公益財団法人 実験動物中央研究所
高度な風量・室圧制御システムの構築により、
消費電力削減と最先端の医学研究環境を実現
実験動物の開発を中心とした取組みを通して、世界の医学研究の発展に貢献する実験動物中央研究所では、施設移転を契機に動物飼育・実験エリアの空気環境についての室圧維持と省エネルギーを両立させる空調設備を導入。風量制御コントローラ付きベンチュリーバルブを中核としたシステムにより、室圧を一定に維持しながら柔軟に換気回数の変更が行える仕組みを実現しました。

公益財団法人 実験動物中央研究所
建物分野 研究所 安全・安心 省エネルギー コスト削減 安定稼働 メンテナンスサポート 中央監視システム 研究施設向け風量制御システム 総合ビル管理サービス
導入製品・サービス
施設移転を契機として、より高度な空調制御を目指す
公益財団法人 実験動物中央研究所は、1952年の設立以来、60年にわたって均質で再現性ある実験動物の開発、および動物を用いた試験法を一連のシステムとして構築。その取組みを通して、世界の医学研究の発展を支え、人々の健康と福祉の向上に貢献しています。同研究所の開発した実験動物には、ポリオ(小児まひ)生ワクチンの安全性評価に用いるポリオマウスをはじめ、ヒトの細胞や組織などを体内に移植できる超免疫不全マウス※1、発がん性試験に用いられる遺伝子改変マウスなどがあります。こうした実験動物が日本、そして世界に向けて供給されることで、がんや白血病、エイズなど、人間の病気についての治療法の研究や新薬開発に向けた可能性を開いています。
2011年7月、川崎市の内陸部にあった旧施設から、羽田空港対岸の国際戦略総合特区※2として2011年12月に認定された川崎市臨海部に移転。延床面積11,500m²を誇る新施設に活動の場を移しました。
「今回の移転は、先進領域の医学研究者をはじめ、製薬・医療機器・食品関連企業やベンチャービジネスなど、幅広い分野との協同により新たな産業基盤技術を創造し、日本の競争力の向上に寄与していくことを念頭に据えたものです。新施設の開所に当たっては、さらに高品質な研究を行うための実験動物の飼育や作業環境の大幅な改善を目指し、最先端の飼育器材に加え、最新の空調設備の導入に取り組むことにしました」(野村氏
「特に空調に関して重要なテーマとなったのが、エネルギー使用量の課題でした。これまで動物飼育や実験のためのエリアにおいては、空気の清浄度を保つために24時間一定風量で1時間当たり15回の換気を行うのが標準的な運用となっており、一般的なオフィスビルに比べて多くの電力が必要となっていました。何とかその削減が図れないものかと考え、新施設の設計を委ねていた千代田テクノエースに検討を依頼しました」(齋藤氏)
ソリューションの先進性がパートナー選定の決め手
千代田テクノエース株式会社では、世界の事例なども参照しながら対策を検討。実験動物中央研究所の要請に応えるためには、「デマンド・コントロール・ベンチレーション」という、動物飼育室の使用状態や空気の汚れ具合など、その時々の室内状況に応じて、適切な量の換気を行うといった、近年欧米で提唱されている手法を採用することが最善策であると判断しました。また一方で、動物飼育および実験を行うエリアでは、微生物の侵入による動物への感染を防ぎ、空気の清浄度を維持するため、室内を常に陽圧に保つ必要があります。無造作に換気風量を変えると室圧が乱れてしまうため、従来では、換気風量を変更する場合には専門の設備業者が数日間かけて風量の再調整を行うという例もありました。人的労力がかかるとともに、室内状況に応じて頻繁に換気風量を変更するということが現実的ではありませんでした。
これらの対策として、千代田テクノエースが採用したのが、アズビル株式会社の風量制御コントローラ付きベンチュリーバルブInfilex™VNと、建物管理システムsavic-net™FXでした。
「アズビルでは、給排気を連動させた風量体積制御に室圧補正制御を加えて、常に室圧を一定に維持しながら、ユーザーが設定した換気回数に自在に変更できるソリューションとノウハウを持っています。そうした技術が、アズビルをパートナーに迎える決め手となりました」(村木氏)
Infilex VNとsavic-net FXのシステムを統合することで、単なる建物管理にとどまらず、飼育室の温度、湿度、換気回数、室圧などの、研究に直結する環境をユーザーが設定・確認することにも役立っています。
併せて、アズビルの提供する総合ビル管理サービスBOSS-24™※3を採用。建物全体の設備の制御・監視を行っているsavic-net FXを、アズビルが運営管理を行うBOSSセンターに接続しました。遠隔による制御・監視を実施し、24時間稼働を続ける施設の管理に万全の体制を整えるとともに、夜間・週末の施設管理における省力化を実現しました。

