小型集中管理パネル SmartScreen
兵衛向陽閣
最新の高効率機器の導入により、温泉旅館の空調・給湯にかかわる省エネルギーを強化
有馬温泉の老舗旅館として、全国からの宿泊客でにぎわう兵衛向陽閣。同旅館では、施設内の空調・給湯設備の老朽化に伴い、省エネ対策を兼ね備えた設備更新の検討に着手しました。補助金を活用した計画とし、空調熱源・給湯の基幹設備を高効率の最新機器に置き換えた結果、投資コストの大幅な圧縮の実現と計画値を大きく上回る省エネ効果が見込まれています。

兵衛向陽閣
建物分野 ホテル 快適 省エネルギー コスト削減 安定稼働 老朽化対策 中央監視システム 建物のエネルギーマネジメント
導入製品・サービス
20~40年を経て老朽化した設備が省エネ対策の障壁に

管理室に設置されたSmartScreen™。この画面上から、旅館全体の設備の状態を確認することができる。また、アズビルのデータウェアセンターと接続し、設備の運用データを収集・解析を行っており、さらなる省エネ施策や運用の検討に有効活用されている。
日本三古湯、日本三名泉に数えられる有馬温泉。古くから関西の奥座敷として、訪れる人々の心身を癒やし、明日への活力を満たしてきました。鉄さびを溶かしたような独特の赤茶色をした「金泉(きんせん)」が楽しめる大浴場「一ノ湯」「二ノ湯」「三ノ湯」など、同温泉地でも最大級の温泉施設を有する兵衛向陽閣(ひょうえこうようかく)は、創業以来700年を誇る老舗旅館です。長い歴史を通じて、常に「おもてなしの心」を大切にしながら、日本旅館ならではのホスピタリティあふれるサービスを提供してきました。
西館、南館、北館の3棟に135の客室を有し、年間で10万人を超えるお客さまを迎える同旅館は、第2種エネルギー管理指定工場に指定されており、省エネ活動を継続的に行っています。その1つとして、最近まで有馬温泉には、都市ガスが供給されておらず、主な燃料として重油やプロパンガスが用いられていましたが、兵衛向陽閣では2009年に有馬温泉の中でいち早く都市ガスを導入。給湯、空調用のボイラについて重油から都市ガスへの燃料転換を実施し、CO2排出量削減を図ってきました。
「旅館の中で大きなエネルギーを消費するのは、全部で12ある浴槽と厨房の給湯、3つある客室棟の空調です。これらの設備は導入から既に20~40年を経過し老朽化していたため、曜日やシーズンによって大きく変動するお客さまの利用状況に制御性・効率性の面で追従するのが難しい状況となっており、省エネ化を進める上で大きな障壁となっていました」(風早氏)
省エネ効果の算定に関する信頼性の高さが選定のポイント

