹介

静岡市 環境局 廃棄物処理課 西ケ谷清掃工場 工場長 山本 武則 氏
静岡市 環境局
廃棄物処理課
西ケ谷清掃工場
工場長
山本 武則 氏
日鉄環境エネルギーソリューション株式会社 設備管理部 設備技術室 川野 隆一 氏
日鉄環境エネルギーソリューション株式会社
設備管理部
設備技術室
川野 隆一 氏
日鉄環境エネルギーソリューション株式会社 操業技術部 操業技術室 本松 侑花 氏
日鉄環境エネルギーソリューション株式会社
操業技術部
操業技術室
本松 侑花 氏
日鉄環境エネルギーソリューション株式会社 中部支社 静岡事業所 所長 泉 信一郎 氏
日鉄環境エネルギーソリューション株式会社
中部支社
静岡事業所
所長
泉 信一郎 氏

静岡市 西ケ谷清掃工場

静岡市 西ケ谷清掃工場

  • 所在地/静岡県静岡市葵区西ケ谷553
  • 竣工/2010年3月
  • 操業内容/ごみの溶融処理、再資源化、発電

日鉄環境エネルギーソリューション株式会社

  • 所在地/福岡県北九州市戸畑区大字中原46-59
  • 設立/1994年4月
  • 営業内容/廃棄物の処理施設、資源化施設などの環境施設の運転・管理など

この記事は2025年02月に掲載されたものです。

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