動物飼育・実験エリアに設置されたsavic-net FXから、ユーザーが飼育室ごとに換気回数を自在に設定変更したり、室内の環境を確認できるようになっている。

カードリーダーによる動物飼育・実験エリアの入退室管理もsavic-net FX セキュリティシステムで行っている。
実験動物のパイオニアとして、
空調設備のあるべき姿も研究テーマに

動物飼育・実験エリアの外周廊下に設置されているInfilex VN。動物飼育室の各部屋単位にInfilex VNを設置し、給排気を連動させた風量体積制御と室圧補正制御を行っている。
以上のような経緯を経て、実験動物中央研究所の新施設には、動物飼育・実験エリアに全面的にInfilex VNが導入され、システムの運用がスタートしています。
「練炭をたいて飼育室を暖房していた時代から比べると空調設備も随分と進歩したと感じています。現在では専門的になり過ぎて難しい側面もありますが、飼育室の環境を左右する空調設備については、『専門業者に任せきりにせずに自分たちでもある程度の保守管理ができるように』と所員には教育しています。また、実験動物のパイオニアとして、飼育器材や空調設備について先進的な方式を追究していくことも、我々の使命の1つであると捉えています。現在、各エリアの換気回数の設定については、様々な条件を考慮して最適な値を検討しているところです。例えば、毎時12回の換気量を毎時6回に減らすことができれば、消費電力も大幅に削減できるものと期待しています。何よりも、今回の施策によって、空調設備や飼育室の運用における柔軟性が得られたことは、我々にとって大きな成果であると考えています」(齋藤氏)
今後、実験動物中央研究所では、本格的な省エネ効果を追求していく一方、さらに高度な制御の実現をも見据えています。
「現在のところ、ユーザー自身が換気回数を設定・変更入力するという形を取っていますが、将来的には自動で最適な換気量に制御するようなシステムの構築も目指していければと考えています」(須藤氏)
「そうした将来像も踏まえ、アズビルには持ち前の計測・制御にかかわる高度なノウハウをベースに、当施設における実験動物の飼育、研究活動という極めて厳密な制御が求められる環境を適正に維持していくためのさらなる提案を大いに期待しています」(野村氏)
用語解説
※1 超免疫不全マウス
異物の排除能力(免疫)がないため、ヒトの細胞を体内に移植するとマウスの体内でヒトの細胞や組織が定着する。無菌状態で飼育しないと細菌やウイルスの感染ですぐに死亡してしまうため、厳密な飼育管理が求められる。
※2 国際戦略総合特区
政府が掲げる新成長戦略の実現に向けた政策課題解決のために設けられている総合特区制度において、我が国の経済成長のエンジンとなる産業・機能の集積拠点として認定されている地域。
※3 BOSS-24
建物の総合管理・保全を行うサービス。現場に設置されたsavic-netとアズビルのBOSSセンターを通信回線で結び、建物設備に精通した技術者が24時間・365日の遠隔監視・制御を実施。また、技術者を現場に常駐させるという拡張サービスも提供されている。
お客さま紹介

専務理事
副所長
野村 龍太氏

基盤技術研究センター長
兼 飼育技術研究室長
参与
齋藤 宗雄氏

取締役
プロジェクト本部
本部長
須藤 芳彦氏

設備・電気本部
建築設備部
課長代理
村木 淳也氏
公益財団法人 実験動物中央研究所

公益財団法人 実験動物中央研究所
公益財団法人 実験動物中央研究所
- 所在地/神奈川県川崎市川崎区殿町3-25-12
- 設立/1952年5月
- 事業内容/実験動物の開発およびそれを用いた試験法に関するシステムの構築
設計・施工・監理:
- 千代田テクノエース株式会社
協力会社:
- 建築/大成建設株式会社
機械設備/株式会社大気社
電気設備/株式会社トーエネック 他
管理:
- 物産不動産株式会社
物産プロパティマネジメント株式会社
この記事はazbilグループのPR誌azbil(アズビル)の2012年05月号に掲載されたものです。