今回導入されたヒートポンプ給湯器。安価な深夜電力を利用して蓄熱を行う。旅館は夕方にエネルギー消費のピークを迎えるため、不足分や急激な負荷変動については既設のガス焚き真空温水器で追いかけ運転を行うことができるハイブリッド方式へ更新した。
兵衛向陽閣では、それらの老朽化した空調熱源設備、給湯設備を最新の高効率機器に置き換えることを決定。タイミングよくSII※1が公募するエネルギー使用合理化事業者支援事業があることを知り、当補助事業の採択を目指して省エネ試算、省エネ施策メニューを支援してくれるベンダーの選定に入りました。
「大型の投資になるということから、その費用の1/3が補助される今回の補助事業の申請・採択を必須の要件に据えていました。申請に当たっては煩雑な手続きを行うことになり、その分野でのノウハウを有するパートナーに支援してもらうことにしました」(横井氏)
綿密な検討の結果、兵衛向陽閣はアズビル株式会社をパートナーに迎え、機器のリニューアルによる省エネ施策に取り組むことにしました。
「パートナーの選定に当たっては、いくつかのベンダーに具体的な施策や補助金申請に関する提案を依頼しました。その中で、特にアズビルは補助金申請の可否を決する上で重要なポイントとなる、施策実施後の省エネ効果算定の根拠も詳細かつ明確で、それによって導き出された値は大いに信頼できるものでした。省エネ施策や補助金に関するノウハウが最も豊富だと判断したのがアズビルだったのです」(林田氏)
2011年8月に同旅館の補助金申請の採択が決定し、入札を行った結果、施工をアズビルが担当することに決定。同年10月には工事に着手しました。具体的な工事としては、南館、西館に設置されていた水冷チラーを高効率空冷ヒートポンプチラーに更新。北館の蒸気吸収式冷凍機と蒸気熱交換器をガス吸収式冷温水発生器に置き換えました。特にヒートポンプチラーに関してはモジュール連結型を採用しており、省エネ効果だけではなく、万一モジュールの1つが故障した場合にも他モジュールでバックアップが行えるという安心の確保といった点も考慮されています。
一方、大浴場、厨房用の給湯については、新たにヒートポンプ給湯器を導入しました。安価な深夜電力を積極的に利用し、新設したパネルタンク(貯湯槽)に蓄熱。昼間に放熱運転を行うこととし、急激な負荷変動時は既設のガス焚(だ)き真空温水器で追いかけ運転が行えるハイブリッド方式に切り替えました。既存の設備を有効利用しながら省エネ効果の最大化を図り、関西地区の節電対策も考慮した上で、最大電力を押し上げない最適な給湯設備の構成と運転が可能となりました。
そのほかにも、アズビルの小型集中管理パネルSmartScreen™(スマートスクリーン)も併せて導入。SmartScreenから、今回導入した設備に関する操作、モニタリング、運転データの記録を管理室に居ながら集中的に行えるような仕組みを構築しました。
一連の工事は、補助事業の期限とされていた2012年1月に予定どおり完了させることができました。この工事期間は、秋の紅葉シーズンであり、旅館にとっても重要な繁忙期と重なります。工事に当たっては、宿泊客の予約調整などは一切行わず、通常の営業を続けながら、各館の間で客室の割当てを融通するなどの工夫を行い、お客さまへのサービスを最優先とし、安全かつ安心して実施することができました。

ヒートポンプ給湯器でつくった湯を蓄えておくパネルタンク(貯湯槽)。

高効率空冷ヒートポンプチラー。1つのモジュール内に5つの圧縮機が組み込まれており、万一の障害発生時に対応できる冗長性を備える。
申請時の計画値を上回る省エネ効果が見込まれる
設備更新後、約4カ月間の運用を通して、大きな成果を上げています。
「申請時の省エネ計画は、省エネ率が前年度比7.3%、原油換算にして165キロリットルの削減でしたが、稼働後の実績ではそれを上回る省エネ効果が得られています。年間では200キロリットル近い削減が見込めると考えています」(横井氏)
今後も兵衛向陽閣では、成果を踏まえながらさらなる省エネルギーの追求に向けて、取組みを推進していく構えです。
「今回は、空調熱源設備と給湯設備の基幹システムを更新するという施策でしたが、まだまだ省エネ対策を施さなければならない機器が多く存在しています。それらを順次、高効率な最新機器に置き換えていくという取組みも必要でしょう。さらに、単に設備を置き換えても、日々の運用がしっかりしていなければ、十分な省エネ効果は得られません。そうした意味では、継続的な運用改善にも注力していきたいと考えています」(林田氏)
「省エネルギー、CO2削減は我々企業にとって世界共通のテーマだといえます。アズビルには、省エネルギーに関するその豊かな知見とノウハウに基づく積極的な提案を、今後も大いに期待しています」(風早氏)
用語解説
※1 SII(Sustainable open Innovation Initiative)
一般社団法人 環境共創イニシアチブは、広く環境・エネルギー分野において社会的に必要とされる技術革新を促進し、開かれた論議を行いながら国内の知見を活用して、社会システムやプロジェクトを組成することを目的に設立された法人。「技術の先端性」「省エネルギー効果」「費用対効果」を踏まえて政策的意義が高いと認められる省エネ事業に対して国庫補助金の交付を行っている。
お客さま紹介

代表取締役社長
風早 和喜氏

取締役 管理部長
林田 久利氏

取締役 経理部長
横井 昌太郎氏
兵衛向陽閣

兵衛向陽閣
株式会社 兵衛旅館
- 所在地/兵庫県神戸市北区有馬町1904
- 設立/1937年3月
- 事業内容/政府登録国際観光旅館
この記事はazbilグループのPR誌azbil(アズビル)の2012 Vol.8(2012年10月発行)に掲載されたものです。